表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

都市構想

エルアリーゼがタマノワールを連れてルルシャンティエの執務室に飛び込んできたのは、夕方の事だった。


「ルル姉ルル姉、見てみて!珍獣連れて来たで!」


 ルルシャンティエは書類から目を上げた。扉のところに、黒い毛並みの獣人が困り顔で立っている。


「珍獣て……」タマノワールが小声で呟いた。


「フェルミー族の方?」


 ルルシャンティエはごく自然に言った。タマノワールがぱっと顔を上げる。


「ご存知なんですニャ?」


「ええ、交易の関係で何度かお会いした事がありますわ。無理矢理連れて来たの?」


「いやいや、ちゃんと話して連れて来たわ」

エルアリーゼは少し頬を膨らませた。

「何や知っとったんかいな……つまらんなぁ」


「珍獣扱いされた私の気持ちにもなってほしいですニャ……」


 タマノワールが遠い目をした。


 その後、三人は執務室に落ち着いた。エルアリーゼはタマノワールから譲り受けたチョコレートをつまみながら、上機嫌に話し始めた。


「このタマノワールはな、世界中の食材や調味料に詳しくて、各地を渡り歩いとるんよ。これがまた面白い猫ちゃんでな」


「そうですか」

ルルシャンティエはタマノワールに軽く頷いた。「それでリーゼ、彼女を連れて来た理由は?」


「それがな」

エルアリーゼはチョコレートをもう一粒口に入れながら続けた。

「タマノワールと話しとって思ったんやけど、エルガリアに包括的な流通網を作ったらどうかなって。世界各地の食材や物資をいつでも取り引き出来る様にするんよ。ゆくゆくは食の都とかで良えんやないかと思うんよ」


「食の都……」


「ええやろ?美味しいもんが何でも手に入る国って最高やんか」


 ルルシャンティエは少し考えた。食の都云々はさておき、包括的流通網という発想は面白い。各地との取り引きを一元管理出来れば、物資の安定供給にも繋がる。リスク分散にもなる。


「それで」エルアリーゼは身を乗り出した。

「転移魔法石、量産したらどうやろ?世界各地に置いといたら、いつでもどこからでも物を取り引き出来るで」


 ルルシャンティエの手が止まった。


「……転移魔法石を、量産?」


「簡単やで。石に魔法込めるだけやし」


 簡単やで、ではない。しかしルルシャンティエの頭は既に別の方向へ動き始めていた。転移魔法石が各地に置かれ、物資が瞬時に行き来出来る流通網。その経済効果は——考えるだけで途方もない数字が浮かんだ。関税、流通手数料、独占的な交易権。エルガリアが大陸の物流の要になる可能性がある。


「……良い考えだと思うわ」


「やろ?」

エルアリーゼが嬉しそうに尻尾を揺らした。


「だけど」

ルルシャンティエはエルアリーゼをじっと見た。「それを行う人材が居ないの。誰かさんが連れて来てくれるって話だったと思うのだけれど?」


 エルアリーゼの動きが止まった。


「……あ」


「あ、じゃないわ。タマノワールさん一人では流石に足りないでしょう。他の人材はどうしたの?」


「……忘れとった」


「忘れとった、ではないでしょう」


 ルルシャンティエの声は穏やかだったが、有無を言わさぬ圧があった。エルアリーゼはもごもごと口を動かし、チョコレートを一粒つまんでから立ち上がった。


「わ、分かったわ。今から行ってくるわ」


「行ってらっしゃいませ」


「今から⁉︎」タマノワールが目を丸くした。


 エルアリーゼはもう窓を開けていた。黄金の翼を広げ、夕暮れの空へと飛び出していく。あっという間に見えなくなった。


 執務室に静寂が落ちた。


 タマノワールはおずおずと手を挙げた。


「あの……私はどうしたら……?」


 ルルシャンティエはタマノワールを見た。突然連れて来られ、突然置いて行かれた、困り顔の黒猫。事情は概ね把握した。


「リーゼが帰って来るまではこの辺りで商売しておいてくれる?貴女の馬車は表にあるみたいだから」


「あ、はい……それは構いませんニャ」


「助かります」

ルルシャンティエは少し間を置いた。

「それと」


「はいニャ?」


「このチョコレートというもの、もう一箱貰えるかしら?」


 タマノワールはぱちりと瞬きした。それから、ふわりと笑った。


「喜んでニャ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ