金によって支配された奴隷
世の中、金。
金さえあればなんでもできる。
金があれば物が買える。
金があれば権力が買える。
金があれば人も買える。
金があればなんでもできる。
今日まではそう思っていた。
金があっても死を避けることはできない。
たとえ、シェルターを作っても助かることはできない。
まあ、宇宙に逃げることができれば今日中に死ぬことはないだろうが、今からその準備をしても間に合うわけがない。間に合って、逃げれたとしても帰る場所がなくなる。ただ宇宙をさまようことになるだけだ。
今日死ぬか後で苦しんで死ぬかの違いだ。
金があっても死から逃げられない。
金は今、無価値なものになろうとしている。
そんな、無価値なもののために私はいったいどれだけの犠牲を払ったのだろうか。
私の名前は大江戸 治朗。すでに学生時代のことなど覚えていない年齢になってしまった。私は産まれた当時から裕福で金に困ったことはない。成長して大学を卒業すると私はすぐに父親の会社の重役についた。父親の死後、私は会社の社長となった。私は社長職という縦書きを使い、気に入らないやつのクビをはねていった。汚職もいっぱいしたが、すべての罪を部下にきせ、私は何事もなかったかのように過ごしていた。私はやりたいことをやりたいようにやった。それだけで金も入ってきた。その金で高級なものを沢山買い。そこらへんのちっぽけな子会社も買収したり、金で女を買い、毎晩遊んだりした。私は無敵だった。なぜなら金があったから。ある日、私は昔クビにした部下から殺されそうになったが金で雇ったボディガードで私は守られた。その部下が警察にいろんな事実を話されるのを防ぐため、警察に賄賂を送った。金さえあれば警察も自分のものにできるのだ。そうして、私は金を使って自分自身のまわりのすべてを支配した。
しかし、今日、私は人類が滅亡することを知った。全人類に余命宣告が言い渡された。私は足から崩れ落ちた。頭は真っ白となり、震えだした。私は金があったから今まで恐怖を感じたことがなかった。しかし、金ではどうしようもできないことが起ころうとしていた。そんな前代未聞な出来事に対し、私は恐怖を覚えた。今日、金は無価値なものになった。
私は金で買った女を全員逃がした。私の中の人間としての優しさだったのだろうか、死ぬ前ぐらい自由にさせてやろうという思いが働いた。
そして、私は家の中にある札束や宝石、貴金属をすべて1箇所に集めた。
一つの部屋がそれらで埋まるほどの量だった。
私はそれらにガソリンをかけた。そして、火をつけて燃やした。
火は一瞬で燃え広がった。私は家の壁に火が燃え移る前に家を出て、燃えてゆく家を見つめた。
私が長年貯めてきたものが全て燃えゆく瞬間を私はずっと眺めた。
火は私の家のすべてを燃やした。
その火はとてもきれいだった。
私は金ですべてを支配していた。
でも実際は私は金に支配されていたのだ。
金でなんでも買えた。でも、私は孤独だった。
燃えてゆく私の家を一緒に見てくれるものはいない。
私が金のために犠牲にしたのは繋がり、絆。そういうものだと思う。
私は金のために目には見えぬものを失った。
金でなんでも買える。それは嘘だ。
金では目に見えないものは買えない。
そんな当たり前なことを死ぬ前に気づく私は金によって支配された奴隷だったのだ。
18時過ぎ、燃えゆく我が家を見ながら、江戸川 治朗は最期のときを迎えたのだった。




