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花夜

「世界にはアンタみたいなんが仰山居るん?」


 ホワイトチョコレートを口に入れながら、エルアリーゼは花夜にそう尋ねた。白くて濃厚な乳の甘さが口の中に広がる。普通のチョコレートとは全く異なる味わいだが、エルアリーゼは一口でホワイトチョコレートの虜になっていた。


ホワイトチョコレートは美味しい。


「昔は沢山居ましたよぉ」

夢中でチョコを食べるエルアリーゼに対し、花夜は穏やかに答えた。

「特に強い方なんかは神話に出てきますけど、あれって誇張無しにそれくらい強かったんですよ。神話より強い方も居ましたし」


当然の様に神話について話す花夜お婆ちゃんだのまだ二千歳では無いだのと話す内容があまりに荒唐無稽過ぎ、エルアリーゼ以外苦笑いして聞いている。




「神話より強い……」


「けど特に危険な方々は殆ど御主人様が殺しちゃいましたねぇ」


花夜は続けた。


「御主人様も争いが好きな方じゃありませんが、凄く凄く強かったので、周りが放っておかなかったんですよ」


 花夜の主人はあまり自分から仕掛ける様な性格では無かったが、手向かう者には容赦が無かったそうだ。その話を聞きながら、エルアリーゼはふと気になった事を口にした。


「ウチとその御主人様ってどっちが強いん?」


「間違い無く御主人様ですねぇ」


花夜は迷いなく答えた。


「けどそれは貴女が弱いからでは無く、単純に経験の差でという事です」


「経験の差……」


「貴女は強いですが、技も技術も無い。元々持ってる強い力をそのまま振るっているだけでしょう?」


身体が大きい、力が強い。ただそれだけで鍛え上げた武術家を一方的に倒せてしまう様に、エルアリーゼは桁違いの力で相手を捩じ伏せている。そう花夜は指摘しているのだ。


「せやね。それでどうにでもなるし、技とか魔術とかって弱いやん?」


身に掛かった埃や塵を払うのに特別な物は必要ない。エルアリーゼの技や魔術に関する認識はそれくらいの感覚であった。


「皆さんが使う様な普通の技や魔術を模倣しても駄目ですよ」


花夜はくすりと笑った。


「そうですねぇ……少しだけなら教えれますが、どうします?」


「勿論教えて欲しいわ」


自分に近しい存在。その先達が自身の持つ技術を教えてくれるという。願ってもない機会だ。


「では明日この先にある畑の跡地で練習しましょうか?」


「良えよ」


 エルアリーゼが二の句を継がず頷くと、傍らで話を聞いていたタマノワールがおずおずと口を開いた。


「何だか凄い話になってきましたが……花夜様は一体何者なんですかニャ?」


確かにそれについてはエルアリーゼも興味がある。実力者なのは確かだし、名前くらい聞いていてもおかしくないが、一切そういった情報がないのだ。


「今はただのお婆ちゃんですよ」


花夜ははぐらかす様にそう答える。


「リーゼ様より幼い顔でお婆ちゃんと言われても説得力無いですニャ……」


納得いかないタマノワールは花夜へじっとりとした視線を向け、不満げに抗議する。


「と言われても本当に今は何の肩書きも無いですからね」


「昔はどうだったんですかニャ?」


「文官の様な事をしていましたよ。争い事は他にお強い方達が多かったので、あまりした事がありませんねぇ」


高い戦闘能力はあれど、それよりも頭の良さを評価された花夜は実務能力を買われて物資の流通関連を取り仕切っていたという。


「とても信じられへんわ……」


 エルアリーゼは残りのホワイトチョコレートを口に放り込みながら、花夜をじっと眺めた。


「血の気の多い方は幾らでも居ましたが、私みたいなのは逆に貴重で、私自身争い事を好む性格でもなかったので丁度良かったんですよ。」


昔は脳筋ばかりで苦労したと話が脱線しそうになりつつ、花夜は自身の逸話が残っていない事についても触れる。


「とはいえ全く戦わないという訳にもいかず、何度か戦争は経験していますね。他の皆さんの戦果の方が凄くて私なんかの話は残ら無かったんです。」


花夜もドラゴンナイトや敵の将兵を単騎で撃破した事はあった。普通なら誇って良い武功だ。だが、同じ戦場に神や天使、巨人等が跋扈するのが当たり前だったので必然的に目立たなかったのだという。


「その話が本当なら、何となく花夜様の仰る御主人様に目星が付きそうな気がしますニャ」


タマノワールは有名な神話を思い出しながら、その主役といっても過言では無い人物を思い浮かべていた。


「ウチもや。けど神話がホンマやったってのは嬉しい話や。ウチ、自分だけが異常なんかと思うとったからな」


「いいえ、エルアリーゼさんは本当に凄いです。御主人様に匹敵する才能の持ち主ですよぉ?けれど磨いていない原石と一緒なのでまだ本当の実力が発揮出来ていないだけなんです」


花夜はエルアリーゼを褒める。


「人は誰と会い、どんな環境で育つかによって大きく変わります。エルアリーゼさんはこれまでその機会に恵まれなかっただけです。この出会いが貴女にとって良き出会いに出来るよう私も頑張りますね」


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