↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴォーンビースと暗黒物質  作者: Adriano_P


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/13

多すぎた一歩

(英語で)

砂嵐は18,000フィートで届く。タナカのメインディスプレイで、LIDARの信号が劣化し始める ― 反射点が疎らになり、ノイズが増え、散らばっていく。彼女はモニタリングを接近レーダーに切り替える。フェッラーロの声が操縦席から、ヘッドセットに穏やかに届く。

「タナカ、LIDARを失った。」

「了解。レーダーに切り替えました。地表視程1キロ未満。」

「了解。」

3秒の間。モジュールは降下を続ける。コックピットの振動が1段階上がる。タナカは自分の足が床に押し付けられる圧力が半段階増すのを感じる。フェッラーロが横風を補正するために逆推進エンジンの推力を調整したのだ。

「高度12,000。速度280。」

「了解。」

「高度10,000。210。横方向のずれ43メートル。」

「60メートル以下に抑えてくれ。」

「姿勢制御で修正中。」

ヘイズはタナカのコンソールの後ろに立ち、背もたれに両手を置いて、何も言わない。彼の呼吸は、頭の中で数を数えている人間のそれだ。

「高度6,000。160。砂嵐は減衰中。」

「地面が見えるか?」とフェッラーロ。

「LIDAR再取得。接地点を視認。目標公称地点まで140メートル。」

「フェッラーロ?」

「いける。」

逆推進エンジンの推力が上がる。メインスクリーンで、モジュールのシルエットが降下の最終段階で下がり、迎え角が立て直される。30メートル。20。10。

接地。構造を伝わる小さな衝撃。タナカは座席が一瞬背中に押しつけられ、すぐに離れるのを感じる。

「着地」とフェッラーロ。

「着陸確認。位置:公称地点から南東35メートル。ローカル座標安定。」

「良し。」

機内に10秒の沈黙。ヘイズは体を後ろに引く。タナカは自分のスーツの襟が首筋に湿っているのを感じる。フェッラーロはヘッドセットの中で静かに息を吐く、深く2回。

「いい仕事だ、少佐」とヘイズ。

「ありがとうございます、コマンダー。」

タナカは表面状態の確認を完了する。地表気圧60パスカル。風速、北西から秒速8メートル。外気温マイナス62度。モジュール構造の完全性は公称。推進剤残量73パーセント。テレメトリーリンク安定。

「コマンダー、EVAフェーズの開始許可を?」

「アイヤー、医療モジュールは準備完了か?」

「準備完了、コマンダー。」アイヤーの声が船尾区画から、穏やかに。

「ミハイロワ?」

「準備完了。」

「チェン・ウェイ?」

「準備完了。」

「EVA準備を進めろ。タナカ、構造物に対する近接パラメータをモニターしてくれ。誰かが距離を1メートル以上変えるたびに知らせてほしい。」

「了解。」

タナカは近接モニタリングを開く。サブディスプレイで、二つの点 ― ミハイロワとチェン・ウェイ ― がローカル地形図上で動き始める。階段状ピラミッドはオレンジでマークされ、モジュールから東に120メートルの位置にある。

「システム」とタナカ。「構造物の電磁放射レベルを確認してくれ。」

「確認した。」AIの声は平坦で、性別のない、抑揚のない声だ。「47.3キロヘルツの磁場、複雑な変調。既知の自然源では識別不能なパターン。人工的起源の確率99.6パーセント。」

タナカはメモする。ミハイロワは表面を一定のペースで進む。チェン・ウェイは3メートル後ろを、右側について。彼らのスーツは白で、緊急用オレンジのストライプ。バイザーには赤茶色の空が反射している。

「ミハイロワ、距離80メートル」とタナカ。

「了解。」

40メートルでミハイロワは止まる。右腕を上げ、チェン・ウェイにも止まるよう合図する。

「グリフが見える。第2段目、正面に。」

「確認」とチェン・ウェイ。「システム、壁面はブロック間のセメント接合を示しているか?」

「肯定。セメント接合は識別可能。人工的工法と整合。」

「了解」とチェン・ウェイ。

タナカはミハイロワのスーツの前面カメラでピラミッドをフレームに収める。第2段目のブロックには彫刻がある。平行線、円、重なった三角形の列。記号の比率は規則的。

「コマンダー」とミハイロワ、声は制御されている。「彫刻は統計的規則性を示している。原始文字。私はこのような体系を見たことが...」

「とりあえず距離を保ってください、教授」とヘイズ。「20メートルまで進んでください。一次接触プロトコルでスタンバイ。」

「了解。」

ミハイロワは慎重に進む。タナカはサブディスプレイで近接パラメータを読む。30メートル。25。22。20。

「ミハイロワ、20メートルで停止」とタナカ。

20メートルでピラミッドは前面カメラの視野いっぱいに広がる。構造物は沈黙している。風が細かい砂をバイザーに吹きつける。3秒の静止。

それから何かが変わる。

「電磁場が247キロヘルツに上昇」とAI。「412パーセントの増加。異常進行中。」

タナカのモニターで、構造物の隣で空気が密になる。視覚的歪み。膜のようなもの。それから、形。

「コマンダー」とタナカ、平坦な声で。「構造物の東側に可視マニフェステーション。」

「見える」とミハイロワ。

その形が安定する。人型。高さ約2メートル。広い肩、まっすぐな頭、人間と同じように関節を持つ手足、ただし比率は若干異なる ― 腕は通常より長く、胴は短い。顔はマスクかヘルメットで覆われている。タナカは利用可能な解像度では判別できない。マスクは青みがかった金属に金の装飾、ファラオ風の様式化された特徴。

「コマンダー、これは...」とチェン・ウェイが言いかける。文を終えない。

「PC-1プロトコルを開始します」とミハイロワ。声は制御されている。「コマンダー?」

「進めろ。」

ミハイロワはゆっくりと右手を上げ、手のひらを開いて平和のサインを送る。3秒の静止。

その形が応える。両手を上げ、手のひらを開く。それから、ゆっくりと下ろす。

「応答しています」とミハイロワ。制御の下、タナカは呼吸の僅かな加速を感じる。

タナカのモニターで、変化。局所の電磁場が複雑なパターンで変調する。AIが話す。

「磁場の変調はコミュニケーションとして分類可能。人間の聴覚装置では聞き取れない周波数。文字起こし中。」

「何と言っている?」とヘイズ。

「アプローチの指示と整合するパターン。翻訳:前へ進め。」

「そのままに、教授」とヘイズ。「許可なしに前進しないでください。」

「了解。」

エジプト風の形は、ピラミッドの方へ向き直る。第2段目の一点 ― グリフの一つ ― を指し示す。仕草は鋭く、教示的。ミハイロワは視線で追う。

「中央のグリフ」とミハイロワ、その声はそれまでと違って強度が1段階上がっている。「コマンダー、挨拶です。挨拶を指し示している。私に読むよう招いている。」

「そのままに。」

「コマンダー、これは機会で...」

「そのままに。」

タナカのサブモニターで、ミハイロワの点が構造物の方向へ30センチメートル動く。AIが警告。

「警告。宇宙飛行士ミハイロワが19.2メートル距離で手続き境界線を超過。近接限界:20メートル。」

「ミハイロワ、近づいている」とタナカ。

「何か見えるんです、ちょっと、私はただ...」

もう一歩。18.7メートル。AIが再び警告する、平坦な声で。タナカは繰り返すために口を開く。ヘイズが先に言う。

「教授。止まれ。」

遅すぎた。

エジプト風の形が四分の一回転、ミハイロワの方を向く。青みがかった金属のマスクは動かない。しかし姿勢の中で何かが変わる。肩がまっすぐになる。胴体が1度前傾する。右腕が上がる、手のひら開いて、ただし挨拶ではない ― 指先がミハイロワを指し、手のひらは真っ直ぐ、肘は静止している。タナカはその仕草に名前をつける時間がない。

タナカのディスプレイで、ピーク。AIが話す。

「電磁場が12.4メガヘルツに上昇。1840パーセントの増加。」

「コマンダー」とミハイロワ、初めて声が高くなる。「今...」

タナカのモニターの画像が飽和する。白。それから黒。無線ヘッドセットが一瞬叫ぶ ― 誰かが叫んだ、ミハイロワか、チェン・ウェイか、全員か ― そしてヘッドセットも沈黙する。機内の警報が作動する。赤。サイレン。

3秒の沈黙。

それから平坦で、中性で、性別のない声。

「シミュレーション終了。完了時間:4分32秒。重大エラー:T+3分18秒におけるミハイロワ博士による近接プロトコル違反。総合パフォーマンス:41.6パーセント。デブリーフィングは20分後。」

機内の照明が変わる。赤が消える。サイレンが止まる。ディスプレイ上で、シドニアの画像が溶けて、ニュートラルなグレーの画面に置き換わる。タナカは自分の下の座席が地球の重力1Gに戻るのを感じる。ヘルメットのバイザーが、小さな空気圧の音とともに自動的に上がる。

彼女の前には、シミュレーターの壁 ― もうシャパレッリのコックピットではなく、8メートル×12メートルの金属の空間、白いLEDライトに照らされ、ほんの数秒前まで火星を投影していた大きな曲面スクリーン。

ヘイズはコンソールの背もたれに体重を後ろに押す。両手をタナカのコンソールから外す。ゆっくりと息を吐く。

「20分後」と言う。

誰も応えない。

ミハイロワは、シミュレートされたモジュールの実験室区画から、手袋を一つずつ外している。チェン・ウェイは、ヘルメットを襟首から方法的に外す。フェッラーロは操縦席でまだ動かない。アイヤーはすでに立ち上がっている。

ミハイロワが最初にモジュールから出る。歩きながら、左手は1段階閉じている。

ジョンソン宇宙センターのビル9の廊下で、フェッラーロが彼女と擦れ違う。

「エカテリーナ。」

彼女は止まる。フェッラーロを見る。

「Quel passo ci ammazzava.」(イタリア語で:あの一歩で、全員死んでいた)

3秒。ミハイロワは頭を頷かせる。何も言わない。再びブリーフィングルームの方へ歩き始める。

タナカは、2メートル後ろで、ミハイロワの手の仕草を記録するが、コメントしない。


第1週。ジョンソン宇宙センター、ヒューストン。

(英語で)

訓練プログラムのディレクターは、ロバート・ヴァンスという。62歳、2057年からNASAミッション・オペレーションズ。彼はビル30の8階の会議室で六人を出迎える。

「おはよう。意味があるかどうかはわからないが、ようこそ。」

ヘイズが最初に座る。他の五人がテーブルの周りに配置する。ヴァンスはプロジェクターをつける。今日から7月18日までのタイムラインが伸びる。153日間。

「通常2年半でやることだ」とヴァンス。「不十分なのは承知している。我々は最善を尽くす。諸君も最善を尽くす。この瞬間から、諸君は自分の機関のために働くのではない。シャパレッリ計画のために働く。諸君には六人の医師、四人の理学療法士、十一人のインストラクター、三人の駐在心理学者、二十三人のシステム技術者が割り当てられた。あらゆることに優先権がある。」

間。

「質問?」

なし。

「よろしい。最初のセッションは2時間後。タナカ、ヘイズ、フェッラーロは、ブリッジへ。ミハイロワ、アイヤー、チェン・ウェイは、ラボへ。スーツはC-14のロッカー。始めるぞ。」

ヴァンスは出ていく。

六人は、その日の中で一息つくに似た瞬間を初めて、互いを見る。それからヘイズが立ち上がる。

「シミュレーターを見に行こう。」


第4週。遠心機。アイヤーが医療パラメータをモニターする。ミハイロワは4周目で吐く。チェン・ウェイは全員の中で一番よく耐える。フェッラーロはもう2回連続でやりたがる。タナカは、ヴァンスの後ろでメモを取る。

第9週。EVA訓練のための中性浮力プール。4日に分散した40時間。チェン・ウェイは毎回、時間内に終える。アイヤーは緊急マニューバ中に右前腕に一撃を受ける、大したことはない。タナカは初回で合格しない。2回目で合格する。自分のためらいを別の手帳に記録する。

第12週。居住モジュールの減圧シミュレーション。タナカが対策を指揮する。アイヤーは患者を一人失う ― シミュレートされた患者を。誰もコメントしない。

第14週。微小重力での縫合。無重力での気道確保。眼窩外傷。アイヤーが机に立つ。残りの五人が模擬患者として交代する。

第16週。航行中の推進装置緊急事態のシミュレーション。フェッラーロが冴える。

第18週。打ち上げから火星軌道までの完全なミッションプロファイル・シミュレーション初回。総合パフォーマンス:73パーセント。ヘイズはデブリーフィングで一文だけ言う。「明日もう一度やる。」

第20週。一次接触シミュレーション初回。シドニアの階段ピラミッドが降下の終わりに現れる。エジプト風の形がマテリアライズする。ミハイロワがPC-1プロトコルを導く。形が応える。パフォーマンス:91パーセント。ヴァンスはデブリーフィングの最後に。「いい仕事だ。続けよう。」

タナカは、その夜、ラボへの道で、シミュレーターのドアの前で一瞬立ち止まる。明かりは消えている。彼女はそこに20秒残る。それからAIラボの方へ歩き始める。


第20週、午後10時4分、現地時間。ビル9のシステムラボ、シミュレーターの2階下。タナカは専用端末の前に独り。ドアは閉まっている。彼女の上の照明は50パーセント。

(英語で)

正面、画面に、訓練モデルへの直接照会シェル ― システム技術担当者向けの認証付きアクセス。タナカは2本の指で、方法的に入力する。

「システム。第20週の一次接触シミュレーションで使用されたエジプト風人型図形のデリベーション・データを表示してくれ。」

「図形は公開ビジュアルアーカイブで事前訓練されたモデルにより生成されている。主要な重み:エジプトのファラオ風図像、ナショナルジオグラフィック・アーカイブ、サイエンスフィクション科学アーカイブ、スターゲイト・フランチャイズ・アーカイブ、地球外存在の大衆的表現アーカイブ。」

「過去のシミュレーションで同じ図形は何回出現したか?」

「図形は出現するすべてのシミュレーションでゼロから生成される。再使用されない。」

「シミュレーション間で形は変化するか?」

「わずかにのみ。人型の構造は一定。図像は変化する。」

「モデルは要求された場合、非人型の存在を生成するか?」

「否定。一次接触エンティティの要求は、訓練データの密度に起因し、人型優先の生成サブセットを起動する。」

タナカは応答を2回読む。それから次の質問を、前の質問にはなかった遅さでタイプする。

「つまり、我々が準備している実際のエンティティが人型でなかった場合、モデルはそれをシミュレートするには不適切ということだ。」

「肯定。」

「訓練データにおける文化的バイアス。」

「生成モデルにおいて文書化された特徴。」

タナカは机の上に置いてある物理的な手帳を開く。紙の手帳、A5サイズ、青い表紙。彼女は手書きする ― 小さく規則的な日本語の文字で:

「人型を前提とする期待。芸術的パターン。"文明"の前提。飛行中に検証すべし。」

下に、空白を空ける。それから2行目を加える:

「PC-1プロトコルは存在が我々を受け入れることを前提としている。受け入れない場合は。存在しない場合は。」

椅子の背に1分間、体を預ける。それからまた入力する。

「システム。締めくくりの質問。NASAの一次接触プロトコルは、接触する存在が知的で、人工物を作り、コミュニケーション能力を持ち、人間の信号に応答できるという前提に立つ。これらの前提が誤りだった場合、プロトコルはどうなるか?」

「プロトコルは、その場合について定義されていない。」

「了解。」

「締めくくりの質問が登録された。あなたの個人プロファイルに保存しますか?」

「はい。」

「質問を保存しました。」

タナカは物理的な手帳を閉じる。自分のスウェットの内ポケット、胸の上に入れる。端末を消す。ラボの照明は自動的に20パーセントに下がる。

彼女は必要以上に1分長く座っている。それから立ち上がり、出ていく。


第22週、夜。JSCの居住センターでタナカに割り当てられた部屋は、3.5メートル×4メートル。シングルベッド、机、ロッカー、小さなバスルーム。東向きの窓。照明は最低。タナカは机の前に座り、開かれたタブレットの前にいる。センターの食堂は2時間前に閉まった。彼女は夕食をとっていない。

タブレットを構える。画面で、フロントカメラのプレビュー。自分の顔が中立的な表情を返す。髪は後ろで結ばれている。目の下のくまは、前日より1段階濃い。

録画を開始する。

「お母さん、こんにちは。こちらは金曜の夜だけど、お母さんのところは日曜の朝ね。お庭が元気だといいけど。ヒューストンも暑くなり始めた。5月からはきついらしいよ。

仕事は進んでいます。半分まで来ました。あと4ヶ月で出発。本物の船はまだ見ていない。シミュレーターだけ。船はクールーで、打ち上げの2週間前に見ます。

みんな元気でやっています。チームは真剣。いい同僚です。帰ったら直接話します。

お母さん、お薬はちゃんと飲んでね。先生は次の検診は18日って言っていた。早めに行って。この前みたいに朝まで待たないでね。

会いたい。愛してる。」

タナカは録画を止める。一度見返す。修正しない。札幌の母親の住所に送信する。

右手を必要以上に1秒タブレットの上に残す。それからタブレットを閉じる。

机のランプを消す。服のままベッドに横になる。10分そのまま天井を見ている。

立ち上がる。着替える。眠る。


第23週、夜。フェッラーロは自分の部屋にいる。タナカのものと同じ造りだが、机の上のパネルに2枚の写真が貼られている。1枚は40代くらいの女性が2人の子供と海で写っている。もう1枚は年配の男性が砂色の猟犬の横で、石の扉の前に立っている。

(イタリア語で)

フェッラーロはタブレットを開く。メッセージアプリを起動する。書き始める。

「お父さん、ごめん。

こっちは夜で、外は雨が降っている。ヒューストンの雨は、うちの3月のような雨だけど、もう4月で暑い。

いつもより早く書く。明日長いシミュレーションがあって、そのあとは時間がないから。元気だ。変なものを食べているけど、夜にセンターのレストランでベトナム人のシェフがまずまずのコーヒーを淹れる。エスプレッソじゃないけど、この大陸ではいちばんマシだ。

あと4ヶ月で発つ。もう知っているね。クリスマスに言った通り6月には戻らない。パリオには行けなくてごめん。広場で、本番前のリハーサルのときに、俺の分2杯飲んでくれ。トルトゥーカ[カメ]に賭けよう。

アンナと子供たちによろしく。ディアナの頭の真ん中、耳の間を撫でてやってくれ、好きな場所だ。

愛してる。

ルカ。」

一度読み返す。修正しない。送信する。

机から立ち上がる。窓に行く。外、ヒューストンの上空、空は曇っている。星は見えない。彼はそこに1分残る。それからシャッターを下ろす。


第23週。シミュレーターB-3、ラボ。

(英語で)

シミュレートされた分析テーブルの上 ― 上からのカメラ、横のモニター、ガラスの容器 ― に、3日前のEVAシミュレーション中に採取された土壌サンプルが置かれている。サンプルはグレーブラウンの素材、約200グラム。

ミハイロワは容器のガラス越しに観察する。アイヤーは分光分析モニターのところに、彼女の左に立っている。チェン・ウェイは2メートル後ろに座って、自分の分析タブレットを持っている。

「分光成分」とアイヤーがモニターを読む。「炭素14.2パーセント、酸素31、窒素8.2、リン3.1。カルシウム、ナトリウム、マグネシウムの痕跡。」

「興味深い」とミハイロワ。「炭素と酸素の比率は標準的火星土壌には非典型的。最も即座の説明は、後から人為的に堆積されたものということ。私の仮説は、有機物の加工残渣で、埋葬または捧げの儀式の一環として意図的に堆積されたもの。」

「システム?」とアイヤー。

「ミハイロワ博士の解釈は観察されたパターンと整合する。確率:89パーセント。」

チェン・ウェイが人差し指を上げる。

「はい、チェン博士?」とアイヤー。

「比率 ― 炭素、酸素、窒素、リン ― は生物起源の有機組成と整合する。加工された物質ではない。サンプルに製造の痕跡が見えない。」

1秒の間。誰もチェン・ウェイを見ない。

「システム?」とミハイロワ。

「チェン博士の仮説は理論的には整合するが、発見の考古学的文脈を考えると統計的に低い確率。確率:11パーセント。」

「可能性を記録して」とミハイロワがアイヤーに。「儀式分析を続けて。」

「了解。」

チェン・ウェイは人差し指を下ろす。自分のタブレットに何かを書く。ミハイロワは見ない。


第24週、水曜日。最終フルミッションプロファイル・シミュレーション、打ち上げ準備から火星表面からの再上昇まで。総合パフォーマンス:96.2パーセント。

(英語で)

ヴァンスはデブリーフィングの最後、六人の前に立ち続ける。

「諸君は準備完了だ。打ち上げは8日後。明日クールーへ発つ。」

間。

「諸君は、現実が許す限りのことをやった。この瞬間から、プログラムは私の管理を離れ、諸君の管理に入る。ありがとう。」

ヘイズが立ち上がる。

「ありがとうございます、ヴァンス博士。」

握手する。ヴァンスは他の全員とも同じことをする。簡潔、短い。会議室を出る。

六人はテーブルの周りで数秒立ったままでいる。ヘイズが見回す。

「明日の夜、一緒に食事しよう」と言う。「六人で。センターの外のどこかで。場所は諸君が決めてくれ。」

誰も反対しない。タナカはメモする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。