第四十七章 彼女の物語
光が散ったとき、ナナは小さな部屋に現れた。
部屋は暗かった。窓はない。床、天井、壁はどれも同じ深い灰色の素材。空間は大きくなく、五メートル四方ほど。中央に椅子が一つ、椅子の前に宙に浮いた、淡く光るスクリーンがあった。
スクリーンには何も映っていない。
ナナが部屋を見回した。
彼女はすぐには座らなかった。一周まわって、各壁を見た。出口はない、隙間もない、開けられそうなものもない。彼女が顔を上げた。天井も同じ素材だった。
彼女が椅子を見た。
歩いていって座った。脚を組んで、背もたれにもたれた。
スクリーンが灯った。
◆
スクリーンに最初に映ったのは、子どもだった。
五、六歳ほどの女の子。彼女は通りの脇でしゃがんでいた。
通りの両側には低い、金属で何度もパッチを当てたような住宅が並んでいた。通り全体の光が、ナナが今日見た謎域のどの場所よりも暗かった。空気の中に不快な匂い。半分焼けた金属のような匂いだった。
女の子の目は澄んでいて、深かった。今のヴァイラと同じ。
彼女は通りの突き当たりを見ていた。
突き当たりに高い煙突が一本、廃ガスを排出していた。廃ガスは風に乗って、ほぼこの区域に向かって流れていた。画面が引いていくと、その煙突の位置が見えた。隣にも十数本の同じ煙突があるのが見えた。この工業区全体の廃ガス排出口が、女の子のいる方向に向いているのが見えた。
空が暗いのではない。
空気自体がこの色なのだった。
ナナが画面を見て、何も言わなかった。彼女は元々組んでいた脚の片方を下ろして、姿勢を少しまっすぐにした。
◆
画面が変わった。
同じ女の子が、男と一緒に通りを歩いていた。男は四十代、痩せていて、しゃきっとしている。彼は古いスクリーンを抱え、歩きながら女の子に話していた。
「これ見て」男がスクリーンの上のコードを指した。「こういうコードは、他人が読むことなんて気にしていない書き方だ」
女の子が覗き込んで見た。
「⋯⋯どうして?」
「気にしてないからだ」男が言った。「コードを書くのも他のことと同じだ。気にして書けば、できあがるものは使いやすい、便利だと感じるものになる。気にしないで書けば、できあがるものは人を適当にあしらっているような感じになる」
女の子が真剣に聞いていた。
画面が男の小さな部屋の中の場面に変わった。机の上にスクリーンが一台、それと角の擦り切れた厚い技術書が数冊。男はそのスクリーンの前でコードを打っていた。動きは速くないが、一行一行が確かだった。女の子はその隣で見ていた。
時間がこの小さな部屋の中で速く流れていった。
女の子は八歳、十歳、十二歳になった。横で見ていただけだった子が、自分でコードを打つようになり、時々男に肩を叩かれて褒められるようになり、自分で書き直した部分について「これで合ってる?」と顔を上げて聞いた時、男が首を振って「凝りすぎだ」と言うようになった。
「⋯⋯ここ、凝りすぎ」男が言った。「凝るのは見る側の話で、書く側の話じゃない。はっきり書けばそれでいい」
女の子が聞きながら、書き直した。
◆
画面がまた変わったとき、それは別の日だった。
女の子は男のパソコンの前にいた。男はいない。彼女は宿題をするためにここに来たらしい。男は彼女がいつでも来ていいと言っていた。彼女が途中まで書いて、プログラムが走る間の空き時間に、何気なく一つのフォルダを開いた。
フォルダの中には古い写真があった。
彼女がスクロールして見ていた。
多くは男の若い頃のものだった。もっと痩せていて、もっとしゃきっとしている。背景は比較的大きなオフィスのように見えた。ある一枚の写真では、男は同僚たちの真ん中に立っていて、胸にIDカードを掛けていた。IDカードのクローズアップが画面に浮かんだ。「日陽科技 上級エンジニア 席格」と書かれていた。
女の子はその写真をしばらく見つめていた。
彼女はスクロールを続けた。
次の数枚は仕事の場面だった。会議中の彼が写った写真、機械室の前に立つ写真。それから彼女はある書類のスクリーンショットまでスクロールした。汚水処理規程だった。
彼女がさらに次の一枚へスクロールした。
解雇通知書だった。
女の子はスクリーンを長く見つめていた。
彼女はすぐにフォルダを閉じなかった。最初の写真までスクロールして戻した。男の胸のIDカードが、若い彼の身につけられていた。
スクリーンの外。
ナナが椅子の上で、画面の中のフォルダの中身を見ていた。
ナナはこの種の人間を知っていた。宇宙のあちこちの世界に、こういう人はいる。高い技術を持ち、原則を堅く守るが故に、体制から弾き出される人。
画面が男の小さな部屋に戻った。男が帰ってきた。女の子が彼に問うた。
「⋯⋯席格」女の子が言った。彼の名前を呼べるようになっていた。「あんたのこの写真⋯⋯」
彼女はそのIDカードの写真を彼に見せた。
席格が一目見た。
彼が一瞬、止まった。
「⋯⋯ああ、それね」彼が言った。「昔のだよ」
「あんた、解雇された?」
「ああ」
「どうして?」
席格が彼女を見た。彼はどう言うか少し考えた。
「⋯⋯一部の人間が私にやらせたいことを、俺がやりたくなかったからだ」彼が言った。
女の子はすぐには返さなかった。
彼女は席格を見た。彼がそれ以上説明しないことを、彼女は分かっていた。
彼女は頷いた。
彼女は覚えた。
◆
画面が変わった。
今度は一人の老婦人。ヴァイラの母親ではない。むしろ近所か、通りで顔見知りの人のようだった。画面の中では、この老婦人が自分の家の椅子に座っていて、顔色が悪く、咳をしていた。
幼いヴァイラが老婦人の向かいに座って、水を渡していた。
「⋯⋯おばさん」ヴァイラが言った。「今日は昨日より酷いよ」
老婦人が手を振った。
「持病だよ」彼女が言った。「大したことない」
「医者に見てもらわなかったの?」
老婦人が笑った。疲れていて、諦めたような笑い方だった。
「医者の予約は一ヶ月以上先まで埋まってる」彼女が言った。「治療一回分の費用が、私の家賃二ヶ月分より高い。私もこの歳だ、なんとかやり過ごすよ」
ヴァイラは何も言わなかった。
彼女は老婦人を見ていた。
画面が切り替わった。
数日後、ヴァイラは母親と一緒に黎水区の総合病院に行った。母親の慢性病の処方箋を取りに行ったのだった。
彼女たちがカウンターの前で並んでいた。前にもっと年配の婦人がいて、カウンターに「分割払いはできないか」と聞いていた。カウンターは首を振った。婦人は何も言わずに立っていた。
その時、病院の正面ドアが開いた。
一人の男が入ってきた。スーツを綺麗に着て、腕時計をしていた。彼は並んでいる人を見ず、まっすぐカウンターの脇の小さな扉に向かった。その扉の上に「優先診療」と書かれた札があった。
扉のそばのスタッフが彼を見て、すぐに挨拶した。
「⋯⋯ヴォーレン様、こんにちは。こちらへどうぞ」
男が頷いて、入っていった。
ヴァイラの視線がその男を追った。
彼女は振り返って、まだカウンターの前にいる老婦人を一目見た。老婦人もそれを見ていた。だが老婦人はただ目を伏せて、何も言わなかった。彼女はもう慣れていた。
スクリーンの外。
ナナは画面の中の小さな女の子の横顔を見ていた。あの女の子がこのすべてを食い入るように見ているのを見ていた。彼女は密室の椅子に座って、肩が少し前に傾いていた。両手を膝の上に組んでいた。何かを言うつもりはないようだったが、彼女がスクリーンから目を離す時間はだんだん短くなっていた。
◆
画面がさらに変わった。
別の日。法廷の外の掲示板の前。そこに、ある工業排出案件の判決結果の公告が貼られていた。被告:日陽工業区のある会社、総経理ヴォーレン・アンドラ。判決:罰金三百万。
ヴァイラが掲示板の前に立って見ていた。
彼女のそばに二人の通行人がいた。
「⋯⋯三百万?」一人が言った。
「うん」もう一人が言った。
「⋯⋯あいつ払ったのか?」
「即日完納」
「⋯⋯何回目だ?」
「今年で七回目」
二人はそれ以上何も言わなかった。首を振って去っていった。
ヴァイラはまだ掲示板の前に立っていた。動かなかった。
ナナは画面の中のあの女の子の背中を見ていた。あの女の子がその瞬間に何を理解したかが、ナナには分かった。この世界はヴォーレン・アンドラのような人間にとって、罰金はただの営業コストなのだ。排出システムを整えること、汚水を整えること、医療資源の分配を整えることに比べて、罰金を払うほうがずっと安い。
だから煙突は彼女の家に向かって排出し続ける。
だから老婦人は死ぬまで治療を受けられない。
そしてこの女の子、このヴァイラは、子供の頃からこういう掲示板の前に立って、自分の住む場所が「お金で処理できる面倒事」として扱われているのを見ていた。
◆
時間が数年早送りされた。
ヴァイラ十六歳。彼女はもう成熟したプログラムが書けた。彼女は仕事を受け始めた。小さな会社のためにデータベースを書いたり、メンテナンスをしたりした。少しお金を稼いだ。
彼女はそのお金を持って帰り、席格に比較的新しいスクリーンを買った。席格はスクリーンを撫でて、多くは語らなかったが、笑った。
「⋯⋯ありがとう」彼が言った。「すごいな」
ヴァイラが首を振った。
「あんたが教えてくれたから」
席格が彼女を見た。
「俺は教えただけだ」彼が言った。「お前がそんなに早く学べたのは全部お前自身の素質と努力のおかげだ。この案件もお前が自分から取りに行ったやつだ。何より大事なのは、お前が学んだものをどう使うか、それはお前自身が決めることだ」
ヴァイラが頷いた。完全には分からなかった。だが忘れなかった。
◆
ヴァイラ十八歳のその年、感染症が広がった。
ニュースの画面が映っていた。アナウンサーの声は冷静だった。「⋯⋯呼吸器系の病原体 R-12、最初の確診例は黎水区にて⋯⋯」
黎水区。ヴァイラの住むこの区だ。
当時の議会がある決定を下した。感染症の拡散を防ぐため、黎水区全体を封鎖する。区域の境界に物理的な障壁を設ける、人員の出入りを制限する、一部の資源の搬入のみを許可する。
封鎖期間は二ヶ月。
封鎖開始の初日。淡い青色の光を放つ高いエネルギーの壁が、黎水区の境界から立ち上がった。一部の人は壁の内側に立って見ていた。一部の人は壁の外側にいた。誰も向こうへ渡れなかった。
三十日目。黎水区の通りはがらんどうだった。だが空気は前よりひどかった。廃ガス処理システムを維持する人がいなくなった。上から派遣されていた整備の作業員は全員撤退していた。煙突はまだ排出していて、廃ガスが区域内に溜まっていた。
席格の小さな部屋の中。
彼が咳をしていた。
R-12 ではない。空気だ。彼の肺は元々良くなかった。若い頃に工場で働いていたせいだ。
ヴァイラが彼を区内の病院に連れていった。
病院は人で溢れていた。薬がもうない。資源が圧倒的に足りなかった。
病院の人が言った。「申請なら受け付けます」
配給はあるアルゴリズムで分配されていた。そのアルゴリズムのインターフェースが画面に浮かんだ。年齢、社会貢献度、回復見込み、家族の経済能力。各指標の重みがはっきりと書かれていた。
席格の評価結果が出た。総合点どころか、単項目すら一つも合格点を超えていなかった。
彼は薬を受け取れなかった。
画面が席格のベッドのそばに切り替わった。ヴァイラはそこに座っていた。彼女は泣かなかった、叫ばなかった。ただ彼の手を握っていた。
席格はもう多く話せなかった。彼は彼女を長く見て、最後に一言だけ言った。
「⋯⋯お前が学んだ⋯⋯ものを⋯⋯どう使うか⋯⋯お前自身が⋯⋯」
彼は言い切らなかった。
画面は、彼が目を閉じた瞬間で止まった。
封鎖の四十五日目。
死因:呼吸器関連感染症による肺機能不全。
R-12 ではない。
スクリーンが彼の死亡証明書で止まった。下には冷たい数字が並んでいた。この封鎖期間の全死亡者数。確診による死亡 124 名。その他の原因による死亡 837 名。
837。
病死じゃない。区域に閉じ込められて、食料がなく、薬もなく、空気にも耐えられず、それでこうなった。
ナナが動かなかった。
彼女はもうしばらく座っていたが、この時には脚を組む姿勢すら緩めていた。彼女は背もたれに完全にもたれて、両手を膝の上に置き、目はスクリーンから離れなかった。
彼女は溜息もつかず、何も言わなかった。
彼女の顔に元々あった、あのわずかな面白がるような気配が、この時には完全に消えていた。別の表情に変わったわけじゃない。ただ、平静な、多くを見てきたような顔だった。
◆
画面が続いた。
二十歳のヴァイラ。
彼女は天才だった。この四文字は誇張じゃない。彼女は十八歳で席格が死んだ後の二年で、ハッキング技術のあらゆる側面を独学した。基本的な権限攻撃から、最も深いシステムアーキテクチャまで。彼女のコードを書く速度と真剣さは、ライセンスを持ってオフィスに座っているエンジニアたちが到底及ばないほどだった。
彼女は隠れた。身分を変えた。引っ越した。同じ場所に一ヶ月以上留まらなかった。少なくとも七つの異なる ID を偽造した。彼女は謎域の様々な監視ネットワークにハッキングして、毎日誰も自分を追跡していないか確認した。
彼女がこれをやっている間、外の世界は彼女にとって「ミュート」だった。誰にも何も叫んでいなかった。彼女はただ一人でコードを打っていた。
彼女の目標は首席権限だった。
彼女は二年かけた。正確には、ちょうど二年八ヶ月。
彼女が首席権限をハックしたあの瞬間。画面には密集したコードが広がっていた。彼女の指が一秒止まった。彼女は歓声をあげなかった、笑わなかった、感慨に浸らなかった。彼女はただ、自分のするべきことを続けていた。まるで、ありふれた小さな目標を一つ達成しただけのように。
彼女は権限構造を書き換え始めた。
自分自身を書き入れた。
当時の首席は彼女を阻止できなかった。事が起きてから数日後にやっと、自分の権限が取って代わられたことに気付いたほどだった。その時にはもう、謎域システムはヴァイラを新任首席として認識していた。
当時の議会の大広間。十一人の議員が新たに現れた首席のデータを見ていた。彼らの反応はそれぞれ違っていた。
ヴァイラはこの議員たちを知っていた。彼女は長く彼らを研究してきた。誰が大企業と関係が深いか、誰が自分の地位だけを気にしているか、誰なら味方にできる余地があるか、知っていた。
首席になったその日、彼女は翌日の議会を待たなかった。直接動いて、彼女が腐敗だと判断した議員の権限をハックして、一人ずつ取り替えていった。彼女が信頼する人を議会に押し込んだ。
この過程は速かった。彼女は二年八ヶ月の準備をしていた。この世界の権限構造を、誰よりもよく知っていた。
一ヶ月後。新しい議会。十一の見知らぬ顔。一部はヴァイラが以前から知っていて、一緒に小さな抗議をしたことのある者たち。一部は彼女が研究して、信頼できると判断した中間派。
謎域が変わり始めた。
◆
スクリーンが少し止まった。
ナナは背もたれにもたれていた。彼女はスクリーンの上のこの場面を見ていた。彼女は当時のことを思い出した。
彼女は当時、知らなかった。
気にしていなかったわけじゃない。情報そのものがなかった。
彼女の謎域への理解はすべて「能動的なもの」だった。謎域の首席が自分で処理できないことに遭遇したとき、ナナに通知が来る。以前、エルフ女王があの一件で助けを求めたときのように。それより小さな、急がない問題は、彼女自身のタスクリストに入れて、ゆっくり処理していた。だが基本的には、その世界の責任者が言い出さないかぎり、彼女が自分から何が起きているかを調べに行くことはなかった。
これが彼女の「統治」に対する理解だった。
彼女は自分のあらゆる決定が絶対に正しいとは思っていない。それぞれの世界に住む人々のほうが、自分よりその世界を理解していると思っている。だから、各世界の責任者に自分で全部処理してもらうほうに傾いていた。
彼女は中心データベースを書き上げ、基本的な管理方法を確立してから去った。これも一つの統治方法だった。最初に謎域に移民してきた人たちはみんな良い人たちだった。彼女はこの世界がこんなところまで来るとは予想していなかった。
席格が死んだとき、それは区域内の医療資源分配の事件で、中心システムの警報を起動させなかった。837 人が死んだとき、それは「二次的な死亡」に分類されて、警報はなかった。ヴァイラが首席権限をハックしたとき、彼女は隠密にやりすぎて、警報はなかった。当時の首席が取って代わられたとき、権限の移行は合法経路を通っていて、システムは反応すらしなかった。ヴァイラが腐敗議員をハックしたときも、同じく合法経路を通っていた。
中心システムから見れば、この数年の謎域は「全て正常」だった。
ナナがこの世界を巡回したとき、見えたのは「全て正常」のデータだった。
彼女は当時、思った。この世界は安定している。彼女はまた去った。
スクリーンに一行の文字が浮かんだ。
「謎域中心システム介入記録。介入回数:0。介入時間:なし」
ゼロ。
ナナはその文字を見ていた。
彼女は何も言わなかった。
彼女は息を吐いて、目を閉じた。
目を開けたとき、表情は変わらなかった。だがこの瞬間、彼女は一つのことを認めた。彼女の「統治のやり方」は、最初から彼女にこれらが見えないようにできていた。




