到着
砂地の揺れを感じなくなってから数分後にバスは停止した。先輩兵がドアを開け、中に向かって声を張る。
「訓練生はテントの設営、及び雑務にかかれ。里には入るな。他の班は知らねぇが、特に空の小僧共、間違っても『Hawk』に会いに行こうなんて思うなよ」
それぞれの気の抜けた返事はすぐに怒鳴られて消えた。ほかのバスからも別科の訓練生が出てきている。小雨の降りしきる中も、三号車の彼らに比べて要領よくてきぱきとこなしているのは、陸軍の方か施設科のほうの訓練生だからなのだろう。だが、その表情は硬く重く、真一文字に口を閉ざして、かなり疲れた様子をみせている。緊張とパニックの爪跡なのかもしれない。相変わらずダラダラと歩く三号車の面々の方がよっぽど元気だといえるだろう。掃きだされるようにして外に出たフリッツは、先に出たジャックスに走り寄る。
「腕、大丈夫か」
「まぁまぁだな。ただ、今のままじゃ具合が悪いんで俺はもう折り返す。……『Hawk』の機に乗れるらしいんだ。まだ他の奴らには黙っててくれ。うるさくなるからな」
ジャックスは笑った。少しぎこちなかったのは、そうは言ってもやはり痛むからなのだろう。違いねぇや、とフリッツも笑い返したが、ふいにその表情が曇る。
「なぁ、譴責ってのは、やっぱ響くかな」
「何にだ?」
尋ねられて、フリッツは口を濁す。そして、照れたように頭をかいた。
「俺、まだここの国籍が確かじゃねぇんだよ。上官にアレは、やばいよな」
思わず吹き出したジャックスにフリッツは渋い顔をしたが、向こうの陸兵に呼ばれて、返事を聞く前に走っていった。まずったな、とこぼす。声の届かなくなったその背中にに、ジャックスは独り呟いた。
「お前なら通るさ、フリッツ。かならず軍が欲しがる。『Hawk』が目をつけたんだ」
そして、あのパイロットもだろうと思う。時代が、それが埋もれることを良しとしないだろう。否応無しに巻き込まれる。再び名前を呼ばれてジャックスが振り返ると、ライナーがこちらに走ってきていた。辺りを見回して、フリッツの場所を問う。
「おれら、あいつにメシ奢らないと」
ライナーはそう言ってポケットを探った。カードの山の上から五枚をはぐってジャックスに見せる。フリッツの手持ちだったという。
「あいつ、さっきのポーカーでストレート揃えてたんだ。俺たち、総出でイカサマしかけたのに」
「あのパッセル機のパイロットに感謝だな。……フリッツが国籍取って、隊に来たら、皆で飲みに行きゃあいい」
そうか、とライナーが笑うその場所に風が強く吹き抜けた。気付けば雨も上がっている。雲も切れて、青空が覗いていた。




