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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第三十四章 戦場の礼儀

 カウントダウンがゼロになった瞬間。


 双方とも、すぐには動かなかった。


 相手の三人は自分たちの側の場に立ち、姿勢が緩んでいて、明らかにこちらの陣容を品定めしている様子だった。


 鞭を持った男が口を開き、何か言った。


 音がない。


 口は動いている。明らかに何か喋っているのだが、声はまったく聞こえない。


 大剣を持った女性が言葉を継いだ。


「ラグかな?」


「まさか」空に浮いている方が上から返した。「どんな深山幽谷から接続してきたのよ……」


 鞭を持った男がまた何か言った。やはり音がない。


「待って」大剣の女性が突然言った。視線が宇安の傍に浮いている剣に移った。「ねえ、あの剣、名前ついてるよ」


 彼女が目を細めた。


「『一把好剣』⋯⋯?」


 彼女の視線が宇安に戻った。


「これって⋯⋯超能力?」


「剣に名前をつける超能力って何?」空に浮いている方がツッコんだ。「それ、何の超能力なの?」


 鞭を持った男が剣を一目見て、それから仲間を一目見て、無声で何かを言った。


「剣に名前をつけるって何よ」空に浮いている方が言った。「お前バカなの? それ三人目のプレイヤーでしょ」


「⋯⋯」


「自分を武器に変える」大剣の女性が言った。語気に隠す気がない。「違和感、すごくない?」


 ナナがふっと笑った。


「あの子たち、頭をどう絞っても辿り着かないでしょうね。彼が元々、剣だってこと」


 永誓が空中で前へ傾き、剣先がまっすぐ大剣の女性に向いた。そのまま飛んでいって突き刺しに行きそうな勢いだった。


 宇安が手を伸ばして押さえた。


 永誓が不本意そうに少し下がったが、剣先は対面に向いたまま、戻らなかった。



   ◆



 大剣の女性が剣を肩に乗せ、二歩前に出てきた。


「ね、新人さんたち」彼女が言った。「あんたたちの陣容⋯⋯ちょっと独特だね。私たちが手加減しようか?」


 彼女が笑った。


 嘲笑ではない。「明らかにあなたたちは新人だから、ちょっと手加減してあげても構わないわよ」という、どこか親切な口調の笑い方。


 三人の暱称が頭上に浮かんでいた。


 レイナ7:大剣の女性。


 ソライ:空に浮いている方。


 カゲ0:鞭を持った男。


 宇安が三人を見ていた。


「いらない」


 レイナ7が一声笑った。


「⋯⋯あ、そう」


 彼女が大剣を肩から下ろした。指先で剣身を一撫でした。


 大剣が瞬時に元の三分の一に縮小した。


 ソライの浮遊高度が少し下がった。


 カゲ0が鞭を一度振った。


 彼らが本気になり始めた。だが、その「本気」のレベルは、明らかにまだ「新人に対する本気」だった。



   ◆



 永誓が先に動いた。


 彼が宇安の傍から飛び上がり、空のソライに向かって直進した。


 ソライは空中で佩剣を持っていた。武器選択の段階で宇安と同じ武器を選んでいた。彼が永誓の飛んでくるのを見て、反応は速く、剣を構えて迎撃した。


 二本の剣が触れ合った。


 永誓が空中で身を捻り、ソライの反対側に回り込み、剣先で一突き。


 ソライが身を躱した。だが彼は無重力状態で、動きには自分の制限があった。漂うことはできるが、重力のある人間のように地面で踏ん張れない。永誓の動きは彼よりずっと自由だった。


 永誓がもう一刀。


 ソライが剣で受け止めた。


 永誓がそのままぶつかっていった。


 彼は怖くない。武器として、致命傷の概念がない。斬られても状態が削られるだけで、淘汰はされない。剣身と剣身がぶつかり、彼はその勢いを借りて横へ回り込み、もう一刀繰り出した。


 ソライが手を焼き始めた。剣術の基礎はあるようだが、無重力状態での力の使い方が普段とは違う。永誓は元々が剣なので、力の借り方、絡み合い、技の切り替え、すべてが彼より熟れていた。


 空中の絡み合いがどんどん近接になっていく。


 地面の二人は手を出せなかった。レイナ7の大剣は空までは届かない。カゲ0の鞭は空に届くが、彼が二回試した攻撃はどちらも永誓に身を躱されて避けられた。



   ◆



 二本の剣が空中で交錯したあと、永誓がソライの一刀を貰った。


 彼の剣身に淡い赤の光が一筋走った。状態が一段削れた。


 だが次の瞬間、下から矢が飛んできた。


 矢が永誓の剣身を擦り抜けた。


 淡い緑の光が剣身を一閃して、削れた状態が満タンに戻った。


 永誓はその瞬間を借りて、剣先をソライの左腕に直接突き刺した。


 ソライの身体が一瞬赤く光った。淡い赤。淘汰はされないが、有効ダメージ。


 彼が瞬時に空中に五メートル飛び上がり、距離を取って、自分の左腕を押さえた。


 彼が空から下を見下ろした。


 ナナが下で弓を構えていた。姿勢は楽そうで、次の矢はもう番えてある。彼女は永誓のソライへの次の動きを見て、待っていた。


 ソライが彼女を一瞥し、永誓を一瞥した。表情が複雑だった。


「⋯⋯二対一?」彼が言った。


「そうよ」ナナが笑った。語気にちょっとした嘲りがあった。「まだ飛びたい?」


「⋯⋯」


 彼が急いで下りようとした。だが永誓はもう、彼が降りたい位置で待っていた。剣先が彼の降下軌道にまっすぐ向いていた。


 ソライが慌ててまた上へ飛んだ。


 空に閉じ込められて下りられない。



   ◆



 カゲ0が突っ込んできた。


 彼には空の状況に対処できない。だがナナには対処できる。ナナの弓は治療と攻撃を兼ねていて、彼らにとって今、最大の脅威だった。先に彼女を潰さないといけない。


 彼がナナの方向へ疾走した。音はない。


 宇安が瞬間移動した。


 目標はナナの傍。


 だが彼の出現位置は二メートルほど離れていた。


 彼の瞬間移動の落下点が正確じゃない。この能力をまだ使う回数が足りなくて、距離感が掴めていない。


 彼はナナからまだ距離があった。


 カゲ0はもうナナの目の前にいた。


 ナナは宇安を見なかった。振り向きもしなかった。


 彼女の視線がカゲ0に軽く落ち、唇の端が一度持ち上がった。芝居でも見ているような笑い方だった。


 カゲ0の鞭が振り出された。空中の弧線がナナの首へ向かう。


 ナナの頭が横へ傾き、鞭が彼女の耳元を通り過ぎた。


 カゲ0の鞭がすぐに引き戻され、低い位置から薙ぎ払ってきた。


 ナナが軽く一跳び。


 鞭が彼女の足の下を通り過ぎた。


 カゲ0がさらに二発、上下から振った。


 ナナが身を捻り、頭を下げる。二つの動作が落ち着いていた。


 彼女の尻尾が背中で軽く揺れていた。動作全体が散歩のように流暢だった。


 カゲ0が五回振り、一発も当たらなかった。


 彼の眼差しが変わった。


「後ろに気をつけて」


 宇安の声がナナの側面から聞こえた。


 彼がついに到着した。今回の瞬間移動の落下点は精確だった。


 ナナは振り向かなかった。だが宇安のその一言を聞いた瞬間、一歩前に出た。


 一筋の剣光が、彼女が先ほどいた位置を薙ぎ払った。


 大きい。


 音がない。


 レイナ7がナナの背後から振った剣だった。剣を拡大していて、振り幅が大きい。だがどんな振りの音もしなかった。先ほどカゲ0が突っ込んできた時に彼女に触れて、無音効果を渡していたのだ。


 宇安が手を上げ、彼が選んだあの剣で、その大剣を弾き上げた。


 剣が弾かれた瞬間、宇安の中で何かが定まった。


 思ったほど重くない。


 あのサイズなら、本来なら一撃で一歩は後退させられるはずだった。されなかった。剣は大きいが、接触したときの力は、普通の剣とほぼ変わらない。


 彼の眼が変わった。


 レイナ7の能力が分かった。


 武器のサイズが可変、重量は不変。


 彼が頭の中で確認した。重量が変わらないなら、振る速度は普通の剣と同じ。だが拡大したときの動作軌跡と振り幅は明らかに大きくなる。巨大な剣が振られれば、敵には剣がどこを薙ぐのか見える時間がより長くなる。


 破綻は遅さじゃない。明らかさだ。


 彼がレイナ7の側面に瞬間移動した。


 彼女が今振り抜いた剣を引き戻している瞬間、剣先が彼女の手首に触れた。


 淡い赤の光がレイナ7の手首に一瞬走った。


 彼女が反射的に剣を三分の一に縮め、二歩後退して、宇安を見た。


「⋯⋯」


 彼女は何も言わなかった。


 だが彼女のさっきの「無音奇襲」の算盤は、明らかに崩れた。



   ◆



 カゲ0はさっき突っ込んできた時に勢いを止め切れず、走りすぎていた。今、彼の位置はナナと宇安の間にあった。


 彼が止まった。


 彼が無声で何か言った。


 口の形が「⋯⋯くそが」と言っているように見えた。


 彼が後退した。


 ナナがゆっくりと弓を構え、また一矢。


 矢がカゲ0の耳を擦り抜けた。


 淡い赤の光が彼の頬の横で一瞬光った。ダメージ。


 カゲ0の眼差しがまた変わった。


 ソライが空から下を一瞥した。彼自身は永誓に押されて下りられない。レイナ7は宇安に手首を斬られた。カゲ0はナナに触れることすらできていない。


 彼が沈黙した。


「⋯⋯レイナ」彼が空から口を開いた。


「わかってる」レイナ7が下で言った。


 彼女が宇安を見て、ナナを見て、空のソライと、永誓に押さえつけられている戦況を見た。


 最後に、彼女が自分と仲間の頭上にあるステータスバーを見た。


 彼女の、ソライの、カゲ0の——三本のステータスバーは、どれも一段削られていた。


 そして向こう側。


 永誓の剣身に赤い痕はない。宇安にもない。ナナにもない。


 彼女が黙った。


 眼差しが重くなっていく。


「⋯⋯」


 ソライが空中で下を見下ろした。彼にも見えていた。


 カゲ0が無声で何か言ったが、誰も返さなかった。


 誰も口を開かなかった。

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