↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/34

初恋?

※注意!


今回からあからさまなガールズラブ?要素が含まれます!

 商業区を訪れたエルアリーゼ達は、様々な店の主人に声を掛けられ、歓待を受けた。新しい魔王の視察とあって、店主たちは我先にと試食や試供品を差し出してくる。しかしあまり長々と一所に留まる訳にもいかず、エルアリーゼは適当なところで店主達を散らし、興味があれば此方から出向くと釘を刺して視察を続けた。


「おっ、奴隷売っとるやん」


 様々な店が並ぶ中、エルアリーゼが興味を示したのは奴隷商館だった。立派な石造りの建物で、重厚な扉には商館の紋章が刻まれている。


「ニャ?リーゼ様は奴隷に興味があるニャ?」


 王様だから別に奴隷なんか買わなくても、国民は皆いう事を聞くんじゃないニャ、とタマノワールは首を傾げた。


「ウチも貴族やし、掘り出し物が居ったら欲しいんよね〜……店主、魔王サマのおなりやで〜?奴隷見せてや〜?」


 エルアリーゼは奴隷制度に対し肯定的な考えの持ち主だった。強い者が弱者を支配するのは当然だし、奴隷に対してもそうだと思っていたからだ。アヴェンティス家でも召使いの奴隷は居たし、今回も良い奴隷がいたら買って帰ろうという軽い気持ちでの来館だった。


「ああ!これはこれは魔王陛下……!大変申し訳ないのですが……ただいま立て込んでおりまして……!」


 奴隷商が慌てて応対するが、何やら商館内が騒がしい。誰かの怒声と何かが壊れる音が響いている。


「何かあったのですか?」


 メルクシュタインが奴隷商に何事かと尋ねた。


「は、はあ……実は新しい奴隷が暴れておりまして……」


「何や、それくらいどうにか出来んの?」


「その奴隷というのが、元々高貴な身分の御方で、かつ準魔王級の戦闘奴隷でして……手がつけられないのです……」


 奴隷商は額の汗を拭った。


「良えやん良えやん、ウチそういうん求めとったんよ」


 生きが良いやんとエルアリーゼは奴隷商の話に目を輝かせ、件の奴隷を一目見ようと店の奥へと進んでいく。


「ああ!危険です陛下!もしお怪我でもされたら……」


「は?する訳ないやん。ウチ滅茶苦茶強いんやで?」


「それは……そうですが……何かあっても私めに非は御座いませんからね?」


「良えよそんな気にせんと……この部屋やね?それじゃご対め〜……ん……」


 ガチャリとドアを開け、エルアリーゼは中で暴れていた奴隷と目が合った。


「リ、リーゼ様……大丈夫ニャ?」


 ドアを開けたままの姿勢で固まっているエルアリーゼに、タマノワールが恐る恐る尋ねたが、反応は無い。


「陛下?」


 メルクシュタインも声を掛けたが返事は無く、エルアリーゼは固まったままだ。


「え……ちょ……え……?」


 エルアリーゼはやや混乱した様子で、ゆっくりとドアを閉めた。


「ヤバいヤバいヤバいてアレは……!」


 エルアリーゼは顔を真っ赤にし、小声でタマノワールとメルクシュタインにそう告げた。


「そ、そんなとんでもない御方が部屋の中に……?」


「化け物かもしれないニャァ……!」


 メルクシュタインとタマノワールはエルアリーゼの様子から、部屋の中にとんでもない化け物のような奴隷が居るのだと恐怖した。


「え?いやいや、そうやなくて……中にその……ものごっつい可愛い子ちゃんが居って……アカン、顔熱い……なんか胸苦しいわ……」


「は……?」


「ニャ……?」


 エルアリーゼの顔はかつて無い程赤く熱っており、その顔は正しく恋を初めて自覚した少女そのものであった。


(あ……そーいやこの方まだ十三歳だったニャ……)


 魔王だなんだと仰々しいが、エルアリーゼは思春期真っ盛りの少女なのだ。


(まさか……初恋なのでしょうか……?)


 ヒソヒソとタマノワールとメルクシュタインが話し合った。この様子だとまだエルアリーゼは恋を経験していないのかもしれない。


「失礼、陛下?無礼を承知で申し上げますが……その……一目惚れという物でしょうか?」


 単刀直入にメルクシュタインが尋ねた。もしそうなら問題だ。魔王たる者が奴隷に恋だのと、身分違いも甚だしい。


「え……?一目惚れ……?そ、そう……なんやろか……?いや、うん……そっかそっか、そうかも知れん……」


(ヤバいニャ!反応が初々し過ぎるニャ!)


(不味いですよ……!元が高貴な方とはいえ……奴隷じゃあ陛下と釣り合いません!)


 敬愛するエルアリーゼの初恋……応援したいのは山々だが、相手が奴隷となれば話は違ってくる。


(此処は陛下に諦めて頂くしか……)


(ニャニャ⁈ダメニャ‼︎そんな事をしたら国が滅ぶニャ‼︎)


 覚悟を決めてエルアリーゼを諫めようとするメルクシュタインを、タマノワールが全力で止めた。エルアリーゼは恐らく初恋。それが失恋などすればどんな恐ろしい事が起こるか分からない。恋を初めて自覚し、幸せそうなあの顔を見て、奴隷だけは駄目ですなどと告げれば、エルガリアはロムスタールやグロスリーグ以上の悲惨な目に合うに違いない。タマノワールの行動は英断であった。


(しかし……陛下なら奴隷であろうと気にせず婚姻を結び兼ねませんよ?)


(仕方ないニャ!リーゼ様を怒らせる様な事は絶対ダメニャ!)


 エルアリーゼの幸せは願えど、身分違いの恋は応援出来ない。どうにか諌めつつ、諦めて貰う……どうすれば良いのだ⁉ メルクシュタインは頭を抱えた。嗚呼、あの目の下に深い隈を作っているあの上司は、いつもいつもこんな悩みを一人で抱えているのだろうか。エルアリーゼの事で頭を悩ませるルルシャンティエを思い出し、メルクシュタインはその苦悩を偲び、目頭が熱くなるのを感じた。


(どうします?)


(取り敢えず様子を見るニャ!もしかしたらリーゼ様がフラれるかもしれないニャ!)


 どう転ぶか分からない現状では静観するしか無いとタマノワールは動きを見せない。


「店主、あの子……ウチが買う!幾らや!」


「え⁉ そ、そんな陛下……!せめてもう少し吟味された方が宜しいのでは⁈面談すらしていないのですよ⁈」


「そうニャそうニャ!見た目だけで判断するとえらい目こくニャ!」


 即決で奴隷を購入しようとするエルアリーゼをメルクシュタインとタマノワールが決死の覚悟で止めに入った。


「面談かあ……せやね、面談……しとこか?」


(あ、危なかったニャ〜……!)


(何とか首の皮一枚繋がりましたが……どうなる事やら……)


 二人が胸を撫で下ろしたのも束の間、エルアリーゼは再び扉に手をかけた。


「失礼しまー……おわぁ⁉︎」


 再びドアを開けた瞬間、中に居た奴隷がエルアリーゼに飛び掛かり、一瞬で首筋に食らい付いた。


「陛下ッ⁉︎」


「リーゼ様ッ⁉︎」


 慌てて助けに入ろうとするメルクシュタインとタマノワールだが、奴隷に鋭い視線で睨まれ、足が止まった。圧倒的な魔力が波のように押し寄せてくる。


「そそそ、そんないきなり……⁉︎せ、積極的やぁ……!」


 当のエルアリーゼは首筋に食らい付かれたとはいえ、全くの無傷だ。歯が当たっている所が少し窪んでいるが、強靭な魔王の皮膚を食い破るには至らなかった。その上でエルアリーゼは奴隷が首筋に熱烈な口付けをして来たと勘違いして大興奮していた。


「チッ!」


 一方の奴隷は牙が通らないとなると素早くエルアリーゼから離れ、距離をとった。


「ありゃ?」


 奴隷が離れ、エルアリーゼは少し残念そうな顔をした。


 二人が距離を取った事で、ようやくその奴隷の全容が見えた。


「あれが暴れているという奴隷……」


「ぎ、銀色ニャ⁉︎」


 エルアリーゼに襲い掛かったのは銀髪、銀の鱗のドラゴケンタウレだった。短く切り揃えられた髪は如何にも戦士らしいと思わせるもので、銀の鱗は室内でありながらギラギラと輝いている。太さこそエルアリーゼの半分程しかない尾は、その分非常に長く、奴隷の動きに合わせ、鞭のようにしなやかに動く。歳の頃はエルアリーゼと然程変わらない様に見え、整った顔立ちながらどこか異国風を思わせる風体で、更にドラゴケンタウレでありながら、特徴的な背中の翼が見当たらない。


 メルクシュタインとタマノワールはこの風体のドラゴケンタウレにある心当たりがあった。


「まさか……楊帝国の皇族の御方でしょうか……?」


「多分そうニャ……三年くらい前に大粛正があった筈ニャけど……」


 銀の鱗は楊帝国皇族の証だ。非常に強力な魔力を有し、生まれながらに魔王級、純魔王級の実力を持つ強者の証でもある。ただ、それ故に銀の鱗を持たずして生まれた子は、皇位継承権を持たないどころか、皇族とすら認められないという。


 数年前に皇帝の代替わりがあった楊帝国では、政敵になり得る皇族の大粛正があった。おそらくその生き残り、継承権が低く、奴隷落ちにさせられた皇女なのだろうとメルクシュタインとタマノワールは納得した。


「貴女、何者?金の鱗なんて初めて見た……」


 奴隷皇女がエルアリーゼに問うた。凄みを効かせるためか少し声を低くしているが、可愛らしい声だ。


「声も良え……ウチら金と銀やで?……なあなあなあ!もうこれって……運命やろって!」


 エルアリーゼは銀の奴隷皇女そっちのけでキャーキャーと盛り上がり始めた。その様子にメルクシュタインとタマノワールは頭を抱えた。


「……まあ良いわ、今のがどういう事か……もう一度確かめれば分かる事ッ‼︎」


 銀の奴隷皇女は細い尾を鞭のようにエルアリーゼへ叩き付けた。パァンとエルアリーゼの胴を打つ強烈な破裂音が室内に響く。


「し、尻尾絡めて……いやん、いやん!そんなもうっ!破廉恥過ぎるて……!」


 しかし音速で繰り出された筈の一撃は、しっかりとエルアリーゼに見切られており、エルアリーゼは銀の尾を金の尾で見事に絡め取っていた。


「さ、流石は陛下……」


「お見事ニャ」


 興奮するエルアリーゼを他所に、メルクシュタインとタマノワールは易々と攻撃を防いだエルアリーゼを賞賛した。当のエルアリーゼは、これを尾と尾を絡ませるドラゴケンタウルス族の濃密な愛情表現だとしか思っておらず、勘違いを加速させ、更に顔を赤くし、その表情はかつて無い程の百面相を見せていた。


「くそっ!離せ!」


 鉄線が絡み付いたかのようにびくともしない尾を引っ張り、再び距離を取ろうとする奴隷皇女を他所に、エルアリーゼの妄想は加速していく。


「会ったばっかりや言うのに、こんなにもウチに滅茶苦茶するなんて……こらもうそういう事やんなぁ⁈ええで……こないなウチかてこんなにも積極的に口説かれたんは初めてや……覚悟決めるさかい!」


「は……?アンタさっきから何言って……ッ⁉︎何を……⁉︎」


 奴隷皇女の腰を優しく抱き寄せ、エルアリーゼは熱っぽい視線を皇女に向けた。


「ウチはエルアリーゼ。エルアリーゼ・アヴェンティス。貴女の名前は?」


 静かに、しかし真剣な目で問いかけた。先ほどまではしゃいでいた様子とは打って変わって、その目には真っ直ぐな輝きがあった。


「……チッ!麗姫だ……」


 拘束を解こうと力を込めるも、エルアリーゼはびくともしない。結局観念したのか、二度目の舌打ちの後、奴隷皇女は麗姫と名乗った。


「レーキちゃん?良え名前やぁ……外国の人なんね」


 恋は盲目というが、エルアリーゼは麗姫の舌打ちすら気にせず、レーキレーキとはしゃいでいる。


「コイツ……頭沸いてんじゃないの?」


 エルアリーゼの様子に、流石の麗姫も毒牙を抜かれたのか、タマノワール達にそう尋ねた。


「わ、沸いて……いや、ある意味そうかもニャけど……言葉は選んで欲しいニャ……」


 初恋ではしゃぎ回っているのを沸いてると称せばそうかもしれないが、だからといって十三歳の少女をそこまで蔑むのは可哀想だと、今年で三十一歳になるタマノワールはエルアリーゼに同情的だった。


(いやしかし……これはこれで更に不味いですよ……女性とは思いませんでしたから……)


 メルクシュタインが今後の事を思い顔を青くした。まさか同性だとは思わなかったのだ。同性愛というものが存在し、貴族の嗜みなどと言われているのはメルクシュタインも知っていたが、あくまでそれは遊びであり、婚姻関係にまで発展する事が無いものだ。だが、エルアリーゼは普通では無い。恐らくこの様子ならどんな手を使ってもこの奴隷皇女と添い遂げようとするだろう。


「ねえ、この女……一体何者なの?何って言ってるのか聞き取り難いわ……」


「ニャァ……リーゼ様の南部訛り、キッツイからニャァ……」


 楊帝国生まれの麗姫にとって大陸共通言語は、母国語では無い。喋れることには喋れるのだが、あまり得意では無く、エルアリーゼの様に訛りがきついと上手く理解出来ないのだ。


 どうしたものかとタマノワールが頭を掻いていると、奴隷商が麗姫へエルアリーゼの紹介を買って出た。


「こ、この御方は金龍姫の異名を持つ、エルアリーゼ・アヴェンティス陛下と申されまして……このエルガリアを興された新たなる魔王陛下で御座います」


 奴隷商が奴隷にそう及び腰で言って良いのかと問いたいものだが、相手が元皇女だと勝手も違うのだろう。


「金龍姫……?コイツが?」


「そうニャ!あ、あんまり無礼な態度は取らないで欲しいニャ」


 エルアリーゼの正体を知り、麗姫は一層怪訝な顔をした。エルアリーゼの噂は聞いていたが、それ故にもっと邪悪な魔王を想像していたのだ。目の前のこの少女のどこが魔王なのかと、麗姫は内心首を傾げた。


「あのー……申し訳ありません。宜しければ麗姫……様の来歴と、我々について詳しくお話しさせて頂きたいのですが……構いませんかね?」


 メルクシュタインの提案に麗姫は頷いた。


「そうね、私も暴れてる場合じゃ無くなっちゃったし……というか誰かコイツ引き剥がしてくれない?」


 エルアリーゼをコイツ呼ばわりしてしまう麗姫に、その場の全員が凍り付いた。


「無理ニャ」


「無理です」


「そ、そのままでお願いします」


「な、なんなのよ……全く……」


 結局麗姫に諦めて貰う形で、一行は客間へと移った。


「それでは改めて……元楊帝国第九皇女 玉麗姫様です」


「……今はただの麗姫よ。けどいずれ皇帝の座と共に奪い返してやるわ!」


「分かってたけど訳ありニャァ……」


 麗姫の様子から面倒な事になりそうだと思ってはいたが、案の定彼女の来歴は厄介事の塊だった。


 まず、麗姫は現皇帝の末の妹に当たり、皇位継承権も持っていた。しかし、謀反により前皇帝が次女の瑶蘭に討たれ、継承順位の高い兄姉は処刑、低かった麗姫達末弟末妹は奴隷として国外に追放となったのだ。


「勿論私も挙兵し、瑶蘭と戦った。若いとはいえ私も銀鱗……瑶蘭に遅れは取らない……そう思って居たんだけど……」


「何かあったのですか?」


「瑶蘭だけなら問題なかった。けど、彼奴はいつの間にか国外から化け物共を招き入れ、手勢に加えていたのよ!」


「化け物……?」


 化け物と聞き、メルクシュタインが眉を顰めた。純魔王級である麗姫が化け物と称する者達……花夜のような前例がある以上、ひょっとしたらひょっとするかもしれないと思ったのだ。


「そう、化け物……この金鱗が部屋に入って来た瞬間、奴等の手先かと思ったわ」


「そ、その化け物というのは陛下と同等だというのですか?」


「分からない……圧倒的だったって点は悔しいけどコイツと同じね。ってかあんた達知り合いじゃないわよね?ラグサニア聖教会って奴等なんだけど?」


「ラグサニア聖教会⁈」


「え?知り合い?」


「いえ、ですが西側諸国では知らぬ者が居ない最大宗派です」


 ラグサニア聖教会、大陸有数の大宗派であり、巨大な勢力故に良い噂も悪い噂も絶えない宗教だ。教会内に派閥も多く、教会全体が何かしているのか、一部派閥が関係しているのか、そこまではメルクシュタインにも判断がつかなかった。


「ああ、そういう事か……じゃああんた達はラグサニア聖教会とは関係ないのね?」


「宗教?そないなもん信じてなんになるん?ってかウチ魔王やし、魔王ってのは神を信じるんやのうて、ぶち殺すモンやろ?」


「神……殺し……?だからアンタ何言ってるか分かんないんだってば!」


 エルアリーゼが会話に入ってくるが、やはり訛りが強くきちんと麗姫に伝わらない。


「兎も角、瑶蘭とは必ずこの手で決着をつける!その為にも私はもっと強くならなきゃいけないの!こんな所で奴隷なってる場合じゃないんだから!」


「ふぅん、麗姫ちゃんは楊帝国潰したいん?」


「は?楊を潰す?別に……国自体に恨みは無いわ。用があるのは現皇帝だけよ!」


「麗姫ちゃん、ウチ、次は楊帝国併呑しよう思うとる。その気になれば麗姫ちゃんを皇帝に挿げ替える事も出来ると思うんやけど……どない?」


 口調こそ砕けているが、エルアリーゼの目は笑っていなかった。本気で麗姫を皇帝にする。そう言っているのだと、曖昧ながらもそれは麗姫に伝わっていた。


「お断りよ!私は私の力で瑶蘭をぶち殺すわ!」


「そっか……ほなウチがでしゃばるんはあかんな」


 エルアリーゼは麗姫の腰に回していた手の力を緩め、彼女を膝から下ろした。麗姫は素早く距離を取り、エルアリーゼを睨んだ。


「けど、折角やからウチが麗姫ちゃんを鍛えたる!なあなあ、それくらいなら良えやろ?良えやろ?」


「はあ?アンタが私を?そんな事出来る訳ないじゃない!」


「や、やってみな分からんやん!」


 エルアリーゼが食い下がると、麗姫は呆れたような顔をしながらも、完全に拒絶はしなかった。


「と、兎に角、麗姫様は我々で保護するという事にしては如何でしょう?」


 メルクシュタインが助け船を出した。


「せやなメルク!保護や保護!奴隷かて麗姫ちゃんも成りとうて成った訳や無いんやし、元々皇女様なら保護が適切やな!」


 良え事言うやんとエルアリーゼはメルクシュタインを褒めた。


「ちゅう訳で店主!麗姫ちゃんはウチが保護する!けど今日まで麗姫ちゃんを保護しとったんは大義やった!ちゅう事でコレ取っとき!」


 エルアリーゼは態とらしく芝居掛かった口調でそう言うと、空間収納の中からずしりと重そうな麻袋を取り出し、奴隷商に渡した。


「は、白金貨……⁉︎それもこんなに……⁉︎お、多過ぎます!麗姫様は私めも白金貨一枚で取り引きさせて頂いております故!」


 奴隷商が慌てて金貨の詰まった袋をエルアリーゼに返そうとするが、エルアリーゼはそれを突き返した。


「なんや?店主……麗姫ちゃんがそない安い訳無いやろ‼︎」


(バカ!ここは素直に受け取っとくニャ‼︎)


 タマノワールが慌てて奴隷商に耳打ちし、奴隷商は即座に態度を一変させた。


「お、おお!私めとした事が……勘違いしておりました。麗姫様程の高貴な御方が、白金貨一枚などと……いやはや、歳の所為で耄碌しておった様です」


「せやろ?ほんまはもっとやんな〜?」


 そう言ってエルアリーゼは更に同額の入った白金貨の袋を追加で奴隷商に渡した。


「ひっ……⁉︎」


 これには流石の奴隷商も悲鳴にならない悲鳴を漏らした。


「麗姫ちゃんの事……誰かに言うたら殺すかんな?」


 低く、凄みのある声でエルアリーゼは忠告した。追加分は口止め料であるというのが否応にも分かる言動だ。先ほどまでの初恋にはしゃぐ少女の顔は鳴りを潜め、その目には魔王としての冷たい光があった。


「か、畏まりました……!絶対に他言いたしません!」


 奴隷商は何度も何度も激しく頷き、深々と頭を下げた。


「ほなそういう事で、一旦戻ろか?」


「そうですね……今日はもう視察どころではありませんね」


 メルクシュタインは苦笑いしながら言った。事実上麗姫を買い取ったエルアリーゼ達は視察を切り上げ、帰る事にした。


 出口に向かいながら、エルアリーゼはちらりと麗姫を横目で見た。麗姫は不満そうな顔をしながらも、大人しくついてきている。


(ルル姉、どないしよかな……)


 この事をルルシャンティエにどう説明するか、珍しくエルアリーゼは少し悩んでいた。しかしすぐに、まあ何とかなるやろ、という結論に至り、その表情はまたいつもの気楽なものに戻っていた。


 後ろではタマノワールとメルクシュタインが、ルルシャンティエへの報告をどうするかについて、小声で激論を交わしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。