第三十九章 それぞれの居住所
第三位:クロウ。
四人がクロウの部屋に入った。
空間が広い。
非常に広い。
入った瞬間に、中の密度に圧倒された。
あちこちに儀器。
普通の儀器じゃない。一目で構造が複雑、原理が深奥だと分かる類のもの。中央に巨大な反応装置。外周に六台の補助設備、それぞれに無数の線、管、発光するデータ表示器が繋がっている。壁一面のスクリーンウォール、彼らには全く分からないデータの流れが走っている。隅の作業台、稼働中の小さな実験で埋まっている。
空間にさらに、大きすぎず小さすぎない、円形で、ゆっくり自転する物体が一つあった。何かのエネルギー場のサンプルらしく見えた。
永誓が口を開けて見ていた。
「⋯⋯」
ナナがため息をついた。
「クロウ」彼女が言った。「これが居住所?」
「うん」クロウが言った。
「⋯⋯」
「俺、ほとんどの時間を実験室で過ごしてる」クロウが言った。語気は平淡だった。「俺にとって、これが居住所」
彼が中央の反応装置を指した。
「これは俺の宇宙でよくあるエネルギー変換のモデル。実験室にある設備を並べただけ。サイズの再現はちゃんとやった」
彼がこの一言を言った時、帽子が後ろへ反った。彼は自分にちょっと満足していた。
永誓が自転するエネルギー場のサンプルに漂って近づき、一周した。
「これ、何?」
クロウがすぐに寄ってきた。
「これね」彼が言った。語速が明らかに速くなった。「高密度エネルギー場の可視化モデル。中心は圧縮点、外周は渦の構造、回転速度の差が自己安定する場を生成する。たとえば⋯⋯」
話の途中で、永誓の眼差しが既に焦点を失い始めていることに気づいた。
彼が止まった。
「⋯⋯要するに、エネルギー場」彼が言い直した。「俺の宇宙では自然に発生する」
永誓が「お」と答えた。
「すごそう」
「ありがとう」
宇安が反応装置を一周した。緑に光るある表示器の前で止まった。
「これは?」
クロウが寄ってきた。
「エネルギー読み取り値」彼が言った。「これは中心圧縮点の密度を表示してる。だがこれもモデル、データは固定循環、実際には動いてない」
「⋯⋯」宇安が頷いた。「動いてるように見える」
「外観をリアルにした」クロウが言った。「実験室にあれだけ住んでたら、目を閉じても各表示器の見た目を覚えてる」
ナナが一周し、壁のスクリーンウォールを見た。
「あんた、自分の宇宙でもこんな風に住んでるの?」彼女が訊いた。
「ほぼ」クロウが言った。「実験室が中心、隣に小さい休憩室がある」
「小さい休憩室一つだけ?」
「足りる」
「⋯⋯」ナナが笑って、頭を振った。「どうりで、私の宇宙に遊びに来るわけだ。こんな住み方してたら、誰でも別の場所に行きたくなる」
クロウが反論しかけたが、考え直した。
「⋯⋯間違いとは言えない」彼が言った。
彼の帽子の角度が後ろへ反った。彼が笑っていた。
◆
最後:ナナ。
四人が彼女の部屋に入った。
空間はクロウのより小さく、宇安のよりも小さい。
空間の中は空っぽだった。
壁は淡い米色。床は温かい木の色。窓もなく、扉もなく、装飾もない。
中央、ソファが一つ。
ソファ一つだけ。
宇安が作ったそれとほぼ同じ。同じ款式、同じ長さ、同じ壁際の位置。だがこの空間には他に何もない。スクリーンもない、棚もない、本もない。
ソファ一つ。
空っぽの部屋の中に。
クロウが一拍止まった。
「⋯⋯これだけ?」
「うん」ナナが言った。
「⋯⋯ソファ一つだけ?」
「うん」
クロウが何か言いかけて、やめた。帽子が前に垂れた。彼が考えていた。
永誓が漂って近づき、そのソファを見た。
「⋯⋯これ、宇安が作ったやつと一緒」
「うん」ナナが言った。
「なんで?」
ナナが笑った。
彼女はその質問には答えなかった。
彼女が歩み寄り、自分でソファに腰掛け、背に凭れ、足を一度組んだ。
「他の場所はみんな仕事してる感じ」彼女が言った。「ここだけはいい」
彼女は何も説明しなかった。「他の場所」とは何か、なぜ仕事してる感じなのか、「ここだけはいい」とはどういう意味なのか。
彼女はただ、ソファに座って、心地よさそうにしていた。
クロウがそのソファを見て、空っぽの部屋を見た。
「⋯⋯」彼が一拍置いた。「あんたの居住所、ソファだけ?」
「足りる」ナナが言った。「他の物は全部、ソファのために存在する」
「⋯⋯どういう意味?」
「スクリーンは寝そべって観るためにある」ナナが言った。「テーブルはコーヒーを置くためにある。棚は本を置いて、読み終わったらまた仕舞うためにある」
彼女が肩をすくめた。
「核心はソファ。他は全部付属物」
クロウがその論理を考えた。
彼は理解したようでいて、その論理を簡略化しすぎていると感じているようだった。
「⋯⋯だったらなんでこの空間にはその付属物がないの?」
「これは練習だから」ナナが言った。「核心は核心。他は必要じゃない」
クロウ:「⋯⋯」
彼はそれ以上追問しなかった。
帽子の角度がもっと前へ垂れた。彼は、先ほど自分が作った儀器だらけの部屋を、もう一度考え直しているようだった。
永誓がソファの前に立ち、ナナを見て、それから空っぽの部屋を見た。
「⋯⋯」彼が少し考えた。「俺、分かる気がする」
「何が分かるの?」ナナが訊いた。
永誓が考えた。
「⋯⋯言葉にできない」彼が言った。「でも分かる気がする」
ナナが笑った。
「足りる」彼女が言った。「感じられたら十分」
彼女が宇安を一目見た。
宇安が彼女を見ていた。
彼は何も言わなかった。
だが彼は、彼女がそのソファに座っている様子を見ていた。
クロウの帽子が後ろへ反った。彼が笑っていた。
◆
四人がナナの部屋から出て、中央広場に戻った。
インターフェースの表示。
「練習終了」
永誓が前へ漂って、三人を振り返った。
「俺たち、いつエントリーする?」彼が訊いた。
声に滲む興奮は隠せなかった。
ナナが笑った。
「急がない」彼女が言った。「もう何回かやって、みんな手が慣れたら、エントリーしよう」
クロウが頷いた。
彼が手を上げて、帽子の角度を整えた。
「じゃ、また」彼が言った。「俺、自分の宇宙に戻る」
「もう少し遊ばないの?」
「いい」クロウが言った。「他にやることがある」
彼が一拍置いた。
「⋯⋯次に来るとき、事前に通知する」
ナナが頭を振り、笑った。
「好きにして」彼女が言った。「遊びに来るなら、わざわざ通知する必要もない」
クロウが他の二人にも頷き、中央のインターフェースに進み、押した。転送光が散った。
彼が去った。
残された三人が広場に立っていた。
永誓がクロウのいた場所を見ていた。
「⋯⋯本当に通知するかな?」
ナナが少し考えた。
「⋯⋯するかもね」彼女が言った。「しないかもしれない」
彼女が肩を一度すくめた。
「どっちでもいい」
彼女が宇安を振り返った。
「私たちも戻ろう」彼女が言った。「今日は十分遊んだ」
宇安が頷いた。
彼が手を伸ばして目の前に操作パネルを開き、三人で一緒にログアウトを選んだ。




