え、4章姉妹3、【幸せになる権利】
ある日、俺はニコに愚痴をこぼした。
と言うか、今までの状況を話していたら、いつの間にやら、今の俺の行動理念の話しをしてた。
「おれの人生最悪だ」
「ん? 何故?」
「勇者パーティーから追放された。そこで俺の人生は花も実も散った様に狂ってしまった。葉っぱか、枯れ木みたいな人生さ。だから……」
「だから?」
「だからいっそ、八つ当たりしてやるんだ。世の中の幸せそうな奴をウルトラ上手に焼いてやる」
復讐というよりも八つ当たり。
正当性とか、あんま無いのはわかってる。
でも、おさまらない。
俺は自分でも頭がどうにかしてると思う。
「あのね〜。自分に不幸な事が起きたからと言って、他人に八つ当たりしちゃ駄目。自分が不幸でも、他人を不幸に巻き込んで良い理由にならないよ」
「え……?」
ニコに俺の行動は完全否定された。
その事に俺は戸惑ってた。
どうせ自分が不幸なら、何やっても良いんじゃ無いのか?
俺は何かを間違えていたかな?
「自分が幸せなら他人に幸せを分けてあげる。そんな権利ならあるかもね」
「そだな」
その考えに異論は俺も無い。
「でもね、人間には自分が不幸な時、その不幸を他人に分けてはいけない義務もあるんだよ」
「……」
「貴方が不幸な目にあったのは可哀想。でも……ね。その後の立ち振る舞い、間違って無い? 貴方の行動を他人は見てるよ」
真面目な顔でニコに言われた。
別に他人に、どう思われても構わない。
が……
ニコの目は真っ直ぐ俺を見てくる。
俺は、その目をまともに見れなかった。
たぶん俺が間違ってる。
そんな自覚があるから。
「………………そう、かな?」
「そうだよ。人は前向きな目的や希望を持たなきゃ。後向きだと人生悪くなるし、楽しく無いよ。楽しく無い人には、人は冷たいよ」
「つまりニコは俺に……どうしろ、と?」
俺は馬鹿がする言葉。
それを馬鹿みたいにたずねる。
『俺にどうしろ、と?』
この言葉は本当の馬鹿しか口にしない。
自分勝手で間違ってる馬鹿が、自分の間違いを理解出来ず、更に他人からの遠回しの注意、行動修正をうながす相手の意図すらくめない馬鹿しか口にしない言葉。
『俺にどうしろ、と?』
そんな言葉と知っててなお、俺は口にする
俺が戸惑いと困惑の中にいるからだ。
そんな俺に
ニコは………
「簡単だよ。幸せになれば良いんだよ」
と満面の笑みで言う。
「はぁ???」
俺には訳がわからない。
「自分が幸せになる事が、自分を不幸にした人間に対する1番の復讐になるよ」
「え、え? マジで? 理屈わかんね」
俺には信じられなかった。
そんなの消極的すぎる。
負け犬の発想だと思うんだ。
逃げてるだけじゃん。
もっと加害者に攻撃的にならなきゃ。
積極的に復讐しなきゃ。
復讐者が直接復讐しないでどうするよ?
復讐しなけりゃ人間じゃ無くて加害者の資源に、養分に成り下がる。
俺はそう思ってる。
ソレに……被害者の傷つけられた誇りは、どうなる?
どうやって、誇りを回復させるんだ?
反撃してこそ、傷つけられた誇りは回復するってもんじゃ無いか?
ニコは俺に泣き寝入りしろと?
俺に人間から加害者の資源へ成り下がれと言うのか?
でも、ニコは笑いながら
「良く考えてみて、貴方を不幸にした人間は、貴方から、どんな事されたら嫌がると思う?」
「俺からの嫌がらせ」
「それじゃ駄目だよ。成功してもそれじゃ共倒れになるよ」
「じゃあ、ニコはどうすれば良いと?」
サッパリわからん。
俺は、ますます困惑してた。
「だ〜か〜ら〜。貴方が幸せになるの」
「それの何処が復讐になる?」
「貴方自身がメチャクチャに幸せな姿を、貴方を不幸にした人間に、見せつけてあげるの。それが復讐なの」
(へ? なんだそりゃ?)
俺は拍子抜けする。
「そんな事の何が復讐になる?」
「相手の立場になって考えてみてよ」
「???」
「想像してみてよ。相手からしたら、自分が不幸にした貴方が、いつの間にか人が羨む程、幸せになってたら……」
ん?
……考えてみる。
立場をかえて考えてみる。
自分が追い込んだ奴がメチャクチャ幸せになってたら……
例えば『青の魔法使い』の奴が滅茶苦茶幸せになってたら……
その姿を俺が見たら……
(メッチャ腹立つ)
(なんでアイツが俺より幸せなんだ?
妬ましい。
アイツは俺より下の人間のはずなのに)
そう思った。
思ってしまった。
「めっちゃ腹立つな! それ!」
『青の魔法使い』の前に幸せな俺が現れる。そして全力で煽る。
その姿を想像したら……
思わずテンションが上がる。
言葉に力がこもる。
「でしょう。だからね。他人から不幸にされた人間は、復讐の為に皆、自分自身が幸せにならなきゃいけないの。それが最高の復讐になるの!」
ニコは両手を広げて俺に微笑む。
「ああ、やっとわかった。そう言う事かぁ」
「不幸になった人間には幸せになる動機、そして権利を世界から与えられてるの」
ニコはトンデモ理論なエライ事を言い出した。
「……そうかな?」
「そうだよ。だから他人を八つ当たりで不孝にするとか、そんな後向きで無駄な事に労力を割いちゃ駄目。リソースは有限なんだから大事に使わなきゃ」
「そうかもな」
「自分が幸せになって、その幸せを見せつける事が、最高の復讐者のありかただよ」
「……そうだ、な」
いつの間にやら前向きなニコに説得された後ろ向きな俺がいる。
ここに……ニコに同意した。
積極的になりつつある俺がいた。
「美味しいよ。敵の不幸は、蜜の味。敵の幸福は渋柿の味よ」
「何だその言葉は?」
「敵から敵の幸福を見せつけられるのは、案外辛いよ〜。渋いよ〜」
俺は……少し本気で考えてみた。
ニコの論理に破綻は無い。
……と思う。
でも、消極的な復讐方法だ。
それでも、イロイロ考えると、でもでもだってと考えるとさ……
そして、だした結論。
とても素敵。
前向きで………
とてもとても素敵な復讐方法だった。
俺には無い発想だった。
ニコは凄いなぁ
思わず感嘆した。
そして感謝した。
不覚にも少しだけ胸がトキメイた。
久しぶりの感覚だ。
「そう……かもな。ニコは頭が良いな」
「そう? へへ。褒められた」
「とても素敵だ。俺には絶対に思いつかない、とても素敵な発想だ」
「貴方は幸せにならなきゃ駄目」
「そう? 本当にそう思う?」
俺自身も、今までに何人も他人を、不幸の、どん底に叩き込んでるんだけれども。
そんな俺にも幸せになる権利はあるのだろうか?
また幸せ目指して良いのだろうか?
ニコは前向きで、その笑顔を見てると人間やり直せる気がしてくるから不思議だ。
「うん。貴方には幸せになる、その権利があると思う。幸せになりなよ」
「本当?」
(自分自身で言うのも何だけども、俺はクズだぞ。自覚がある。
そんな俺でも、幸せになる権利があるとニコは言うのか?)
断言するのか?
「うん」
「そっか。俺は幸せになって良いんだ?」
「うんうん」
「じゃあニコが言う、俺が幸せになる権利をここで使うよ」
「うん? え? 何?」
「俺達幸せになろう」
そう言って………
俺はニコの手を優しくとってひざまずく。
「へ……?」
驚くニコ。
「コレから、よろしく」
「なにを?」
「一緒に幸せになろう」
「……え〜と」
今度はニコが困惑していた。
だけども、遅い。
ここにいたるまで、何度かの判断でニコは俺の心を無自覚に撃ち抜いていた。
「さぁニコ。俺と一緒に『悪い勇者』と『悪い魔法使い』の元へ行こう」
「なんで???」
「そして幸せな俺達の姿を見せつけるんだ」
「うん? え???」
「俺が全力でアイツラを煽るから」
「勇者を煽る???」
「たぶん相手がブチ切れて、戦いになるかもだけども、流石に殺されはしないから大丈夫」
俺はアイツラをブチ切れさせる程、煽れる自身がある。
俺の性格の悪さから繰り出される煽りには実績と定評がある。
でも、アイツラに勝てる自信はない。
アイツラは強い。
でも命までは取られないはずだ。
たぶん……
「ねぇそれ全然大丈夫じゃ無いよ。怖いよ」
「良いから行こう」
「……どうしよう? なんだか大事になってきたかもしれない」
ニコは青い顔をしていた。
結局ニコの説得で『勇者』と『青の』二人を煽りに行くのはやめた。
と言うか、延期する事にした。
俺が折れた。
その代わりに交換条件をだした。
俺とニコは付き合う事になった。
ニコの祖父、マフィアの老ボスが全力で反対した。
「何が起きてもワシは知らんぞ。責任取らんぞ」
何度も何度もくどいほど、そう言っていた。
が……
だが俺達は聞く耳を持たなかった。
だってニコが言うには、俺には幸せになる権利と義務がある。
そのはずだから。




