う3、マフィア6【耐えた】
俺に心を折られたあとに、勇者によって精神が蘇ったマフィア老人は案外しぶとい。
こんな時でも生存をあきらめていない。
無駄なのに。
既にロックオンされてるのに。
「あ? 逃すかよ。勇者の頼みで命は取れんが、見逃さないよ〜」
「なんでじゃ〜。ワシが何をした〜? しかもワシを殺す気満々じゃろ。殺意を感じるぞ」
「オマエの罪? 俺が決定的にふられた日に俺に出会った。勇者との再会時、その場にいて出くわした。運が悪かった。よって有罪」
俺が罪状を読み上げると……
「無茶苦茶じゃあ〜。あんまりじゃあ〜。理不尽すぎる。ワシはヌシにとって、ただのモブ老人と違うんか? 違うんか?」
老人はぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「俺の立場になってよく考えろ。俺は勇者パーティから追放。初彼女も失った。死んじゃうには良いタイミングだと思わんか? そこに居合わせた不運を呪え」
「モブのワシを巻き込むなぁ〜〜!」
騒ぐ騒ぐ。
「マフィアのボスがモブとか言うな。オマエは俺と一緒に地獄に落ちるんだ。不幸になるんだよ〜」
「なんで〜〜〜? 初体面のワシを巻き込むな。ワシに執着するな! 初彼女と心中しろ。ワシは見逃せ」
「オマエ見逃したら、復讐しに来るだろ?」
「……いかない。関わりたくない」
たぶん本心だろう。
もうコイツの心は一度折れている。
でも……
「俺は、だまし討ち上等の魔王軍や人間勇者勢力を、尽く皆殺しにしてきたんだ。マフィアなんか見逃すものか」
「まて。何故、人間勇者まで皆殺しにした?」
「全部勇者が悪い。勇者のせいだ。勇者が余計な事をしなきゃ……ああああぁ。やっぱり世界なんか滅びればいいんだよ〜〜〜」
「答えになっておらん。コヤツ、また壊れおった!」
人を、またこわれた電化製品みたいに言いやがって。でも……良いか。
「人間壊れると、頭が空っぽになって嫌な事全てを忘れられる。廃人になりたいならオススメするぞ」
「そんなものになりとうないわ。オヌシ何がしたいんじゃ?』
「勇者パーティに戻れないなら、もう壊れても、どうなってもいいんだよ〜」
「結局、結論は、そこに戻りおった。もう、ワシじゃなくて勇者と心中自殺してくれんか?」
正論だった。
でも……勇者には俺の『大禁術』も効きそうにないんだよな〜。
アイツ、メチャクチャ強いんだ。
多分魔王よりも、はるかに強いんだ。
自滅覚悟でも魔王はともかく、勇者と心中自殺までは、たぶん持ち込めないんだよ〜。
犬死はゴメンだ。
だから……マフィアに八つ当たりだ。
「よし! 話は、だいたいわかった」
「わかったか? じゃあしね。すぐ死ね。不幸になれ!」
「落ち着け。苦しくて心が折れそうな時。逆境と言うのは人生の転機。運命が良い方に動き出すチャンスでもあるんじゃぞ」
「他人事だと思ってテキトーぬかしてんじゃね〜よ。逆境は単純にピンチだろ〜が」
生き残りたくて必死に屁理屈言いやがって
「ピンチはチャンスの裏返しじゃ。勇気パーティーから抜けたのも女にふられたのも、より良い未来を掴む為の過程なんじゃ」
それっぽい希望を語りやがって、ソレでもマフィアか?
マフィアならマフィアらしく絶望を語れ
「そう言うなら、テメェ自身が、今の俺に追い詰められてるこの逆境を、チャンスに変えてみやがれ。この死体、寸前マフィアめ」
「欲しい物を……願いを言え。大抵の物なら用意してやるから、それでワシを見逃せ」
取引を持ちかけて来やがった。
拷問から死に至る道
拷問された者が死ぬ迄の経過
1頭を下げ命乞い
2脅迫、自分に手を出せばナンチャラ……
3取引、何かと交換で見逃して貰おうとする
4全てを諦める、拷問に反応しなくなる
5死亡
1と2の段階では反抗心が残ってて、後日復讐にやってくる。
しかし第三段階を超えて取引などを持ちかけてくる段階まで相手を追い込むと、後日復讐どころか相手は逃げ回るか絶対服従するようになる。
だから普段ならこれ以上追い込む必要は無いのだが……
「何もわかってない。物など、死を前にした者、覚悟した者には取引は無価値だ」
「な!!!」
「俺が欲しいのは心と想い出だ。オマエも諦めろ。諦めて死を受け入れろ」
「たった一つのプレミアムがついたワシの大事な命。諦めきれるか!」
俺は冷徹に更に追い込む。
特に意味など無い。
コレはタダの八つ当たりなのだから。
「俺は結局、誰とも完璧な信頼関係を作り上げることが出来なかった。死の間際、最後に持っていける心からの愛だの友情だの繋がりすら持てず、完璧な想い出すら持ってね〜」
俺の心残り、嘆き。
「そんなものが簡単に手に入るか!」
「うるせぇ、うるせぇ。俺が欲しくて、手に入れたと勘違いして。無くしちゃったのは、そう言うもんだ。天獄から地獄だ。だからオマエに八つ当たりするんだ」
「理不尽すぎるが、ヨシ。わかった!」
物分りの悪いマフィアのボスは、ようやくにしてわかったらしい。
「わかったか、ならオマエも覚悟を決めろ」
「そうじゃない。ワシが、ワシがヌシの欲しがる理想に近い女を紹介してやる。だから……ワシを見逃せ!」
「フザケンナ。女だと? ああああぁ。アイツ以上の女なんていないんだよ〜」
「ふられた人間は皆そう言う。しかし落ち着け。聞け」
必死だ。
「ふられて落ち着けるわけね〜だろ」
「女なんて星の数程いる。かわりになる女も必ずいるはずじゃ」
「アイツが今日死んだら俺も今日死ぬ。それくらい好きな女に、かわりなんかいね〜よ」
「まて、そうとも、そうともかぎらんぞ!」
何故か自信たっぷりなマフィア。
死にたくなくて必死か?
「ああああぁ〜。そんなんで見逃さないよ」
「ワシもマフィアのボスの端くれ。女を見る目、選ぶ目には自信があるしツテもある」
「ああああぁ。そんなのいらないんだよ。アイツがいいんだよ〜。でも……でも一応紹介しろよ!」
「よ〜〜〜し。食いついた。耐えた〜〜〜」
俺の返事にマフィアボスは大汗をかきながらも大はしゃぎだ。
助かったと思ったのだろうな。
でも………
「女が気に入らなかったら、俺が持つ最悪の召喚で転がすからな。言ってる意味わかるな?」
「なんじゃと?」
「俺を騙して変な女を紹介したら……【勇者】が、なんと言おうが……お前だけは、お前だけは許さんからな〜」
「なぜ、そんなにワシが恨まれる〜〜〜? 初対面の爺に執着しすぎじゃ。よ〜く考えてみろ。ワシはヌシにとって今日初めて会ったモブ人間と違うんか? 違うんか?」
「ただの八つ当たりだ。気にするな」
「ふ、ふざけるなぁ。八つ当たりで、そこまで恨まれてたまるかぁ!」
激高する老人マフィアに………
「マフィアってのは恨まれてなんぼ、家を一歩出れば百人の敵。そういうもんだろ」
「そ、ソレはそうだ……が……なんぼ何でもヌシはチト理不尽すぎんか?」
「俺が黒と言えば白い物でも黒くなる。ソレがマフィアだ」
「理不尽じゃ。理不尽すぎる。そもそもお主はマフィアじゃないじゃろがい」
……そうだっけ?
そう言えば
勇者パーティーを抜けた俺は……
一体全体なにものなのだろう?
こんな状況下。
勇者パーティーを追放されて何もかも無くし、壊れてヤケになってマフィア相手に町ごと自爆しようとしてる。
自分は何者なのだ?
そんな俺は自分自身の存在意義、レゾンデートルに想いを馳せた。




