第三十五章 フレンド申請
レイナ7は場の状況を一通り見渡した。
もう続けられない。ソライは空中で下りられず、カゲ0はナナに触れられない、彼女自身もたった一回の奇襲で宇安に手首を斬られた。
彼女はある決断をした。
まだ一縷の機会があるとすれば、それは自分の能力で突破口を開くことだ。ソライを地上に降ろし、隊を立て直し、相手の連携を崩す。
彼女は剣を三分の一まで縮めて、握り直した。
それから宇安に向かって走り出した。
走っている途中で、彼女の剣が大きくなり始めた。
三分の一から100%へ。さらに上へ。
150%。
200%。
彼女のサイズ調整は非常に熟練していた。何度プレイしたか分からない試合で蓄積した筋肉記憶。大きくも、小さくも、好きな時に変えられる。宇安が振りの途中で躱そうとしても、彼女は瞬時に縮めて、向きを変えてまた追える。
だが宇安は躱さなかった。
彼は手の剣を握り直し、彼女が突っ込んでくるのを見ていた。
彼が一つのことに気づいた。
レイナ7の剣が大きくなったが、振る速度は遅くなっていない。重量が変わらないからだ。だが剣の長さは元の五尺から、七尺、八尺へと延びていた。
長さが変わると、平衡点が変わる。
体感の重心が、剣先の方に偏る。
物理的に「重くなった」のではない。テコの原理で「制御しにくくなった」のだ。同じ重量でも、握る位置から遠ければ遠いほど、振る慣性、戻す力、技の精細さ、すべてが鈍くなる。
これが彼女の唯一の破綻だった。
剣が大きくなればなるほど、彼女は剣の制御を失っていく。
レイナ7が振ってきた。
大剣が上から下へ振り下ろされる。
宇安は退かなかった。左へ半歩、永誓が手の中で連動して回り、逆手で一弾。弾いたのは剣刃ではなく、剣身の前寄りの位置だった。
レイナ7の剣が、その一弾で斜めに少しだけ流れた。
ほんの少し。
だが、すでに二倍に拡大されて、重心が握り手から離れている剣にとって、この少しのズレを修正するのは大仕事だった。
彼女はすぐに剣を元のサイズに縮めようとした。だが縮小にも時間が要る。
その半秒に満たない隙間で。
宇安が瞬間移動した。
レイナ7の側面に出現し、剣先が直接彼女の頸に触れた。
赤い光が大きく走った。
レイナ7の仮想身体が一瞬光り、それから場外へ送り出された。
彼女の巨大な剣が空中に零点何秒か留まり、それから一緒に消えた。
◆
カゲ0が一瞬きょとんとした。
レイナ7が倒れたその一秒、彼は気づいた。
もう自分には何の援護もない。
レイナ7はチームの主力。彼女が相手の注意を引き付けるからこそ、彼が機会を見つけてナナに近づける。彼女が倒れた今、彼が直面しているのは宇安、ナナ、そして永誓の三人。
永誓が空から急降下した。
今の彼はまだ剣の形態。手も足もない、純粋な剣身。だが彼の飛び方は速くて、安定していた。本来から剣として在る存在。急降下、方向転換、刺突は、歩くより自然だった。
カゲ0が本能的に鞭で防いだ。
永誓は鞭の軌跡を直接突き抜けた。鞭は剣を絡め取れない。彼は鞭の弧の隙間を抜け、剣先がカゲ0の肩に突き刺さった。
赤い光が一瞬走った。
カゲ0が反応する前に、宇安はもう彼の反対側に瞬間移動していた。
一刀。
カゲ0の仮想身体が赤く光り、場外へ送り出された。
◆
ソライが空から下を見下ろしていた。
二秒のうちに、仲間が全員倒れた。
彼は空にいる。誰も連携してくれない。
彼の無重力がもうすぐ冷却に入る。終わった瞬間、彼は直接落下する。落ちた後、何の防御手段もない。
永誓が空に戻ってきて、彼の前に懸って止まった。剣先がソライに向いていた。
ナナが下で弓を引き、矢先を彼に向けていた。
ソライが下を見て、永誓を見て、自分の剣を見て、ため息をついた。
彼が剣を下に投げ落とした。
手を上げた。
「降参」
システムが彼の戦意放棄を認識し、場外へ送り出した。
◆
戦闘結算のウィンドウが三人の前に開いた。
勝利。
報酬:少量の仮想貨幣。
永誓の少年型が再び現れた。
地面に戻った瞬間、彼は転んだ。
「⋯⋯」彼が地面に座り込み、二人を見上げた。「また歩けなくなった」
ナナが吹き出した。
ちょうどその時、三件のフレンド申請ウィンドウが、同時に三人の前に浮かんだ。
「レイナ7がフレンド申請を送りました」
「ソライがフレンド申請を送りました」
「カゲ0がフレンド申請を送りました」
永誓の目が光った。
彼はフレンド申請を初めて受け取った。
彼が一番先に「承認」を押した。動作が速くて、ナナと宇安が反応する前だった。
宇安がそのウィンドウを一瞥し、それから地面に座っている永誓を見た。
彼が承認を押した。
ナナも続けた。
承認した次の瞬間、二つ目のウィンドウが現れた。
「レイナ7から場所への招待:『あの子の家の裏庭』」
どこかの場所の名前のようだった。
永誓:「俺たち、転送される?」
ナナが笑って手を伸ばし、彼を地面から引き起こした。
「ついて行けばいいよ」
◆
転送光が散った。
六人がレストランに現れた。
半開放の空間で、窓から仮想世界の空が見えた。核心都市側の空とは全く違う。紫がかった、データ紋様が流れる空。
六人座の長テーブル。レイナ7が座り、椅子の背に深く凭れた。
「ようこそ、私の家の裏庭」彼女が言った。「私がよく来る店」
「店の名前が『あの子の家の裏庭』ね」ソライが補足した。「彼女の家とは何の関係もないから、勘違いしないで」
メニューが浮かんだ。
メニューには普通の料理。コーヒー、軽食、デザート。だが値段は一般店より明らかに高めだった。レイナ7が三人分を慣れた手つきで頼んだ。
カゲ0がブラックコーヒーを一杯頼んだ。
ソライが軽食を一つ頼んだ。
メニューがナナたちのほうに回ってきた。
ナナの尻尾が揺れた。
「奢り」レイナ7が言った。「さっきの試合のお詫び、私たち三人から」
ナナが笑った。
「じゃ、遠慮しない」
彼女がデザートを一つ、宇安と永誓のために軽食を一つずつ頼んだ。
◆
料理が運ばれてきた。当然、空中生成。
レイナ7がサンドイッチを一口齧り、両手をテーブルについて身を前に乗り出した。
「よし」彼女が言った。宇安とナナを見た。「本題に入る。あんたたち三人、いったい何者?」
彼女が口の中のサンドイッチを呑み込んだ。
「私、このゲーム三年やってる。あんたたちのIDも、暱称も見たことない」彼女が続けた。「『自分を武器に変える』を選ぶ人がいないわけじゃない。でも⋯⋯あれをここまで研究して、自在に操ってる人なんて、見たことない」
彼女が宇安の腰のあたりに浮いている剣をちらっと見た。
「あんたたち三人、新人なはずがない。あの瞬間移動の使い方、自分で飛ぶあの剣、それと⋯⋯」彼女がナナを一瞥した。「あの、最小限の動きで鞭を躱すあの技、新人が出せるものじゃない」
ソライがフォークを置いた。
「俺たち本気で、あんたたちのこと新人だと思ってたんだよね」彼が言った。「結果、最後まで何が何だか分からないまま負けた」
カゲ0は今度、ちゃんと声を出して話した。超能力対戦が終わった後、彼の能力も消えていて、普通に発声できる状態だった。
「あと」彼が言った。声は思ったより澄んでいて、若い男の声だった。「俺の引いたあの無声、本当に最悪」
「あ、声出るんだ」永誓が驚いた。
「⋯⋯」カゲ0が永誓を一瞥した。「俺、もともと声出るんだよ。あれは場のスキルだから」
「最悪な能力」レイナ7が同調した。「次から地雷能力引いたら即リロールしなさいよ」
「考えた」カゲ0が言った。「でもその時『無声、かっこよくない?』って思っちゃって⋯⋯」
ソライが頭を振った。
「そういう一瞬の判断で選ぶやつ」彼が言った。「全員の足を引っ張る」
カゲ0が黙った。
永誓が横で小さく笑った。
レイナ7が話を戻した。
「で」彼女がまたナナを見た。「あんたたち、どこから来たの?」
ナナが宇安を一瞥した。
宇安が手を広げた。
ナナが少し考えた。
「私たち、この世界の人間じゃない」彼女が言った。「別のところから来てる。ここに来たのは初めて」
レイナ7:「⋯⋯どういうこと? 別のところって、どこの世界?」
「⋯⋯別のところ」ナナが言った。「もうちょっと向こう」
「もうちょっと向こう?」
ナナが少し言葉を選んだ。
「私自身は、別の世界から来てるだけ。この宇宙の中の、別の世界」ナナが宇安を指した。「彼の方が特別。彼は別の宇宙から来てる」
テーブルが一瞬、静かになった。
ソライが先に反応した。
「⋯⋯宇宙跨ぎ?」
ナナが笑った。
「そう」
「そんなの本当にあるの?」ソライが言った。声が明らかに違っていた。
「あるよ」ナナが言った。「ただし、跨ぎ方が特殊。普通の人にはできない」
レイナ7が彼女を見ていた。表情は明らかに「信じるべきか、信じないべきか」。
彼女は最後、信じることを選んだ。この世界に長くいると、この宇宙で何が起こっても不思議じゃないことを知っている。「別の世界から来た」と言う猫耳の女性が、自分で動く剣と寡黙な男を連れて現れる。この光景自体がもう転生風だった。
「⋯⋯で、彼は本当に別の宇宙から?」彼女が宇安を指した。
「そう」ナナが言った。「彼は別の宇宙の引退した騎士王。かつて宇宙跨ぎの危機を止めた、剣術の超ハイレベルな騎士」
ソライ:「⋯⋯何?」
カゲ0が宇安を見て、つい一声口笛を吹いた。
「どうりで剣術が安定してるわけだ」彼が言った。「早く気づくべきだった」
宇安が咳払いをした。
「『引退』じゃない」彼がついに口を開いた。「まだ籍はある。ただ長期休暇中。国王が俺の騎士王の称号を、まだ取り消してないから」
「⋯⋯」レイナ7が彼を見た。「これって、自慢?」
「違う」宇安が言った。「ただの訂正」
テーブルがまた静かになった。
それからレイナ7が吹き出した。
「はいはい、分かった分かった」彼女が笑いながら手を振り、笑いが少し落ち着いてから永誓を見た。「⋯⋯で、そっちは?」
永誓が背筋を伸ばし、一度宇安を見て、それから自分の手を見た。
「⋯⋯どう言えばいいかな」彼が言った。「俺、もともと一本の剣」
彼が一拍置いた。
「彼が現実で使ってるあの武器。今日、初めて手足ができた」
ソライが目を瞠った。
「ちょっと待って」彼が言った。「剣に意識が宿るってこと?」
「俺には意識がある」永誓が言った。
「どうやって?」
「えーと⋯⋯その⋯⋯」永誓がナナを一瞥した。「⋯⋯ある日、急に」
レイナ7が長い溜め息をついた。
「あんたたち三人」彼女が言った。「本当に、一人ずつもっと変だわ」
◆
しばらく雑談が続いた。
レイナ7が背筋を伸ばして座り直した。
「次、どこか行く予定ある?」彼女が訊いた。「それとも、案内しようか?」
彼女が一度笑った。
「初めて来た人なら絶対興味持つような場所、いくつか知ってるよ」
永誓の目がすぐに光った。
彼が宇安を見て、ナナを見た。
ナナの尻尾が揺れた。
「⋯⋯その提案、いいわね」彼女が笑って言った。「私たちもまだ次どこ行くか決めてなかったし」
宇安は何も言わなかった。だが三人を見て、反対しなかった。
レイナ7が立ち上がった。
「じゃあ、行こう」彼女が言った。「まずは絶対に目を見張るような場所から」




