第12話 カワウソ
柵の奥でのエミリーさんの様子は明らかにおかしかった。まるで何かに取り憑かれていたかのような……それにそもそもあの場所に何があるというのか。村長であるカベッサさんなら何か知っているはずだ。
「カベッサさん、今って時間──」
ノックしようとドアに近づくと、中から話し声が聞こえてきた。なんと言っているかまでは分からないが、どうやら誰かと話しているらしい。
「誰かと話してるわね」
気がついたら隣に金髪がいた。
「うわ! ってなんだ、アリスか。ビックリさせないで欲しいんだけど」
「アンタが勝手にビックリしてんでしょ。ま、それはそれで面白いからいいけど」
「相変わらず息を吐くように人をバカにしてくるよね〜。マジエグすぎて江口の爆盛り半チャーハンセットでw」
「急に誰? そもそもなんの店? 江口って何? 誰? 半チャーハンセットてことはラーメン屋? どんだけ食べるの? デブか?」
「自分、細かいこと気にしたら負けだと思ってるんで」
(心の中の)スーツの襟をびしっと正す。
アリスは「はあ……」と溜息をついた。
「で、アンタは何してんの? こんなとこで盗み聞きなんかして」
「まあちょっと用があってね。アリスは?」
「へ?」と間抜けな声を漏らした。
「あーあたし? あ、あたしはまーなんてーいうかー? 歩いてたらここにいたって言うかー気がついたらここにいたっていうかー? アンタがいたからちょ〜っと驚かせてやろうかなとかそういうつもりは一切無くて」
どっかのバカみたく目を泳がせている。
僕は冷めた目で二人目のバカを見た。
どうやら思ってることを言わないと死ぬ国から来た人らしい。億が一そうじゃないとして、気が付いたらここにいたがホントだったら普通にやばい。 友達やめよう。
「なに!? なんでそんなかわいそうなものを見る目で見てくるの?」
また心が読まれた? さては能力者か……!
「だが生憎今はこんなのに構ってる暇もない。なんせ時間がないのだ」
「心の声漏れてるから」
とは言え、このままにしておくにはこの馬鹿がばかいそう……じゃなくてかばいそう……じゃなくて……カワウソ?
そう、カワウソ。あの小さくて細長くてロックフェスとかでタオルの代わりにブンブン振り回されてそうなキュートな生物。でなんだっけ? そうだった。カワウソだからこの哀れな子には少しでも病気が治るよう、アドバイスを授けておこうと思ったんだった。
『肩に手を乗せて何か言えば大体はそれっぽくなる』
酔っ払いのおじさんが夜中に警察に取り押さえられながら叫んでいた言葉だ。
真理である。もしも世界の全てが信じられなくなってもこれだけは確実だ。そこまでしてこれを伝えたかったんだと思うと感動で涙が止まらない。ありがとう。酔っ払い。
「アリス」
両肩に手を乗せてアリスの目をじっと見る。アリスはなぜか顔を赤くした。
「え!? なに急に? も、もしかしてき、ききき、キス──」
「一寸の虫にも五分の魂」
アリスはぽかんと口を開け、何が起きたか分からないという顔で固まった。
少しして動き出すと早速怒鳴った。
「バカにするなあーーー!」
ダメか。




