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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第三章 くたばり駄猫


 提案したのはクロウだった。


 感染者の宇宙から、かつて存在した裂け目の痕跡を辿って、元の宇宙の位置を特定し、訪問申請を送ることができる――通すかどうかは駄猫次第だが、少なくとも、宇安がまだ生きていることは伝えられる、と。


 宇安は聞き終えて、少し沈黙した。


「やってみるか」


 クロウは既に動き始めていた。


 帽子のつばが後ろへ反り、手元で何かを演算し始める。ナナはウィンドウを一つ空けて彼のために譲り、自分は別の作業を続けた。


 作業は決して速くはない。


 宇安はソファに背を預けてしばらく眺めていたが、ほとんど理解できなかったので、目を閉じて待つことにした。


 三十分ほど経った頃、クロウが言った。


「送った」


「ん」


 宇安は言った。


「待たなくていい」


 クロウはチャンネルを開いたままにして、何も言わなかった。


 ナナは傍らから宇安を一瞥し、視線をウィンドウへ戻した。



   ◆



 返信が来たのは、翌日のことだった。


 宇安がまだ半分夢の中にいた頃、あるウィンドウが通知音を鳴らした。


 他のウィンドウの音とは、どこか違う音だった。


 ナナが顔を上げて一瞥し、面白そうな顔でそのウィンドウを宇安の方へ押しやった。


「昔馴染みから、お手紙よ」


 宇安は目を開け、身を起こして、ウィンドウを見た。


 文字だった。


『――おやおや、これはこれは。とうにご昇天遊ばされたはずの騎士王陛下ではありませんか? まさかクラスチェンジして死霊騎士にでもおなりになったのかしら?』


 宇安はその一行を二秒ほど見つめ、口角がかすかに引き攣った。


 下に続きがあった。


『死ななかったのは運がよかったわね。まさかホームシックになる性質じゃないでしょう。うちの宇宙には見るべきものなんて何もないんだから、外でもっと遊んでらっしゃい。それとも、私と一緒に日向ぼっこする方がお好み?』


『太陽は相変わらず高く昇り、王国は相変わらず警戒態勢。でも人々はずいぶん明るくなったわ。宇宙の裂け目は閉じたけど、しばらくは警戒が続くみたいね。みんなあなたを讃えて、お祝いしてるの。名前を歌にして、墓碑を立てて、銅像まで彫ってるわよ』


『墓碑銘、何か書きたいことある? 私が代わりに書いてあげてもよろしくってよ〜』


 宇安は読み終え、ソファの背もたれに体を預けて、しばらく沈黙した。


 王国は無事だ。人々も無事だ。


 彼はそう思い、ウィンドウを引き寄せ、返信を書き始めた。


『くたばり損ないの駄猫。俺はしばらくこの宇宙に留まる。少しかもしれないし、長いかもしれない。一つ貸しだ。忘れるなよ』


 送信し、ウィンドウを脇へ押しやり、背もたれに体を戻した。


 ナナが傍らから彼を一瞥した。


「墓碑と銅像」


 彼女は言った。口調はさらりと軽い。


「いいじゃない」


「うるさい、か?」


 宇安は言った。


「死人のくせに文句言えるって」


 ナナは口角を上げた。


「なかなかいいわね」


 宇安は答えず、目を閉じた。


 ここでクロウがどこからともなく現れ、そのウィンドウを覗き込んだ。


「チャンネルが開いたままだ」


 彼は言った。


「管理人チャットグループに誘ってみるか?」


「面倒だ」


 宇安は言った。


「入ったからって、何か義務が生じるわけじゃない」


 ナナは言った。ウィンドウを引き戻して軽く目を通す。


「返したい時に返せばいいし、見たい時に見ればいい。誰も何も強制しないわ。それに入ってくれれば連絡もずっと楽になるの。毎回クロウに裂け目の痕跡を追わせる手間もなくなる」


 宇安は少し考えた。


「送ってくれ」


 ナナは既に送っていた。


 招待を送ってしばらくすると、通知音が一つ鳴った。


 駄猫は承諾した。


 チャットグループに、ぽつりぽつりと文字が浮かび上がる。


『新メンバー? ようこそようこそ』


『yo、新入り』


『こんにちは〜 ここ結構賑やかよ、何かあれば気軽に訊いて』


 駄猫は、返信しなかった。


 グループは一瞬静かになり、他の管理人が何か雑談を始め、話題はそのまま流れていった。何事もなかったかのように。


 ナナは、新しく加わったその肉球アイコンを見つめ、口角をわずかに動かした。


「潜水型ね」


「ああ」


 宇安は言った。目はまだ閉じたままだ。


「あいつはそういうやつだ」


 クロウは帽子のつばを押し上げた。


「むしろ手間が省けていい」


 執務室は静かになった。


 ウィンドウの光が床に落ちる。


 ナナの尻尾が椅子の横でゆっくりと揺れ、管理人チャットグループのウィンドウは隅に小さく縮まったまま、時折ぽつりと光り、また暗くなる。



   ◆



 ――別の宇宙で。


 一匹の猫が、チャットグループを覗いた。


『…』


『‥』


『…‥』


 彼女はウィンドウを閉じ、日の当たる場所を見つけて横になり、目を細めた。


 生きていた。


「――上出来ね」

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