第十一章 宇宙に祝福された者
訓練場はナナが思っていたよりずっと広かった。
幾つかの区画に分かれていて、それぞれで騎士たちが訓練をしている。金属のぶつかる音、号令の声が入り混じっている。騒がしいが、煩わしくはない。
フィナが入口脇の柵に飛び乗り、四本の足で立って中を見た。
「上達してる」
彼女は言った。
「前に来た時は、第三陣形の連携にまだ穴があった」
「来たことがあるのか」
宇安は言った。
「たまにね」
フィナは言った。
「私の宇宙の出来事は、一応見ておくの」
宇安を一瞥した。
「あなたが育てた人たちだもの。様子くらい見るでしょう」
宇安は何も言わず、訓練場の中央に目を向けた。若い騎士たちが二人一組で打ち合っている。
「師匠が言ってた、手首は安定させろ、足は軽くしろ、お前らじゃ猫一匹にも勝てないぞ」
一人の若い騎士が仲間を指導していた。
ナナの耳がぴんと立った。フィナを横目で見る。
「猫一匹にも勝てない。聞き覚えのある台詞ね」
「宇安が教えたのよ」
フィナは当然のように言った。
「猫に勝てないのが最低基準。私が入門のベンチマーク」
「あんたに勝てるのが入門なのか」
宇安は言った。
「そう」
フィナは迷いなく言った。
「私の物理能力は極めて低いから、入門基準も低いの」
◆
あの若い騎士が振り返った。
視線が宇安とぶつかった。
手にしていた訓練用の剣が、からんと地面に落ちた。
他の者が一人、また一人と動きを止め、訓練場の音がゆっくりと消えていった。全員が入口の方を見ている。
「し、師匠……?」
宇安は軽く頷いた。
「瑞恩、教官になったのか」
訓練場が一瞬で騒がしくなった。騎士たちが一斉に駆け寄ってくる。
「師匠、生きてたんですか――」
「俺たちはてっきり――」
フィナは柵の傍らに立ち、その群れが宇安に押し寄せるのを眺めていた。尻尾がゆっくりと揺れている。
ナナが隣に歩み寄り、低い声で言った。
「あの様子だと、ずっと残ってほしいと思ってるわね」
「ええ」
フィナは言った。
「でも、彼は残らない」
「なぜ分かるの」
「勘」
フィナは言った。
「百年以上一緒にいれば、言わなくても分かることがあるの」
瑞恩が宇安の前に立った。右の拳を左胸に当て、礼をした。声がわずかに震えている。
「騎士団第三軍団教官、瑞恩。参上いたしました」
宇安は手を挙げて礼を返した。
「いい。俺はもう騎士王じゃない」
「師匠、管理人さまが国王に、あなたは相討ちで……」
瑞恩は一拍置いた。
「碑も立てました。記念館も……」
「駄猫がやったことだ」
宇安は言った。口角がわずかに動いた。
「あいつはそういうやつだ。お前たちも知ってるだろう」
何人かの騎士が思わず笑い、すぐに顔を引き締めた。
フィナが柵の傍らでかすかな音を立てた。咳なのか笑いなのか分からない。
「あなたが彼らに私の性格を教えてたなんて、知らなかったわ」
彼女は言った。
「感心するわね」
「皆知ってる」
宇安は振り向かずに言った。
「俺が言ったんじゃない。事実だ」
フィナの尻尾が一振りした。
瑞恩が姿勢を正した。
「師匠の定めた訓練計画を、ずっと続けてきました。たとえ師匠がもう……と思っていても、これを途絶えさせたくなかったんです」
宇安は訓練場を一周見渡した。
「上達してる」
彼は言った。
「見せてくれ。全員で来い。ウォーミングアップだ」
瑞恩が一瞬固まった。
「師匠……二十人いますが」
宇安は彼を一瞥した。
「二十人で俺に勝てるなら、とっくに戦場に連れて行ってる」
訓練場が二秒間静まった。それから誰かが笑い出し、何人かが手首を回し始めた。
ナナはフィナの隣に立ち、宇安を見た。
「あの人、私が買った部屋着のままよ」
「それでも、あの二十人に勝ち目はないわ」
フィナは言った。
「これは彼なりの手加減。本身の剣すら持っていない」
宇安が訓練場の中央に歩いていった。架から訓練用の剣を一本取り、手の中で軽く弾ませた。
「始め」
二十人が同時に動いた。
宇安は剣を抜かなかった。鞘で受け、鞘で捌く。
「遅い」
彼は言った。声は穏やかだ。
「瑞恩、左の守りに隙がある」
言い終わる前に瑞恩の左に回り込み、鞘が肋の下を軽く突いた。瑞恩が何歩も後退した。
騎士たちが陣形を組み替えた。五人一組、四方向から同時に仕掛ける。宇安はそのすべてを知っているかのように、攻撃が届く寸前の一瞬で、もうそこにいなかった。
フィナは柵の傍らに腰を下ろし、四つの足を揃え、静かに見ていた。
「第三陣形の穴、まだ残ってる」
低い声で言った。
「宇安も気づいてるわ。左に一歩踏んだのを見て」
ナナがその方向を追うと、宇安はすでに第三陣形の弱点に回り込んでいた。二人の騎士が反応する前に、もう鞘が触れていた。
「彼の戦い方、よく知ってるのね」
ナナは言った。
「百年以上見てたから」
フィナは言った。
「知らない方がおかしいでしょう」
五分もかからなかった。二十人全員が急所を突かれるか武器を落とされ、宇安は息一つ乱れていない。
「師匠、やっぱり強すぎます……」
瑞恩が地面に座って息を切らしながら笑った。
宇安は訓練用の剣を架に戻した。
「上達してる。だが連携がまだ足りない。俺が本身の剣を使っていたら、二十回死んでいる」
「第三陣形」
フィナが口を開いた。声は大きくないが、訓練場は静まり返っていたので全員に届いた。
「帰って練習しなさい。次に見に来るから」
騎士たちがフィナを見た。瑞恩が礼をした。
「はい」
「師匠」
瑞恩が何か思い出したように言った。
「記念碑をご覧になりますか? 本部の裏にあります」
宇安は少し沈黙した。それから頷いた。
◆
記念碑は新しかった。
花崗岩。刻まれているのは宇安の姿――軽鎧、長剣、遠くを見つめる眼差し。
宇安はその前に立ち、静かに見ていた。
フィナが傍らの石に飛び乗り、顔を上げて石の宇安を見た。
「なかなかの出来でしょう。表情はあなた本人より、よほど騎士王らしいわ」
「俺本人はどんな顔だ」
宇安は言った。
「だるそうな顔」
フィナは言った。
「今のあなたを彫ったら、ソファに寄りかかって目を閉じてる姿になるわね」
「それも一つの形だ」
ナナは言った。碑文を見上げている。
「碑文には相討ちって書いてある。でも、あなたはここに立ってる」
「駄猫がやったことだ」
宇安は言った。
「ん」
フィナは石から降り、碑の傍らに立った。
「あの時こう思ったの。もし彼が本当に死んでいたら、この碑はこのまま残す。もし死んでいなかったら、この碑は笑い話になる。どちらでも構わない」
ナナは彼女を見た。
「ずいぶん冷静ね」
「冷静じゃないわ」
フィナは言った。
「彼はこの宇宙に祝福された者だから。たとえこの宇宙を離れても、あの繋がりが途切れていないことは感じ取れたの。どこにいるかは分からなかったけど」
彼女は一拍置いた。
「だから碑は、外の人たちのために立てたもの。私は知っていた。彼が死んでいないことを」
宇安は碑を見た。
「いい出来だ」
彼は言った。
「あの職人に礼は言ったか」
「言ったわ」
フィナは言った。
「謝礼も上乗せした」
「ならいい」
◆
瑞恩が駆けてきた。
「師匠、国王がお帰りを聞いて、お目にかかりたいと」
宇安は頷いた。
「案内してくれ」
フィナが石から降りた。
「私は広場で日向ぼっこしてるわ。宮殿はつまらないもの」
伸びを一つ。
「終わったら迎えに来て」
「分かった」
宇安は言った。
フィナが広場の方へ歩き始めた。数歩進んで、振り返らずに言った。
「宇安」
「ん」
「ちゃんと定期的に帰ってきなさいよ」
フィナは言った。あのいつもの気だるい語尾のまま。
「いつも私から探しに行くのは、面倒なんだから」
彼女は歩いていった。尻尾が揺れて、人混みに溶けていった。
ナナはその場に立ったまま、耳がわずかに動いた。
何も言わなかった。
◆
宮殿はナナが思っていたより質素だった。
国王は中年の男で、宇安を見る目にははっきりとした敬意がある。席から立ち上がって歩み寄ってきた。
「信じられない……」
宇安が礼をした。
「陛下」
国王が彼の腕を支えた。
「それには及ばない」
ナナを見た。
「こちらは?」
「ナナ」
宇安は言った。
「友人だ」
国王が頷いた。
「ようこそ」
その後の会話で、国王はあの戦いのことを幾つか尋ねた。宇安の答えは短く、率直だった。ナナは傍らに立ち、国王が何度か宇安に残留を匂わせていることに気づいた。だが宇安はその度に自然に話題を逸らした。断りもせず、受けもせず、ただ話を別の場所へ持っていった。
「……どのような選択をされても、永誓星は永遠にあなたの故郷です」
国王は最後にそう言った。
宮殿を出た時には、もう夕暮れだった。
広場の端でフィナを見つけた。階段に丸まって、顔を夕陽の方に向け、目は半分閉じている。尻尾が階段の上でゆっくりと揺れていた。
「日向ぼっこはどうだった」
宇安は言った。
「まあまあね」
フィナは目を開けずに言った。
「終わった?」
「終わった」
「ん」
フィナが立ち上がり、伸びをした。
「先にクロウの様子を見に行きましょう。その後のことは、それから」
二人と一匹の猫が歩き出した。フィナが先を行き、尻尾が悠然と揺れている。
夕陽が彼女の白い毛を、淡い金色に染めていた。




