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猫管理人と騎士王の隠居生活  作者: tobyisme


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第十四章 宇安の剣


 沈黙が三秒ほど続いた。


 巨剣が先に口を開いた。低い声に、どこか不本意そうな響きがある。


「もともと、ただの集まりだったんだ。顔を合わせて、話でもしようかと」


 剣身がわずかに長槍の方を向いた。


「こいつが先に始めたんだろう」


 長槍は言った。声は安定している。


「お前が先だ。戦闘の重圧は俺たちとは格が違うとか、言い出したのはお前だ」


「事実だろう」


 巨剣が低く唸った。


「峡谷を三日三晩守り通す。お前にはできるか」


「俺は主人と七十二の戦を駆けた」


 長槍は言った。


「三日じゃない。一生だ」


 工匠の槌が甲高い音を立てた。


「お前たちが振るった武器は、誰が鍛えたと思っている。俺がいなければ、お前たちは戦場に立つことすらできなかった」


「また始まった」


 法杖の星がちかちかと光った。


 それから先は——宇安がさっき目にした、あの惨状そのものだった。


「暴れてる時に」


 宇安は言った。


「周りに散らばった武器はどうなった」


「巻き添えです」


 世界樹の枝が言った。かすかな疲労が声に滲んでいる。


「この方たちが戦い始めるとエネルギーが拡散して、周囲の普通の武器が耐えきれずに弾き飛ばされるのです」


「で、エルフの女王が三回緊急通信を送ってきたわけね」


 ナナは言った。口調は平坦だ。


 世界樹の枝が一瞬沈黙した。


「……はい」



   ◆



 巨剣はこの程度の沈黙では収まらないらしく、ぶん、と二度唸ってから、不意に長槍に向き直った。


「辛さで言えばな、バートンと俺で峡谷を守ったあの時――二日目の夜に奇襲が来た。六百人だ。バートンは一人で入口に立った――」


「また、その話か」


 長槍が言った。


「お前たちは経験していないからだ」


 巨剣は言った。剣身がわずかに震える。何かを思い出しているように。


「六百人。峡口一つ。三日三晩。最後には柄を握る手が血で滑って、それでもあの男は退かなかった」


 長槍はしばらく黙った。それから言った。


「凌雲は五十八回目の戦で、敵が毒霧を撒いた。軍は全員倒れた。立っていたのは彼一人だ。俺を握ったまま、毒霧の中で七刻耐え抜いた。援軍が来るまで」


 工匠の槌が、二振りが語り終えるのを待ってから、口を開いた。


「オルセンが三つ目の神器を鍛えた時、四十日間休まず働いた。最後の一振りを打ち下ろした時、彼の右手は砕けた。だがあの一振りは、完璧だった」


 法杖の星が少し光を落とした。さっきまでの活発さとは違い、静かだった。


「セイラの最後の戦い。周りの全員が諦めた。立っていたのは彼女だけ。私を握って、一晩中、闇に向かって呪文を唱え続けた。攻撃の呪文じゃない。希望の呪文を。夜が明ける頃、闇は退いた」


 世界樹の枝がゆっくりと揺れた。


「どの物語も、記憶されるに値するものです」


 巨剣がぶん、と一つ唸った。


「だが、峡谷の――」


 ナナが咳をした。


 軽く。一つだけ。


 五振りの武器が同時に静まった。


 ナナはそこに立っている。尻尾が揺れている。何も言わない。ただ見ている。


 数秒の静寂。



   ◆



 そこで宇安が口を開いた。


 だが、武器たちに向けた言葉ではなかった。


 彼は視線を落とし、自分の腰にある佩剣に指を触れた。


「こいつも目覚めたら」


 声は低い。独り言のようだった。


「どう思うんだろうな」


 一拍。


「俺のことを、いい主人だと思うのか。それとも本当は、言いたいことが山ほどあるのか」


 五振りの武器の注意が、一斉に彼に集まった。


 巨剣がその佩剣を見た。ぶん、と一つ、先ほどとは違う響き。


「この剣――」


 語調が変わっている。少し引いた。


「普通のものじゃないな」


 長槍も一瞥した。


「刃の痕が、普通の戦場で付くものじゃない」


 工匠の槌の紋様がかすかに発光した。何かを走査しているようだった。


「素材が特殊だ。私の知る鍛造法のどれとも合致しない」


 法杖の星が好奇心たっぷりに近づいて、ちかちかと光った。


 ナナはそれを聞いた瞬間、耳がぴんと立った。


 目が光った。尻尾が高く上がる。


「やってみる?」


 彼女は言った。


 宇安は彼女を一瞥した。


「あの能力を持ってた人、今空いてるのか」


「あの人は要らないわ」


 ナナは言った。口調にわずかな誇りが滲む。


「自分で覚えたから」


 宇安が彼女を見た。


「あの選手が淘汰された後、わざわざ会いに行って、六時間かけて能力の構造を分析して、自分の宇宙の中で再現したの」


 彼女は言った。


「私が一番得意なのは計算と分析よ。特に自分の宇宙の中ではね。六時間で十分だった」


 宇安はしばらく考えた。


 真剣に、しばらく考えた。


「やってくれ」


 ナナの尻尾の揺れが速くなった。


 彼女は歩み寄り、指先を伸ばして、宇安の佩剣の柄にそっと触れた。


 淡い光が指先から剣身に流れ込んだ。音はない。震動もない。内側から何かが呼び覚まされる、静かな感覚だけがあった。


 佩剣が宇安の腰を離れ、ゆっくりと浮き上がった。


 剣身がわずかに震えた。長い眠りから覚めたばかりの者が、伸びをするように。


「――戦の辛さで言うならば」


 声が聞こえた。


 大きくはない。穏やかで、わずかに掠れている。長い間黙っていた者の声だった。


「お前たちの中に、俺に並ぶ者はいない」


 巨剣と長槍が同時に唸った。


「大きく出たな」


 巨剣が言った。


「お前は何者だ」


「聞かせてもらおう」


 長槍が言った。


「なぜそう言える」


「俺は宇安と共に、二度、宇宙を跨いで戦った」


 佩剣は言った。口調は変わらない。急がず、焦らず。


「最後の一度は、すでに滅んだ宇宙の中で。十三時間、絶え間なく戦い続けた。相手は、感染された管理人だった」


 一拍。


「俺たちは、あいつを殺した」


 巨剣が沈黙した。


 長槍も沈黙した。


 彼らは伝説の武器だ。それぞれの世界で多くのものを見てきた。だがそれは、すべて一つの宇宙の中の出来事だった。ナナの管理する宇宙では、主人たちは生涯その宇宙の内側で暮らしている。宇宙の外に出たことはない。


 宇宙を跨いだ戦い。感染された管理人との死闘。


 その「経歴」には、確かに及ばなかった。


 佩剣が向きを変えた。工匠の槌の方を向いている。


「武器を鍛えた工匠は」


 佩剣は言った。


「歴史に名を残すことはない。だが、数多の武器の伝説を、確かに支えてきた」


 一拍。


「最も辛いのは、お前だと思う」


 巨剣がかすかに唸った。何か言いかけて、やめた。長槍も黙っている。不服がないわけではない。ただ、戦の功績で上を行かれた以上、今ここで口を開く気にはなれない。そういう沈黙だった。


 工匠の槌は一瞬固まった。紋様の光がちらちらと揺れた。


「……そこまで辛くもないんだが」


 少し照れたような声だった。


 法杖の星がぱっと明るくなった。


「私も工匠さんが一番大変だと思う!」


 彼女は言った。そしてすぐに佩剣の方にくるりと向き直った。


「ねえねえ、あなた名前は? 宇安が付けてくれたの?」


 「誰が一番辛いか」の話題はもう完全にどこかへ行っていた。面白いものが現れたら、そっちに飛びつく。そういう性格らしい。


 宇安は首を振った。佩剣を見ている。


 佩剣は空中でわずかに揺れた。


「宇安の剣」


 それは言った。


「そう呼んでくれれば、それでいい」


 ナナが傍らで笑った。宇安を向いた。


「武器の性格って、本当に主人に似るのね」


 彼女は言った。尻尾が揺れている。


「和事屋が一振り」


 ため息をつくふりをして、首を振った。


「もうちょっと期待してたのに。あなたの『宇安の剣』が皆と一戦交えるところ」


 宇安は彼女を一瞥した。


「あんた、事が足りないのか」


 ナナの耳が動いた。口角が上がっている。


 何も言わず、尻尾だけが悠然と揺れていた。

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