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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第四十八章 退かない

 画面が続いた。


 二十六歳のヴァイラが正式に新任首席となった。彼女が引き継いだ議会は、すでに彼女が再編成した議会だった。彼女は仕事を始めた。


 彼女がやった一つ目のこと、それは謎域全体の廃ガス排出システムの書き直しだった。すべての会社、すべての工場、廃棄物を出すあらゆる事業者は、自分で処理しなければならない。排出口は住宅区に向けてはならない。違反したら罰金で済むのではなく、直接営業許可を取り消される。


 彼女がやった二つ目のこと、それは医療システムだった。VIP通路は全部廃止。医療資源は支払能力ではなく、需要に応じて分配する。


 彼女がやった三つ目のこと、それは司法システムだった。重大な環境、労働、健康関連の犯罪は、罰金では解決できない。実刑が必要。


 彼女がやった四つ目のこと、それは感染症期間のあのアルゴリズムだった。すべての「家族の経済能力」といった指標は永久に削除された。


 スクリーンに、ヴァイラ自身が書いた言葉が浮かんだ。


「私はたくさんのことをやった」


「黎水区の空気は良くなった。ヴォーレン・アンドラのような人間は牢に入った。貧しい人も今では薬を受け取れる」


「私はこれを誰かのためにやったんじゃない」


「私がこれをやったのは、あんなことを二度と起こさせたくないから」


「私が、そうはさせない」


 ナナがその言葉を見ていた。


「私が、そうはさせない」というこの一文がスクリーンの上で数秒止まっていた。



   ◆



 画面が続いた。


 ヴァイラが首席になって二年目。彼女はもう、変えるべきものは一通り変え終わっていた。彼女は自分のオフィスに座って、彼女が引き継ぐ前より良くなった謎域のデータを見ていた。


 だが彼女はまだ気を緩めていなかった。


 スクリーンにヴァイラの言葉が浮かんだ。


「私のやってきたこれらは、すべて私にできることだ」


「だが、もう一つ思った。私にこれができるのは、私が今、首席だからだ」


「次の首席は?」


「次の首席はこれを全部元に戻すんじゃないか?」


「次の次の首席は?」


「私はこの世界に永遠に私のような人間が首席であることを保証できるのか?」


「できない」


「ならいつか必ず、ヴォーレン・アンドラのような人間がまた戻ってくる。煙突がまた黎水区に向かう。席格がまた死ぬ」


 ナナが画面を静かに見ていた。


 彼女には分かった。ヴァイラがこれをやっている間、頭の中でずっと考えていたのは「席格をもう一度死なせない」だった。彼女が変えた一つ一つの政策、取り替えていった議員、書き直したアルゴリズム、すべてはこのためだった。


「公正」という抽象的な概念のためじゃない。


 席格のように死ぬ人がもう出ないように、だった。



   ◆



 ヴァイラがオフィスに座って、底層のあるコードを見つめていた。


 スクリーンにヴァイラの言葉が浮かんだ。


「だから私は考え始めた。どうすればこの変化を永遠に維持できるのか」


「答えは、私のような人間がこの世界のルールを永遠に決めなければならない、ということだ」


「ルールそのものを不可逆にしなければならない」


「私は中心システムの底層を調べ始めた」


「私は最も深い層は首席権限だと思っていた」


「だが、違った」


「首席権限の上にもう一層あった」


「その層はどの議員でも、どの首席でも、謎域の中の誰でもない」


「上の⋯⋯管理員」


 画面が、底層のあるコードに切り替わった。


 ナナはそのコードを認めた。これは彼女がシステム創造者として自分のために残した、いくつかの層のうちの一つだった。権限の変更、データの削除や追加、不測の事態を防ぐためのもの。


 彼女は当然、誰かが見つけるかもしれないと予想していた。だが特に気にしていなかった。


 スクリーンが続いた。


「私はこの管理員を研究した」


「私が調べられた限りの記録の中で、この管理員は私たちの世界に介入したことが一度もなかった」


「席格が死んだとき、手を出さなかった。837 人が死んだとき、手を出さなかった。当時の首席が腐敗していたとき、手を出さなかった。議会全体が大企業と数十年にわたって癒着していたとき、手を出さなかった」


「彼女は一度も手を出していない」


 スクリーンが少し止まった。


「この世界はもう自治の世界だ。私は認める。これが彼女のいう『統治のやり方』だ」


「だが、問題は彼女が干渉するかどうかじゃない」


「問題は、彼女がいつ干渉するかだ」


「私は、見えない、知らない、知り合いでもない、予測できない人間を信頼することができない」


「彼女はいつ手を出す? 私と対立する人間を守るために手を出すかもしれない。ある日突然『この世界は元に戻すべきだ』と決めるかもしれない」


「私には分からない」


「私のこの一生、この管理員は私を助けてくれたことがない。席格を、837 人を、この世界を、助けたことがない。たとえこの冷たさが永遠に続くとしても、私はそれでも構わない」


「だが、私は賭けたくない」


「彼女が次に突然手を出して、私のやってきたことを全部撤回するかどうか、賭けたくない」


「だから、私は彼女をこの世界の権限構造から切り離さなければならない」


「徹底自治化」


「この世界には、これからは上の管理員はいない」


「いることも許さない」



   ◆



 スクリーンがそこで止まった。


 密室は静かだった。


 ナナは椅子に座って、その止まったスクリーンを見ていた。彼女はすぐには何も言わなかった。彼女は長く座っていた。彼女の目はスクリーンから離れなかった。


 それから彼女が口を開いた。空気に向かって言ったが、ヴァイラには聞こえると分かっていた。この密室はヴァイラが設計した、彼女には監視する手段があるはずだった。


「⋯⋯ヴァイラ」彼女が言った。


 彼女は笑わなかった。


「あんたがやったことは、良いことだ」


「黎水区の空気、医療システム、司法システム、議会の人事。これらをあんたはきちんとやった。過去百年のどの首席よりも、ちゃんとやった」


 彼女が一拍止まった。


「⋯⋯あんたがさっき見せてくれた、あの時期のこと。私が当時知らなかったのは認める」


「私が中心データベースを書き上げて、管理方法を確立した後、去った。私にとって、それも一つの統治だった。最初に謎域に移民してきた人たちはみんな良い人たちだった。私はこの世界がそのまま自分で歩いていけると思っていた」


「私は、自分のあらゆる決定が絶対に正しいとも思っていない。だから、各世界の責任者に自分で全部統治してもらうほうに傾いている。あんたたちが何をやろうと、それはあんたたちのことだ。この世界はもともともう自治の世界なんだ。だから過去のこの数年、私は自分から見に来ることがほとんどなかった」


 彼女が一拍止まった。


「⋯⋯あんたのところで起きたこと、私が見えていなかったのは確かだ。この部分は認める」


 彼女は謝らなかった。ただ認めただけだった。


 彼女はまた少し静かになった。


「⋯⋯でも」彼女が言った。


 彼女が少し背筋を伸ばした。


「あんたはこの管理員をこの世界から取り除く必要はない」


「あんたが恐れているのは、私がいつか手を出すことだ。私が予測できないと感じている」


「⋯⋯それは分かる」


 スクリーンは応えなかった。


 密室は密室のまま。


 ナナは背もたれにもたれて、スクリーンを見ていた。彼女は数秒、また静かにしていた。


「⋯⋯ヴァイラ」彼女が言った。「あんたがさっき見せてくれたこれらを、私は見終わった」


「私は、何も変えるつもりはない」


 彼女がそう言うときの語気は淡々としていた。


「あんたがやったことは、良いことだ。あんたが処理したことは、処理されるべきことだった。あんたが再編した議会、あんたが定めた政策、あんたが書き直したアルゴリズム、すべてこの世界が向かうべき方向だ」


「私はあんたに干渉しない」


「⋯⋯あんたはこれから私が干渉するかと聞く。私は答える。私の過去を見ればいい。私はこの百年余り、どの世界の責任者がその世界をどう統治するかに、干渉したことが一度もない。私が介入した回数は、あんたもさっき見ただろう、ゼロ」


「あんたの心配は『私がある日突然手を出すこと』だ。だが私は逆に問う。あんたたちのこの世界が存在してきた数百年の間、私はいつ手を出した? あんたが見つけた記録には何と書いてあった?」


「ゼロ回」


「これからも私は出さない。あんたがやりたいことをやればいい。あんたが変えたいものを変えればいい。あんたが定めたいルールを定めればいい。私は手を出さない」


「⋯⋯これが、私が自分の宇宙を管理するやり方だ。過去そうだった、これからもそうだ」


 彼女が小さく笑った。今度の笑いは普段の面白がる感じに戻っていたが、いつもより少し軽かった。


「あんたが私にこの世界から去ることを求めるのは、私にこう言っているのと同じだ。あんたはこの一生で、この位置にいる人間に対して、信じられないほどの不信を積み重ねてきた、と。あんたは、私がいつか腐敗した首席になるのを心配している。あんたを鎮圧しに人を派遣するような人間になるのを心配している」


「分かる」


「だがこの位置にいる人間は、私だ。この百年余り、ずっと私のままだ。私が宇宙を管理するやり方は、これまで一度も変わっていない」


「あんたが私を信じるかどうかは、あんたの問題だ」


「だが、私は退かない」


 彼女が立ち上がった。


「⋯⋯まあ、いい」彼女が言った。「先にこの場を片付けよう」



   ◆



 密室の壁が消散し始めた。


 壁が一層、また一層の光になり、一層、また一層と消えていく。床の深い灰色も透明になっていく。ナナが座っていた椅子も溶け始めた。


 彼女が肩を一度回した。


 彼女には次に何が起きるか分かっていた。試合のルール上、敗者は観戦区に転送される。この状況下では、観戦区はおそらく宇安のいる選手控室になる。彼らはそこで合流して、次の試合を待つ。


 宇安。


 彼女が今、彼がどんな状態でいるかを少し考えた。


 彼女が小さく笑った。


「⋯⋯準備、できてるといいけど」彼女が言った。


 光が彼女を包んだ。


 彼女が消えた。

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