2話:運命を告げる
皆さんこんにちは
るあです
2話目になりました!
温かい目で見てくれると嬉しいです
入学式の翌日。
中学校で受ける初めての授業は、驚くほど長く退屈に感じられた。
教科書を開き、黒板に書かれる白いチョークの文字をノートに写しながら、私の頭の中は昨日体育館で浴びた、あの圧倒的な吹奏楽部の音圧でいっぱいだった。
早く放課後にならないだろうか。
そればかりを考えていて、担任の先生の言葉は右から左へと通り抜けていく。
ーキーンコーンカーンコーン……。
待ち望んでいた放課後を告げるチャイムが鳴り響いた瞬間、私は吸い込まれるように席を立った。
クラスのほかの子たちが
「ねぇ?何部見に行く?」
「やっぱりテニス部かな〜」
と盛り上がっているのを横目に、私は一人、カバンのストラップをギュッと握りしめて教室を飛び出した。
人混みをすり抜け、南校舎の階段を上へ、上へと駆け上がる。
目指すは、最上階の3階にある音楽室。
近づくにつれて、重い壁を透過して、廊下に様々な楽器の音がバラバラに漏れ聞こえてきた。
バァンと弾けるようなトランペットの音、どこかコミカルなチューバの低音。
昨日よりもすぐ近くで聴こえるその生々しい音に、私の心臓はまだうるさく跳ね始める。
「…は、初めまして、1年の倉田恋々菜です。見学に、来ました。…」
音楽室の引き戸を細めに開けて、消え入りそうな声で言うと、中にいた満面の笑みを浮かべる先輩がすぐに駆け寄ってくれた。
「見学?来てくれてありがとう!今日は色んな楽器を実際に触れる体験入部の日だから、遠慮しないでどんどん吹いてみてね!」
先輩たちの活気のある声に圧倒されながら、私は案内されるまま、いくつかのパートを回ってみることにした。
まずは、女の子たちで行列ができてきた大人気のフルートに挑戦してみることにした。
「息を細く、空き瓶の口を吹いてボッーと鳴らすみたいにするんだよ」
とフルートを吹いている小豆沢美桜先輩に優しく教えられ、恐る恐るリッププレートに口を当てて試してみた。
けれど、私の口からはスースーと虚しく息が抜けるだけで、全く音が鳴らない。
周りの1年生が「鳴った!」と喜ぶ中、私は顔を赤くして頭を下げた。
次に回ったホルンは、カタツムリみたいな丸いフォームが可愛かったけど、カタカタと動くレバーが複雑そうで、引っ込み思案な私はすぐに混乱してしまった。
トロンボーンのブースでは、長いスライドを豪快に動かす雨宮結真先輩の姿が最高にかっこよかったけれど、いざ楽器を持たせてもらうとずっしりと重く、腕が短い私には一番遠いポジションまで手が届きそうにない気がして、すぐに気後れしてしまった。
(やっぱり、初心者の私には吹奏楽部なんて無理なのかな…)
引っ込み思案で不器用な性格が災いして、うま吹けない自分にどんどん自信がなくなっていく。
周りの1年生たちがどんどん音を鳴らして先輩達と打ち解けていく中、私だけが取り残されているような気がしまた。
やっぱり大人しく帰ろうか。
そう思って、賑やかな音楽室の隅っこに目をやったとき、ぽつんと置かれた一つの席が目に入った。
他の楽器には何人も1年生が集まって群がっているのに、そこだけは誰もいない。
座っているのは、おっとりとした優しそうな雰囲気の2年生の先輩が1人だけだった。
「あっ、よかったらそれ吹いてみる?」
視線が合うと、清水汐織先輩はふわりと温かいほほ笑みを浮かべて声をかけてくれた。
汐織先輩が膝の上に載せているのは、黒くて細い木でできた不思議な形の楽器だった。
「これはオーボエって言う楽器だよ。うちの部にはね、私一人しかいないんだ〜」
(一人だけ…)
大勢の中に隠れたい、目立ちたくない私にとって【一人だけ】という言葉は少し重く、怖いものに思えた。
でも、何故か、その静かで誰もいない、空間に不思議と引き寄せられるように、私は吸い込まれるように木の椅子に腰を掛けた。
「はい、これがオーボエのリード。ここに口をつけて吹くんだよ」
手渡されたのは、信じられないほど小さな2枚の薄い葦が合わさったパーツだった。
先ほど試したフルートの吹き口や、ホルンの金属のマウスピースに比べて、あまりにも小さくて繊細でどこか頼りない。
「吹く所が凄く小さいから、最初はちょっと難しいかもしれない。口を少し内側に巻き込むようにして、リードを挟んでお腹から息をグッと力強く押し込んでみて」
汐織先輩に言われた通り、小さなリードを恐る恐る口に含む。
緊張で唇がぶるぶると震えそうになるのを必死にこらえながら、息を思いっきり吹き込んだ。
ーブー、ッ………。
最初は、アヒルの鳴き声のような、ひしゃげた清れた音が響いた。
音楽室の隅に響いた格好悪い音に、やっぱりダメかと顔を真っ赤にする私。
けれど汐織先輩は嫌な顔一つせずに、
「いいよいいよ、今の感じで合ってる!その調子!」
と優しく何度も頷いてくれる。
私はもう一度、深く息を吸い込んだ。
今度は【家でクラシックピアノを聴く時の、あの落ち着いた静かな気持ち】をイメージして、優しくけれど芯のある息をじわじわと送り込んでみた。
ーピィ、ィィィィ…。
「あっ…」
周りの賑やかな喧騒の隙間を縫うようにして、1本の細い光のような音が、真っ直ぐに伸びた。
それは、驚くほどに優しくして、どこか切なくて胸の奥にじんわりと染み渡るような美しい音色だった。
家でこっそりと聴いていた、大好きなあのクラシックの切ない旋律が、一瞬で頭の中に蘇る。
「すごい綺麗な音!ちゃんと響いてるよ、恋々菜ちゃんすごく筋がいい!」
汐織先輩がパチパチと、自分のことのように嬉しそうに拍手をしてくれた。
吹くところが小さくても、息をいれるのにはすごく抵抗があって力がいる。
確かにこれは難しい楽器だ。
おまけに部活で一人だけなんて、引っ込み思案な私にはプレッシャーかもしれない。
だけど、この優しくて特別な音色を自分の息で鳴らせた瞬間、私の心は完全にその黒い楽器に奪われてしまった。
(私…この楽器がいいな)
まだ【オーボエにする】の口に出す勇気はなかったけれど、胸の奥で、小さな決意の灯がパッと灯ったのを、私は確かに感じていた。
清水汐織
2年生、オーボエ、オーボエのリーダー
髪色;明るめのブラウン
髪型;ふんわりしたボブヘア
性格;いつもニコニコしていておっとりとした優しい先輩
小豆沢美桜
フルート
三年生
フルートのリーダー
髪:ビターチェリーブラウン
髪型;きっちりと高く結びポニーテール
性格;ちょっときつめな実力派リーダー
演奏に対しても非常にストイック、だか後輩たちがうまく演奏をすると少し笑みがこぼれる
雨宮結真
3年生トロンボーンパートリーダー
髪色ココアブラウン
髪型ナチュラルマッシュ
性格;穏やかで聞き上手、みんなの相談(同級生達の)
いつも一歩引いてまわりを見守っている




