恋の予感?
シャルマタの滞在は数日に及んだ。
その間、ルルシャンティエとシャルマタは朝から晩まで執務室に籠り、ロムスタールの復興計画から今後の国家運営まで、細かな話し合いを続けた。意見がぶつかる事もあったが、二人とも合理主義者だ。感情より実利を優先し、落としどころを見つけるのが早かった。気づけば食事も共にするようになり、夜遅くまで書類を広げながら言葉を交わしていた。
そんな二人の様子を、エルアリーゼは廊下からひょこひょこと覗いていた。
数日後の朝、エルアリーゼはルルシャンティエの執務室に入るなり、開口一番に言った。
「ルル姉、シャルマタの事好きなんやろ?」
ルルシャンティエはエルアリーゼの言葉に反応し、とてつもなく鬱陶しげに書類から目を上げた。
「……何を根拠に」
「だってずっと一緒におるやんか〜。楽しそうやしぃ」
「仕事の話をしているだけです」
「またまた〜、顔が柔らこうなっとるで」
ルルシャンティエは否定しようとして、少し間を置いた。条件だけで考えれば、確かに悪くない。合理的に話が出来る。実務能力もある。西側の大国の王だ。
「……まあ、条件的には悪くないかもしれないわね」
それがエルアリーゼには十分すぎる答えだった。
「やっぱり!」
エルアリーゼは目を輝かせた。尾がぱたぱたと揺れている。
「恋や恋!ルル姉に春が来たでー!」
「ちょっと、リーゼ——」
しかしエルアリーゼはもう廊下に飛び出していた。
シャルマタが荷をまとめていると、執務室の扉が勢いよく開いた。
「なあなあなあ、シャルマタ」
「あ?何……か用ですか?」
シャルマタは付け焼き刃の敬語でエルアリーゼに対応する。少し気を抜くと素が出てしまうが、エルアリーゼもそこは気にしていない。
「ルル姉がなぁ、シャルマタの事好きなんやて」
シャルマタは手を止めた。
「……は?」
「条件的に悪くないって言うてた」
「……それは本人から直接聞いた話か?あ、いや、ですか?」
「そやで」
シャルマタはゆっくりと息を吐いた。四本の腕を組み、天井を仰いだ。
「お嬢……そういうのはな、知ってても黙ってるもんなんだぞ?」
「なんで?」
「なんで、じゃない。そういうもんだ。」
シャルマタは深く、もう一度息を吐いた。呆れているのか、困っているのか、あるいはその両方か。しばらく黙った後、ぼそりと言った。
「まあ……悪い気はしないがな」
「じゃあ良かったやん!」
「良かったで済む話じゃないだろ……」
シャルマタは腕を組んだまま続けた。
「そもそもルルシャンティエは宰相だ。このアヴェンティス領から出られない。そして俺はロムスタールに帰らなければならない。会いに来るにも距離がある。そう簡単な話じゃないだろ?」
エルアリーゼは少し考えた。確かに、ルルシャンティエをロムスタールに連れて行かれては困る。かといってシャルマタをいつまでもここに引き留めておくわけにもいかない。
しばらく腕を組んで考えていたエルアリーゼは、やがてぱっと顔を上げた。
「ちょっと待っててや」
どこかへ行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。手のひらに、小さな赤い石を乗せている。
「はい、これ」
シャルマタは石を受け取った。親指ほどの大きさで、深い赤色をしている。一見ただの小石だが、触れた瞬間に只ならぬ魔力を感じた。
「……何だこれ」
「転移魔法込めといたわ。魔力込めたらアヴェンティス領とロムスタールを行き来出来るで」
シャルマタの手が止まった。
「……転移魔法を」
「そ、石に込めといたから、誰でも使えるで?」
シャルマタはしばらく石を見つめた。転移魔法そのものが前代未聞なのに、それを石に込めて他者が使えるようにするなど、魔法学者が聞けば卒倒するような話だ。
「お前な……これがどれだけとんでもない物か分かってるか?」
「便利やろ?」
「いや、便利で済む話じゃ——」
シャルマタは言いかけて、止めた。この小娘に言っても仕方がない。ただ便利だと思ってやったのだろう。それ以上でも以下でもない。そして簡単に渡してくるあたり、別に大した物でもないのだろう。
石を握りしめ、深く息を吐いた。
「……ならありがたく使わせてもらう」
「うん!ほなそれもう一個あるからルル姉に渡してきぃな」
「それは自分でやれ」
「えー」
「えー、じゃない」




