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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第三十六章 賭場

 光が散った瞬間、六人は別の空間に現れた。


 先ほどのレストランとはまったく違う。


 ここは広い。天井がとても高く、空間全体が光って点滅していた。中央には巨大なホログラムスクリーンがあり、ある試合を中継していた。四方の壁はびっしり並んだ数字の看板。賠率、賭け金、残り時間、全部が動き続けている。


 空気には、低く流れる人の声と、システムの通知音が混ざった雑音があった。


 人が多い。三、五人ずつ集まり、座って試合を観たり、立って数字を見たり、小声で話し合ったり。一人で看板の前にしばらく立ち、手を伸ばして賭けに参加してから去る人もいた。


 永誓の目がすぐにこの空間に吸い寄せられた。


「ここ、どこ⋯⋯?」彼が巨大なスクリーンを見上げた。「なんでこんなに人がいるの?」


「賭場」レイナ7があっさり言った。「公式のね」


 永誓が一瞬きょとんとした。「賭場?」


「うん」レイナ7が歩きながら言った。「ここでは、何でも賭けられる」


「⋯⋯何でも?」


「本当に何でも」



   ◆



 レイナ7が大廳の中段を案内した。


 彼女は歩きながら、両側の看板を指していった。


「これは試合を賭けるやつ」彼女が賠率がぎっしり書かれたスクリーンを指した。「一番普通のやつ。すべての公式試合がここに掛かる」


「これは、プレイヤーの行動を賭けるやつ」彼女が次の看板を指した。「『誰々が明日某ゲームに入るかどうか』、『某配信者が今月百万人を超えるかどうか』」


 永誓が近寄って見た。


 看板に「プレイヤー『紫光』が今月主催する非公式試合、参加人数が五十を超えるかどうか」とあった。市集で見た名前だった。


「⋯⋯これも賭けられる?」


「賭けられる」レイナ7が言った。「結果が明確で、賭場が誰の勝ちか判定できれば、何でも賭けに立てられる」


 彼女がもっと遠い看板を指した。


「あっち面白いよ。試合や行動以外のもの、賭けられる」


 六人がそちらに歩いた。


 看板の内容は雑多だった。


「XX劇場の次の公演、入場者数が一千を超えるか?」


「来週の議会、最初に発言する議員は誰?」


「来月、議員の権限が駭奪されるか?」


 宇安が最後の一つを見て、止まった。


「⋯⋯これも賭けられるのか?」


「なんで賭けられないの?」レイナ7が笑って言った。「議会権限の駭奪は時々ある。歴史上、何度か起きてる。これを賭ける人、結構多いよ」


 カゲ0が補足した。「賠率は悪くない。でもここ何ヶ月も誰も当ててない」


「なんで?」永誓が訊いた。


「現任の議員たちが安定してるから」ソライが言った。「前回権限を駭奪されたのは二年前」


 ナナがその看板を見ながら、尻尾をゆっくり揺らした。


 彼女は何も言わなかった。だが顔に微かな笑みがあった。嘲笑ではない。「この世界の人たちは、こんなことまで賭けの対象にするんだ、面白い」というような笑い方だった。


 宇安が彼女を一瞥した。


 彼女はそれ以上言わず、彼も訊かなかった。



   ◆



 レイナ7が彼らをもう一方へ案内した。


 そこには試合観戦用のエリアがあった。何列も並ぶ観客席、その正面に巨大なスクリーン。各座席の前には小さな賭けのインターフェースがついていた。


「ここ」レイナ7が言った。「私がよく座る席」


 彼女が適当な列を選んだ。


 六人が座った。


 スクリーンでは超能力対戦が中継されていた。高階の試合。彼らがさっき戦ったのとは全く違うレベル。両チームとも熟練のプレイヤーで、動きが流麗、能力の連携が完璧だった。


 永誓の目がすぐに引き寄せられた。


「⋯⋯これ、俺たちにも分かる!」彼が言った。「俺たちさっきやってたやつ!」


「そうね」ソライが笑った。「でもこの人たちのプレイ、見てごらん。速い」


「⋯⋯」永誓がしばらく見た。「⋯⋯確かに」


 彼はもう何も言わずに、試合に集中した。


 カゲ0が前のインターフェースを指で揺らした。


「賭けてみる?」彼が言った。「小銭で」


 永誓の目が光った。


「賭ける!」


 彼が宇安を振り向いた。


「いい? いい?」


 宇安が彼を見た。


 少し考えた。


 彼は現実で「賭け」をしたことがない。概念は知っている。賭ける、結果を見る、勝つか負けるか。だがやったことはない。


 今は、試してみたい気持ちがあった。


「⋯⋯いい」彼が言った。「俺もやる」


 カゲ0が彼を一瞥して、眉を上げた。


「騎士王が賭ける?」


「俺もやってみたい」宇安が言った。


 ナナが横で「ふぅん」と一声、自分のインターフェースも操作した。


「私、宇安に乗る」彼女が言った。「彼が選んだ方に賭ける」


 永誓:「俺も!」



   ◆



 スクリーンの試合が第二局に入った。


 カゲ0が簡単にルールを説明した。各局には賭け時間があり、開始前に下注できる。賠率は会場の比率に応じて自動計算。


 彼は青チームを選んだ。


 ソライは赤チームを選んだ。


「対立して賭けるほうが面白い」彼が言った。


 レイナ7が笑って、赤チームを選んだ。


 永誓が両チームを見た。


「⋯⋯どっち?」


「直感」レイナ7が言った。「じゃなければ、乗りたい人に乗る」


 永誓が宇安を見た。


 宇安もそのインターフェースを見ていた。


 両チームのデータが浮かんでいた。青チームは連携が安定していた。赤チームには明らかに強い個人が一人いた。


 宇安がしばらく見た。


 彼の直感は青チームを選んだ。理由は、連携が安定していたから。彼の過去の戦場経験では、個人が強いだけのチームは肝心な時に安定したチームに引きずり倒されることが多い。これは戦場に出始めた頃から、彼にずっとついている直感だった。


 最後の戦場に立ったのは、結局、彼一人だった。だが、そこに至るまでの道には、多くの人の同行が刻まれていた。


 彼が青チームを押した。


 ナナも青チーム。


 永誓も青チーム。


 インターフェースに五秒のカウントダウン。


 それから試合が始まった。



   ◆



 六人で見ていた。


 第二局は七分間続いた。


 赤チームのその個人プレイヤーが序盤に場面を圧倒し、青チームは一度かなり追い込まれた。だが後半、青チームの連携が機能し始めた。三人が交互に攻撃を受け止め、相手の体力を消耗させ、最終的に 6:32 でチームの連携技を打ち出して、赤チームの主力を倒した。


 青チームの勝ち。


 永誓が興奮して飛び上がった。また転んだ。


「勝った! 勝った!」


 インターフェースに結算が出た。少量の仮想貨幣が三人の口座に追加された。


 カゲ0とソライが同時にため息をついた。


「⋯⋯」カゲ0が宇安を見た。「なんで青を選んだの? 赤のあの選手、今シーズンのトップ十だよ」


「足りない」宇安が言った。「個人の実力が、チーム全体を引っ張り上げるには足りてない」


「⋯⋯」カゲ0がソライを一瞥した。


 ソライが頭を振った。


「何見てんの」彼が言った。「俺たち、たった今ボロボロにされたばかりだろ。まだ新人扱いするつもり?」


 レイナ7が笑った。「次は、宇安と同じ方に賭ける」


 宇安は答えなかった。スクリーンを見ていた。次の試合がもう始まっていた。



   ◆



 彼らはさらに二試合観た。


 永誓は毎回宇安に乗った。


 二試合とも、宇安が当てた。


 仮想貨幣が少しずつ増えた。多くはない。賠率が低いから。だが永誓は大興奮していた。彼は人生で初めて「勝った」、たとえ試合観戦の小銭でも。


 ナナは横で静かに観ていた。彼女も乗った。毎回宇安と同じ方を選んだ。彼女は特に何も披露しなかった。複雑な賠率を見たりせず、奇妙なプレイヤー行動の賭けに手を出したりもしなかった。


 彼女はただ試合を観ていて、宇安が初めてこれを試すのを観ていて、永誓が興奮するのを観ていた。


 第三試合が終わった時、レイナ7が椅子の背に凭れた。


「あんたたち三人」彼女が言った。「本当にこの世界の人間じゃないの?」


「⋯⋯」ナナが小さく笑った。「本当よ」


「⋯⋯変だわ」レイナ7が頭を振った。「あんたたち、この世界では右も左も分からない様子なのに、何でも上手くこなす。さっきの試合といい、ここの賭けといい」


 彼女はそれ以上言わなかった。


 自分が何を言いたいのかも、分からなかった。


 スクリーンに新しい試合が始まった。賭けのインターフェースが点灯した。


 カゲ0が訊いた。「まだ賭ける?」


 永誓:「賭ける!」


 宇安は答えなかった。


 スクリーンを見ていたが、賭けのインターフェースは見ていなかった。


 彼がナナの方に振り向いた。


「まだ退屈か?」彼が訊いた。


 ナナが一瞬きょとんとした。


 宇安にこう訊かれるとは思っていなかった。彼女は彼を見たまま、一秒ほどしてから反応した。


 彼女が小さく笑った。


「⋯⋯そっちは?」彼女が訊き返した。「楽しい? 面白い?」


 宇安がそれらを考えた。


 学院の練習試合、永誓が初めて「ここに」と発した瞬間、ナナが珈琲店で笑い転げた光景、自分がこの宇宙に来たばかりの頃にはこういうことが存在することすら知らなかったこと。


 今、彼は仮想層の賭場に座っていて、知り合ったばかりの人たちと、よく分からない試合に小銭を賭けている。


「⋯⋯悪くない」彼が言った。「うん、悪くない。面白い」


 ナナが笑った。


「私もよ」

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