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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第十三章 伝説武器チャットルーム


 宇安が目を開けた時、ナナはすでにドアを押し開けていた。


「起きて」


 尻尾が逆立っている。動きが急だ。


「伝説武器が暴れてるの。世界樹の下で」


 宇安は身を起こした。


「原因は」


「分からない。エルフの女王からもう三回緊急通信が来てる」


 ナナは言いながらもう外に歩いている。


 宇安が後を追った。


「あっちは、なんでいつも何かあるんだ」


「面白い場所ってそういうものでしょ」


 ナナは言った。


「そうじゃなくて」


 宇安は言った。


「機械生命の件があって、今度は武器の喧嘩。あの女王、疲れてないのか」


 ナナは一拍止まった。


「三通目の緊急通信の内容はね」


 彼女は言った。


「『お願いだから来て』」


「……それは確かに疲れるな」


 ナナが空中に裂け目を開いた。


「行くわよ」



   ◆



 エルフ王国の中枢域。


 世界樹は巨大だった。見上げても頂が見えない。幹には淡い光が流れ、葉が風もないのにわずかに揺れている。


 だが、その根元は荒れ果てていた。


 地面に無数の武器が散乱し、いくつかはまだ微かに震えている。打ち合いの直後のように。


 そして世界樹の前方に、五振りの武器が宙に浮いて対峙していた。互いの間に生じる圧が、周囲の空気を歪ませている。


 中央にあるのは一本の翠緑の枝。穏やかだが揺るぎない力を放ち、他の四振りを隔てようとしている。


「世界樹の枝。エルフの女王の武器よ」


 ナナは低い声で言った。口調に緊張はない。尻尾はもう逆立ちから悠然とした揺れに変わっていた。


 宇安は残りの四振りを見た。


 一振りの巨剣。人の背丈ほどもある。刃には亀裂と欠けが無数に走っているが、そこから漂う圧は尋常ではない。


 その隣に長槍。緑色の柄、穂先は鋭く光っている。赤い房飾りはぼろぼろで、何度も繕った跡がある。


 反対側には工匠の槌。槌頭にびっしりと紋様が刻まれている。装飾ではなく、何かの機能を持つもののように見えた。


 最も異質なのは、純粋にピンク色の杖だった。先端にきらきら光る星が嵌まっている。場の雰囲気と完全に合っていない。


「あのぼろぼろの巨剣は裂戦(れっせん)


 ナナの口調はメニューを読み上げるような調子だった。


「持ち主が一人で峡谷を三日三晩守り通して、最後に力尽きて死んだ。その時の剣よ」


 長槍を指した。


不屈(ふくつ)。古代の将軍と七十二の戦を駆けた槍。一度も折れたことがない。見た目はもう限界だけど」


 宇安は工匠の槌に目を向けた。


巧匠之握(こうしょうのにぎり)。伝説の工匠の槌で、これで神器を三つ鍛えた。表面の紋様は本人が自分で刻んだもの」


 ナナの尻尾がさらに悠然と揺れた。


「あのピンクのは――」


「――終焉之杖(しゅうえんのつえ)よ!」


 活発な声が割り込んできた。ナナの声ではない。あのピンクの杖の先端の星がぴかぴかと光っている。


「私たち、すっごく強いんだから!」


 巨剣が低い唸りを立てた。嘲るような響き。


「お前、きらきら粉を撒く以外に何ができるんだ」


「あんたみたいな斬って殺すしか能がないポンコツよりマシよ!」


 星の点滅が激しくなった。


 長槍が両者の間に割って入った。安定した声だ。


「二人とも黙ってくれ。今は誰が強いかじゃなく、誰が一番辛いかって話をしてたはずだ」


 工匠の槌が甲高い金属音を立てた。


「それなら明らかに私だ。神器を一つ鍛えるのに何万回叩くか、お前たちに分かるか――」


「つまりお前はただ叩いてるだけだろう」


 巨剣が即座に食いついた。


「俺は実戦で――」


 世界樹の枝が柔らかな緑光を一輪広げ、場を鎮めた。


「皆さん。私たちは皆、主のために在る存在です。優劣を争うものではありません」


 宇安はナナを見た。


「なぜこいつらに意識がある」


 ナナの耳が得意げに立った。


「前に最も役立たずな超能力大会で淘汰された選手がいたでしょう」


 彼女は言った。


「あの人の能力は、歴史的痕跡を宿すものの意識を目覚めさせること。審査員が『強すぎる、役立たずじゃない』って判断して、淘汰したの」


 宇安は自分があの大会に出た時のことを思い出し、頷いた。


「あの能力が面白すぎたから、借りて試してみたのよ」


 ナナの尻尾が上を向いた。


「目覚めた後の武器は前より強くなった。主人だけじゃなくて、武器自身が自分の記憶と経験で主動的に連携できるようになるから。それで、条件に合う武器をあちこち探して回って、試してみないかって声をかけたの」


「で、チャットグループを作ってやった」


 宇安は言った。


「ええ。定期的に集まれるようにね」


「で、集まるたびに喧嘩になる」


「それは予想外だったわ」


 ナナは言った。口調には、後悔とも面白がりともつかない色が混じっている。


「でも、まあ、面白いわね」


「エルフの女王はそう思ってない」


 宇安は言った。


「彼女は考えなくていいの」


 ナナは言った。


「私が処理するから」


 巨剣が二人の会話を聞きつけ、こちらに向き直って唸った。


「ナナ管理人、いいところに。どうか裁いてください。やはり俺たち前線で戦う武器が一番辛いですよね――」


 長槍がすかさず反論した。


「守護も征戦も同じだけの苦しみだ――」


「せめてお前たちは覚えてもらえる!」


 工匠の槌が割り込んだ。


「武器を鍛えた者を、誰が覚えている?」


 法杖がピンクの光を纏って参戦した。


「あなたたちは全員深刻すぎるの。希望を保ち続けるのがどれだけ大変か、分かる?」


 世界樹の枝がもう一度、なだめるような光を放った。


「皆さん。私たちの辛さはそれぞれ異なり、比較できるものではありません」


 宇安は静かにしばらく見ていた。


 それから口を開いた。


「なぜ急に暴れ出した」


 武器たちが一斉に静まり返った。


 ようやく宇安の存在に気づいたらしい。

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