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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第四十六章 銃弾の雨

 リング内。


 ナナがあの倒れた壁の後ろに身を寄せていた。彼女の呼吸は乱れていない。この世界の仮想身体は本当に「疲れる」わけじゃないが、シミュレートされた感覚はまだある。彼女の指はトリガーにかかっていたが、この瞬間は撃たない。


 彼女は聞いていた。


 弾丸が空中で唸っていた。一発一発がまだ跳ねている。最初の波の弾は、もう七、八回壁面で跳ね返っているのに、速度はそのままだった。


 彼女が顔を半分覗かせた。


 遠くの瓦礫の山の後ろから、ヴァイラも半分姿を見せた。二人の視線がこの一瞬で交わった。


 二人が同時に撃った。


 弾丸がナナの耳元を擦った。彼女は弾が通り過ぎた瞬間に身を引いた。弾は背後の壁に当たって、跳ね、また反対側の肩を擦り、弾け飛んだ。


 彼女が目を細めた。


 彼女が壁の反対側に回り、低く伏せて、三発連射した。


 三発ともヴァイラが体を捌いて躱した。だがそのうちの一発が瓦礫の山の後ろにある何かの金属の残骸に当たり、跳ね、跳ね、跳ね、最後にヴァイラが全く予想しなかった方向から、彼女の肩を擦った。


 HP:5000 → 4999。


 インターフェースが試合空間の上空に浮かんで表示されていた。双方からも、外の観戦者からも見える。


 ナナがその数字を見た。


 彼女が笑った。


「⋯⋯処理が追いつかない?」彼女がヴァイラの方に向かって言った。声は大きくないが、試合空間内では声がよく通る。


 ヴァイラは応えなかった。


 ナナの目つきは変わらなかった。彼女は引き続き評価していた。相手の血量五千。自分の血量五。この圧倒的な差は、彼女がさっき試合を選んだ時に見たデータじゃない。ヴァイラが自分で書き換えた。


 ここまで来た以上、戦うしかない。


 でも、戦いながら考えることはできる。


 彼女がまた二発連射し、弾はますます密になっていく光の網に加わった。彼女は次の遮蔽物の後ろへ移動した。



   ◆



 控室の中。


 宇安が外に浮かぶあの数字を見ていた。


 5000:5。


 彼は数字に詳しくないが、この比率の意味は分かった。


 彼が剣を握り直した。


 彼に出来ることはない。控室の壁は押しても動かないし、声も外に届かない。漂う剣 NPC が彼の傍で静かに浮いていた。



   ◆



 リング内。


 ナナが新しい遮蔽物の後ろから顔を出した。ちょうど跳ね返ってきた弾が一発、彼女に向かって飛んでくるのが見え、彼女は身を伏せて躱した。同じ瞬間、ヴァイラの方からも一発の弾が彼女の脛を擦った。


 HP:4999 → 4998。


 弾はナナがさっき伏せていた位置に当たった。彼女はもう次の瓦礫の山に転がっていた。


 空気の中の弾はさらに密になった。


 彼女は伏せたまま、ヴァイラのいる位置を一目見た。ヴァイラは今、立って動いている。伏せると低い位置を跳ねる弾を躱しにくくなるからだ。彼女の動く速度は、最も近い弾道をギリギリ躱すのが精一杯。とても受動的な対応だった。


 ナナが深く息を吸った。


「⋯⋯ヴァイラ」彼女が口を開いた。声は弾の唸りを突き抜けて届いた。「話してよ」


 彼女がまた二発連射した。


「なんでそんな要求を出したわけ?」


 彼女は問いながら、また次の遮蔽物の後ろへ転がった。


「あんたも分かってるでしょ、私が応じるわけないって」


 ヴァイラは応えなかった。


 弾が空気中で唸っていた。ナナは数秒待ったが、応えはなかった。彼女もそれ以上は問わず、また次の遮蔽物の後ろへ転がった。



   ◆



 空間内の弾道は、もはや二人が立っていられる場所がほとんどないほど密になっていた。


 これからは純粋な回避ゲームになる。自分が跳ね返した弾に先に当たった方が、先に血量を削られる。確率的に、ヴァイラの方が遥かに長く持つ。


 ナナはそれを分かっていた。


 ヴァイラもそれを承知のはずだった。


 彼女は遮蔽物の後ろに伏せて、状況を打開する方法はないか考えていた。


 その瞬間。


 ヴァイラが動いた。


 彼女は遮蔽物の後ろから立ち上がり、躱す素振りすら見せず、まっすぐナナに向かって突進してきた。


 弾が彼女の背中、肩、太もも、腰を打った。


 HP:4998 → 4923 → 4711 → 4502 →⋯⋯


 数字が落ちていく。だが彼女は止まらない。



   ◆



 ナナの眉が一瞬動いた。


 本当に眉を顰めたわけじゃない。ただ彼女の顔にずっとあった、あの面白がるような表情が、ほんの少しだけ薄れた。彼女がこの場面に来てから初めて、本気の顔になった。


 ヴァイラがナナの目の前まで突進し、手を伸ばして彼女の肩を掴もうとした。


 ナナが体を捌いた。


 ヴァイラの手はナナの袖を掠めただけで、掴めなかった。彼女の勢いは過ぎたが、転びはしなかった。瓦礫を一つ踏んで、その勢いを借りてまたナナに飛びかかった。


 弾はまだ跳ねている。


 ナナが横に転がり、二度目を躱した。


「⋯⋯」


 彼女は倒れた柱の後ろに滑り込んだ。


 ヴァイラが立ち止まり、追わなかった。彼女はナナを見て、何も言わなかった。彼女の服、体に弾痕がいくつもあった。傷は少しずつ自動修復されるが、そばに浮かぶ数字はまだ落ち続けていた。4502 → 4488 →⋯⋯彼女は自分をずっと弾の中に晒したままにしていた。


 ナナが柱の後ろから彼女を見た。


 彼女が小さく笑った。それから一つ、ため息をついた。


「⋯⋯チートする人って嫌よね」彼女が言った。


 そう言った時、彼女に怒気はなかった。語気はむしろ「あんた、なにしてんの」というような、ずるい友人にちょっと振り回された時のような感じだった。


 ヴァイラが彼女を見た。


 彼女がまた動いた。



   ◆



 三度目。


 ヴァイラの突進は、さらに真っ直ぐだった。迂回せず、弾の密集する区域をそのまま踏んでいった。跳ね返った弾が彼女の胸、首、腕に当たった。血量がずっと落ちていく。


 でも、彼女のスピードは速かった。


 彼女がナナの目の前まで来た時、ナナが体を捌いて躱そうとした。が、二条の跳ね返り弾が、ちょうど後ろから彼女の顔に向かって飛んできているのが見えた。


 そっちには逃げられない。


 立って捕まれるわけにもいかない。


 彼女は跳んだ。


 柱を蹴って、その勢いを借りて、上へ、横へ。


 彼女の体が空中にあったその瞬間。


 ヴァイラのスピードは彼女の予想より速かった。


 ヴァイラはナナがさっきいた位置を狙わなかった。彼女はナナが「跳んで降りてくる」位置に向かって突進した。彼女の手が空中のナナを掴んだ。


 四度目。掴んだ。


 ナナの体は弾が最も密集する位置に固定された。


 弾は止まらない。


 最初の一発がナナの腰に当たった。


 HP:5 → 4。


 二発目が肩に当たった。


 HP:4 → 3。


 三発目。四発目。五発目。


 HP:3 → 2 → 1 → 0。


 ナナの仮想身体が最後の一発に当たった瞬間、淡い光が一筋走り、輪郭が消え始めた。


 ヴァイラが手を放した。


 彼女の体に弾痕はまだあった。彼女の数字は最後に 4231 で止まった。


 ナナの体が光の中に薄らいでいった。彼女がヴァイラを一目見た。目つきは変わっていなかった。あの面白がるような、好奇心のある、怯えのない目つきのまま。


「⋯⋯面白い」彼女が言った。


 そして消えた。

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