里の朝
里は朝から騒がしかった。それは、門番を務める青年が、西の空に小さな影を見つけたのが始まりだった。遠ざかっていく機影。仲間を集めながら、青年はまっすぐに里長のもとへと向かった。周りを囲む山脈のため、まだ村全体に日が差さないような時刻だった。
「ギン爺! ユウが出て行った!」
扉を開けるや否や、青年はそう叫んだ。それに対し、さして驚いたふうでもなく里長は振り返る。
「やはり、そうか。ここ数日そわそわしておったからの」
「何で言わなかったんだ! ユウが出て行くなんて、聞いてないぞ!」
青年がそう言うと周りもそれに合わせて、そうだそうだ、と続く。それでも、老人は僅かに笑みをたたえて、うんうん、と頷くだけだった。青年は苛立ちを募らせる。
「軍か。ユウは、あの軍人のところへ行ったんだな? 脅されて。そうだろ?」
「行き先はそうだろうがの。脅されて動くような娘ではあるまいよ」
ならどうして、と周りが口々に言う。この騒ぎに気付いたからだろう、里人が段々とこの場に集まってきていた。早々にここに来て、会話を聞いていた女性が口を挟む。
「そりゃあ、皆一通りあの子にふられたあんたたちじゃあ、わからないわよ」
なんだと、と俄かに青年は気色ばむが周りの仲間に押さえ込まれて、彼は叫ぶ。
「外の人間を一番嫌ってたのは、ユウじゃないか! あんなアダシの男になんかに……」
アダシ、という言葉に、周囲がざわめく。アウトサイダー、という意味を込めたこの言葉は、二十年以上も前に村から消えたはずだった。――ユウの父親が、里長の娘と結婚して、暮らし始めたその時に。
「アダシの奴じゃないか、俺の親父もお袋も、皆の家族を奪ったのも、みんな。今度はユウだ。次は誰だ?」
シン、と静まりかえるその場で、青年は歪な笑みに口元を引きつらせて言う。
「そうだろ? 十二年前も今も同じだ、あのアダシの――」
頬を叩く音が高く響いた。青年は崩れるように座り込む。
「いい加減にせんか。……そうさの、十二年前も今も同じよ。あやつらが自ら決めて飛び出していったことはな。お前さんは、それを忘れとる。それに、あやつらの誰も村を捨てて飛び出したのではないことぐらい、わかっておろうよ」
「でも――」
青年は悲しげな目で里長を見つめ返した。里長はいつか見たようなその瞳を思い出す。十二年前か。自分は親父に捨てられたのか、と泣きながら訊ねに来た少年。何度も違うと言ったのに、繰り返し訊ねられた覚えがある。
「ユウも、里が好きだと言っていた。お前さんなら、もうわかるだろう」
青年はうなだれた。そして、仲間の助けで立ち上がり、青年は言う。
「門を開けてくる。外の連中がどんな奴は、俺の目で見極める」
老人はただ微笑んで、頷いた。




