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420通りの空  作者: かふぇいん
2章:開戦
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練達

 新兵二人を見送ったハンガーはまた慌ただしく動き始めた。パイロットは昼休みでも、整備兵達はその間に点検整備をし、ひとつの不備もなく機体を仕上げるのだ。彼らは口をそろえて言う。敵機の撃墜はパイロットの腕だが、そのパイロットの帰還は整備兵の腕なのだ、と。真剣な表情は一切の手抜かりを許さない。

 ハワードは彼らの邪魔をしないよう、サムと共にハンガーの外に出た。座る部分の木以外すべて鉄で出来た無骨なベンチが、ハンガーの入り口近くにポツンとある。その傍には吸い殻入れ代わりにオイル缶が置いてある。どちらも錆びているが、ずっと使われ続けているものだ。ハワードがその横で煙草を加えると、サムは先にベンチに腰を下ろし、膝の辺りをさすって苦笑する。

「若いもんの間にいると、無理をしすぎるな」

「まだ痛みますか、その脚は」

 ハワードの問いにサムは首を振った。

「十二年も前の傷が痛みゃあせん。こいつぁ年だ。……まぁ、そろそろ」

「退役してもらっては困りますよ。ベテランが必要なのはパイロットだけじゃない」

 セント・ルースの整備兵は総じて若い。この基地の整備兵は腕がいいと評判になって、年季が入ってくると引き抜かれていってしまうのだ。そうして、鍛え上げるサムと鍛えられる若い連中が、ここに残る。ただ、機械の不備はこの十数年、起こったことはなかった。

 煙草の先から、灰が落ちる。サムは応えず、ただ、十二年か、と呟いた。

「面白い連中が来たじゃないか。あいつらを思い出すようだ」

「そう思いますか」

 あぁ、と頷いて、サムは笑う。

「あのブルメアのボウズだ。昔の誰かさんによく似てるよ、『Hawk』」

「さて、誰ですかね」

 同じように笑って、ハワードもベンチに腰を下ろした。一瞬漂った沈黙は、二人が同じことを考えたからに違いなかった。老整備兵は、ふう、と息をつき、首に掛けていたタオルで、ぐいと頬をぬぐった。

「なぁに、時がたてば自然と分かるさ。戦争が終わる頃になれば、だ」

 見上げた上を薄雲が流れていく。できれば、結果まで見届けてやりたい。今の顔が全部揃っている状態で。上空で、地上で、それらを支える二人だからこそ、互いが決めた覚悟がわかる。

「このポンコツがいつまで言うことを聞くかわからんが」

 そういって、サムは膝を押して立ち上がる。

「頑張ってみようじゃないか。『Hawk』、お前さんもだ」

「はい。……よろしくお願いします」

 ハワードも立ち上がり、頭を下げた。同時に、ハンガーの奥から、若い整備兵の声がする。ハワードを迎えた、一番若い整備兵だろう。

「こっちも、新人を鍛えてやらなきゃならん」

 そう呟いて、サムは右足を引きずりながらも、足早に歩き出した。そして、少し行ったところで、また振り返る。

「そうだ、『Hawk』、あんまりあの小僧をいじめてやるなよ」

 ハワードは応えず、ただ苦い顔をして笑ったのだった。

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