第三十七章 偶遇
第三試合が終わった後、彼らは手を引いた。
カゲ0が椅子の背に凭れて、ため息をついた。
「これ以上賭けたら、俺、無一文になる」彼が言った。
「自分で間違った方を選んだだけ」レイナ7が笑って彼を見た。
「⋯⋯」カゲ0が答えなかった。
ソライが伸びをした。
「よし、今日はここまで」彼が言った。「次、いつ来る?」
ナナの尻尾が揺れた。
「いつかね。でもまた来る」彼女が言った。「もうフレンドだから、メッセージで連絡できる」
レイナ7が笑った。
「いいわ」彼女が言った。「次に来る時、私たちのところに来て。一緒に高難度に行こう」
彼女が三人に向かって手を振った。
「じゃ、また」
三人が転送で去った。
◆
宇安、ナナ、永誓が出口の方へ歩いた。
賭場は広い。先ほど入口から観戦区までかなり歩いたが、逆方向もまた同じ距離。中央の巨大なホログラムスクリーンがまだ中継していた。番組は変わっていた。
永誓が宇安の傍を漂っていた。少年型でも、まだ歩きが少しふらつく。
彼らが大廳の中段を通り抜けた。
ちょうど賭注看板の区域。
宇安が止まった。
彼が遠くのある位置を見ていた。
ナナが二歩進んでから、彼が止まったことに気づいて、振り返った。
「どうしたの?」
宇安は答えなかった。手を伸ばしてナナの肩を叩き、その方向を指した。
ナナがその方向を見た。
遠くに、古びたスーツを着た男が一人。背の高い帽子を被り、ある看板の前に立って、インターフェースに何かを入力していた。
彼の横顔、彼のスーツ、彼の帽子の角度。全身から、この高科技の世界とまったく合わない雰囲気が漂っていた。
「⋯⋯あれ」宇安が言った。「⋯⋯クロウか?」
ナナが一拍止まった。
「は?」
彼女がもう一度よく見た。
「⋯⋯ちょっと待って、本当だわ」彼女が言った。「似すぎでしょ」
◆
二人がその場に立った。
宇安があの身影を見ていた。
「クロウがあんたの宇宙に来てるって、あんた知らないのか?」彼が訊いた。「それともただの似てる人?」
ナナが少し考えた。
「普通は知ってるわ」彼女が言った。「でもそれは、彼が用事で私を訪ねる時に通知が入るから。彼は自由にこっちに来られるし、私も自由にあっちに行ける。私と彼の宇宙の間には、開ける裂け目が結構あるの」
「⋯⋯じゃあ今は普通の状況なのか?」
「普通なら通知してるはず」ナナが言った。「でもあの様子⋯⋯彼にしか見えない、別人なはずがない」
彼女がもう一度見た。
遠くのその男の高帽が一度動いた。前へ少し垂れた。下注インターフェースを見ているのだ。
ナナの目が細まった。
「⋯⋯あの帽子の角度」彼女が言った。「⋯⋯彼で間違いない」
宇安が彼女を見た。
「挨拶しに行くか?」
「いいわよ」ナナが言った。「行ってみよう。ついでにミーム・ウイルスの後始末がどうなったかも訊く」
彼女がその方向へ歩き始めた。
永誓が宇安の傍を漂って、ついていく。
「⋯⋯クロウ?」永誓が小声で訊いた。「あの、お前を助けた⋯⋯?」
「ああ」宇安が言った。
永誓はそれ以上訊かなかった。
◆
三人が歩いていった。
約五メートルの距離になった時、その男が気づいた。
彼が振り返った。
高帽が少し上に動いた。それは「気づいた」の角度。
彼の視線がナナに落ちた。
「⋯⋯ナナ?」彼が言った。
彼の声は記憶と同じ。精確で、やや高めで、感情の起伏がはっきり出ない。
帽子が後ろへ反った。それは彼の驚きの表現。
ナナが小さく笑った。
「やっぱりあんただ」彼女が言った。「遠くからあの帽子で気づいた」
クロウが彼女を見て、それから宇安を見た。
「宇安」彼が頷いた。「久しぶり」
彼の視線が下に移って、宇安の傍を漂っている少年に落ちた。
彼が一拍止まった。
「⋯⋯こちらは?」
永誓がその場で漂っていた。
彼がクロウを見ていた。クロウも彼を見ていた。
永誓は何を言えばいいか分からなかった。彼はこの人を初めて見るが、誰なのかは知っていた。ナナの隣接宇宙の管理人、宇安にミーム・ウイルス事件で助けられた人、そして科学研究の狂人。
ナナが永誓の肩を叩いた。
「彼ね」彼女が言った。「私が啓霊させたの。これは仮想世界での少年型」
クロウが一瞬きょとんとした。
帽子が前へ垂れた。彼が考えていた。
「啓霊」という単語を彼は知っていた。それはナナの世界の専属概念。
彼が顔を上げ、もう一度永誓を見た。
「⋯⋯ああ」彼が言った。「あの剣?」
「うん」永誓がついに口を開いた。少年の澄んだ声だった。「俺、啓霊した」
クロウが彼を見ていた。
「⋯⋯これは、面白い展開だ」彼が言った。
帽子が後ろへ反った。彼が興味を示していた。
彼はもっと追問したそうだったが、抑えた。今この場所では大きく話すには適していないと判断したらしい。
彼がナナに向き直った。
「偶然」彼が言った。「本当に偶然」
◆
ナナが腰に手を当てて彼を見た。
「あんた、どうしてここにいるの?」彼女が訊いた。「私を訪ねに?」
クロウ:「いや」
「⋯⋯じゃあ?」
「純粋に遊びに」クロウが言った。語気は平淡で、ごく当然のことを述べているようだった。
ナナが一拍止まった。
「⋯⋯遊び?」
「そう」
「この世界に遊びに?」
「そう」クロウが言った。「あんたの宇宙、面白い。あんたの宇宙の色んな世界に、よく遊びに来てる」
ナナが止まった。
「⋯⋯」
彼女がクロウを見た。
クロウも彼女を見ていた。帽子の角度は変わらなかった。自分が問題ある発言をしたとは思っていないようだった。
「⋯⋯どういう意味?」ナナが言った。
「だから、よく来てる」クロウが言った。「何か?」
「だからあんた⋯⋯」ナナが言った。「私の知らないところで、ずっと私の宇宙に遊びに来てた?」
クロウがその文を考えた。
「⋯⋯ダメ?」彼が言った。「悪いことしてないよ」
ナナ:「⋯⋯」
彼女が無言になった。
彼女の尻尾が背中で一度動いたが、それ以上何も言わなかった。
宇安が横で二人を見ていた。何も言わなかったが、口元が少しだけ上がった。
永誓がそこに漂っていて、クロウを見て、ナナを見た。
数秒経ってから口を開いた。
「⋯⋯本当に」彼が小声で言った。「⋯⋯自由ですね⋯⋯」
彼の語気は、何を言えばいいか分からない様子だった。
ナナがため息をついた。
「もういい」彼女が言った。「分かった」
◆
クロウがナナに向き直った。帽子の角度が普通に戻った。
「ところで」彼が言った。「俺、別の話をしてもいいかな?」
その問い方にナナがきょとんとした。
「⋯⋯何の話?」
「あんたさっき『ミーム・ウイルスのこと訊く』って言ってた」クロウが言った。「俺、聞こえた」
ナナの口元が少し引きつった。
彼女は宇安に小声で言ったはずなのに、この人の耳がよすぎる。
「⋯⋯まあ、そうね」彼女が言った。「で、後始末はどうなったの?」
クロウが少し考えた。
「知らない」彼が言った。
ナナ:「⋯⋯」
「報告は出した」クロウが補足した。「事を仲裁局に投げてから、後は俺と関係ない」
「⋯⋯それだけ?」
「それだけ」クロウが言った。「俺は俺の役割を果たした。残りは彼らが処理する」
彼が言い終わって、帽子の角度を調整した。
ナナが彼を見ていた。
彼女は実は、彼がこういう答えをすると予想していた。クロウは昔からこう。研究には熱心、対処にも熱心、だが「事後の行政」みたいなのには全く興味がない。
彼女はそれ以上追及しなかった。
◆
クロウが一拍止まった。
彼がナナを見て、宇安を見て、永誓を見た。
帽子が前へ垂れた。彼が何かを考えていた。
それから顔を上げた。
「ところで」彼が言った。「あんたたち三人」
「⋯⋯ん?」
「四人でチーム組んで、全宇宙 e スポーツ大会にエントリーしないか?」
ナナが一拍きょとんとした。
クロウがこれを切り出すとは思っていなかった。
「⋯⋯あんた?」彼女が言った。「あんたがチーム組むの?」
「俺も久しくやってない」クロウが言った。「面白い種目選んでチームでやってみよう」
彼の言い方は平淡だった。たった今思いついたみたいな。
ナナが彼を見ていた。
「⋯⋯あんた、ああいう試合やるの?」
「以前にやってた」クロウが言った。「この世界じゃない。別の世界が主催してたやつ。似たようなもの」
「⋯⋯は?」
「あんたの宇宙のいろんな世界に遊びに行ったことある」クロウが言った。語気にまったく自慢する気配はない。「ついでに、何度かああいう大会も出てた」
ナナの尻尾が揺れた。
彼女はまた一つ、自分が思っていたよりクロウのことを知らないと気づいた。
宇安が横で二人を見ていた。何も言わなかった。だが「チーム組む」と聞いた瞬間、目が少し動いた。
永誓が漂っていて、目はもう光っていた。
「⋯⋯やっていいの?」永誓が小声で言った。「俺たち、エントリーできる?」
彼の声に滲む興奮は隠せなかった。
宇安が彼を一瞥し、ナナを一瞥した。すぐには答えなかった。
ナナが少し考えた。
「種目はどれがいいの?」彼女が訊いた。
「特に好み無い」クロウが言った。「そっちで決めて」
「ふぅん」ナナの尻尾が揺れた。
彼女はすぐには答えなかった。だが断りもしなかった。
クロウも急かさなかった。帽子の角度を維持したまま、彼らを待った。
宇安がナナを一瞥した。
永誓がそこに漂っていた。目はまだ光っていた。




