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420通りの空  作者: かふぇいん
序章:鳥
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英雄と呼ばれる男

 通り越していったストークを谷間に見送り、バスもそれを追って順調に進んでいた。砂の道が岩へと変わる。しばらくすると空は曇りだし、天井の穴から雫がたれて、雨が降ってきたことがわかった。ワイパーが塵(ちり)交じりの水を脇へと掻き出して、せわしく動きだす。歓声の過ぎ去った車内は、初めよりもかえって静かだった。

 雫をよけるように決まった場所に固まった訓練生たちも、雨の中の作業を思ったのか、気だるげな様子だ。トランプを片付けているライナーの他、ほとんどがおとなしく座っている。フリッツも例に漏れずそうしていたが、ふと思い出して隣のグランツの肩を叩いた。

「なぁ、さっきのストーク機の、えぇと……『Hawk(ホーク)』だったか。誰なんだ?」

 グランツがぎょっとして振り返ったが、それ以外に聞こえた人間も皆驚いた顔でこちらを見ていた。

「お前……本当に『Hawk』を知らないのか?」

「知らねーや。上官なのは分かったけど、そんなに偉い人だったのか?」

 バカ、と後ろから一つ殴られる。片腕を吊った状態のジャックスが、雨垂れを避けて隣に座る。とりあえずの応急処置は済んだらしいが、それ以上のことはここではできないだろう。

「あの人は、前の戦争の英雄だ」

「英雄? 『Eagle』じゃなくてか?」

 今度は戻ってきたライナーに殴られそうになったが、それはとめてみせる。いくつもの呆れ顔に混じって、グランツが苦笑する。

「本当に『Eagle』しか知らないで来たんだな。……『虹色の地獄』は知ってるだろ」

 フリッツは頷く。

「『Eagle』の消えたやつだ」

 先の戦争の末期も末期、終戦宣言が為されたその日に起こったのが、史上最悪と呼ばれるポイントC12bの空戦、通称『虹色の地獄』だった。ポイントC12b――この砂漠の北東に、当時十以上あった国の戦闘機が大量に集まり、やり合って、墜ちた。祖国の御旗を翼に描き、砂の上に散らばった残骸は、あまりの鮮やかさに後の調査隊を絶句せしめたという。それが『虹色の地獄』たる所以だ。グランツは続ける。

「各国合わせて数百機、この国からも精鋭が数十機そこへ向かった。あの『Eagle』もだ。が、帰還したのはたった一機。――『Hawk』」

「それがさっきの」

「あぁ。俺たちには勿体ねぇような人だ」

 ジャックスが言い、皆が頷く。外はまだ雨が降っていた。

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