練達
新兵二人を見送ったハンガーはまた慌ただしく動き始めた。パイロットは昼休みでも、整備兵達はその間に点検整備をし、ひとつの不備もなく機体を仕上げるのだ。彼らは口をそろえて言う。敵機の撃墜はパイロットの腕だが、そのパイロットの帰還は整備兵の腕なのだ、と。真剣な表情は一切の手抜かりを許さない。
ハワードは彼らの邪魔をしないよう、サムと共にハンガーの外に出た。座る部分の木以外すべて鉄で出来た無骨なベンチが、ハンガーの入り口近くにポツンとある。その傍には吸い殻入れ代わりにオイル缶が置いてある。どちらも錆びているが、ずっと使われ続けているものだ。ハワードがその横で煙草を加えると、サムは先にベンチに腰を下ろし、膝の辺りをさすって苦笑する。
「若いもんの間にいると、無理をしすぎるな」
「まだ痛みますか、その脚は」
ハワードの問いにサムは首を振った。
「十二年も前の傷が痛みゃあせん。こいつぁ年だ。……まぁ、そろそろ」
「退役してもらっては困りますよ。ベテランが必要なのはパイロットだけじゃない」
セント・ルースの整備兵は総じて若い。この基地の整備兵は腕がいいと評判になって、年季が入ってくると引き抜かれていってしまうのだ。そうして、鍛え上げるサムと鍛えられる若い連中が、ここに残る。ただ、機械の不備はこの十数年、起こったことはなかった。
煙草の先から、灰が落ちる。サムは応えず、ただ、十二年か、と呟いた。
「面白い連中が来たじゃないか。あいつらを思い出すようだ」
「そう思いますか」
あぁ、と頷いて、サムは笑う。
「あのブルメアのボウズだ。昔の誰かさんによく似てるよ、『Hawk』」
「さて、誰ですかね」
同じように笑って、ハワードもベンチに腰を下ろした。一瞬漂った沈黙は、二人が同じことを考えたからに違いなかった。老整備兵は、ふう、と息をつき、首に掛けていたタオルで、ぐいと頬をぬぐった。
「なぁに、時がたてば自然と分かるさ。戦争が終わる頃になれば、だ」
見上げた上を薄雲が流れていく。できれば、結果まで見届けてやりたい。今の顔が全部揃っている状態で。上空で、地上で、それらを支える二人だからこそ、互いが決めた覚悟がわかる。
「このポンコツがいつまで言うことを聞くかわからんが」
そういって、サムは膝を押して立ち上がる。
「頑張ってみようじゃないか。『Hawk』、お前さんもだ」
「はい。……よろしくお願いします」
ハワードも立ち上がり、頭を下げた。同時に、ハンガーの奥から、若い整備兵の声がする。ハワードを迎えた、一番若い整備兵だろう。
「こっちも、新人を鍛えてやらなきゃならん」
そう呟いて、サムは右足を引きずりながらも、足早に歩き出した。そして、少し行ったところで、また振り返る。
「そうだ、『Hawk』、あんまりあの小僧をいじめてやるなよ」
ハワードは応えず、ただ苦い顔をして笑ったのだった。




