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第四話   妖人・羽根倉翔太

一気に投稿したものでは最後。

書きためたものは全て放出したので今後は一週間に一話更新できるかくらいのペースになると思います。

「おいおい……第三校舎を壊しちゃってるよ」


 滑空しながら後ろを確認した翔太が目にしたのは、崩落する観客席。戦闘不能になった生徒もいるのにと思い下方を確認すれば教師が避難させていた。一度に大人数を運べる奇跡を使えるあたり、流石に模擬訓練を担当する教師というところだろう。

 風紀委員が風紀を乱す――いやこれは風紀じゃないのか? などと考えていても油断などしていない。そもそもあの水姫があんな攻撃で自滅などするはずがないのだ。

 事実今なお放たれ続けるレーザーが、彼女の健在を証明している。

 フィールドにはまた雨が降り始めていた。水姫が攻撃を放ったと同時また振らせ始めたのだろう。

 その雨が軌道を変える。打ち付ける飛沫の勢いも増しながら、宙の猛禽へと。


「――っ」


 舌打ち一つ置き去りに急降下。しかし雨の弾丸も曲線を描いて追随する。

 広いとは言っても屋内。地面など一瞬で辿り着く。

 だが猛禽はまだ堕ちる。雨も後に続く。

 激突する、と思った時体を急反転、脚で地面に一度着陸――同時、地面を蹴って一気に天井まで急上昇。そのあまりに見事な急反転・急上昇に雨の弾丸は追い縋ることが出来ない。

 次々と床を穿つ雨の音。その威力はただの雨と侮るなかれ、もうもうと土埃すら漂わせる威力だった。


「……こ、殺す気か……」

(……良くも悪くも真面目なのは、いつだってジブリンの相棒の特徴だよ)


 きらっと光が瞬く。

 何事かと思えば、いつの間にか水の道が宙にある翔太を取り囲んでいた。

 背筋に走った悪寒に逆らわずに後方宙返り。

 下を向くことになった視界に透明な鎖が五本奔る。


「殺す気とはひどいな。ちゃんと人の実力は見極めて攻撃してるよ。キミならこれくらい躱すだろうと、初撃を躱されたときに確信したわ」


 右手には水で形作られたレーザー砲台たる山茶花。左手からは水で形作られた鎖。足元には水の道。傷ひとつなく水姫が翔太の前に躍り出る。

 広範囲を光に及ぶのではと思う速さで駆け抜けるレーザーを紙一重で躱し、鎖は腕に巻きつかないように慎重に鉤爪で打ち払う。

 対する水姫はただ歩むだけ。速さは、ベクトルは足元の水が生む流れを以て自由自在に移動する。決して逃がさぬというように。鎖は指の微細な動きで複雑に蠢き猛禽を捕えるために宙を奔る。レーザーは狙いを定める必要すらない。ただ放つ、それだけで空翔る相手を追いつめてゆく。


「手数が、多すぎるっ!」

「そういう君は、素早いねっ!」


 翔太が右腕の浮力をわざと消す。

 片側だけバランスを失ったその体躯は右方向に錐揉み回転して宙を滑った。

 その一瞬後を雨の弾丸が追ってゆく。

 水と猛禽の舞踏。

 いつまでも続きそうにも思える優雅で荒々しいその舞はしかし、翔太にとって不利極まりない。


(限定された空間で、闘うことがおかしいだろう!)


 翔太の妖人としての能力は当然飛行能力が強みになる。三次元に高速、自由に翔るその能力は戦闘においても非常に心強い。だが空間が限定されてしまえばその速度は仇となる。今のようなドームでは。

 一方水姫が天人として行使する奇跡は空間浸透・掌握に強みを持つ。「水」という流動体を完全に食い止めることは凍らせでもしない限り不可能だ。しかし契約者が強力すぎるので凍らせられる実力者も少ないだろう。実際翔太はそんなことが出来る存在は聞いたことが無い。

 また広さについても左右されない。狭ければより速く。広ければ水量を増して圧倒的に。相手が己に抗せる空間を蹂躙してゆく。局地的に、または広範囲に降らす雨を操って、張り巡らした潮の流れに乗って迫りくる様は水の申し子。


(〝神の力〟とはよく言ったもんだ……強力すぎる……!)

(……キミが私の力を使わないのであれば交渉すべきだな、翔太。あれは歴代で見てもかなりの使い手だ)


 ラビエルが感心して水姫の実力の程を伝える。それは毒づきたくなる情報だったが実際かなりの実力者であることには変わらないと思い直し、助言だけを受け入れる。


「一つ、質問良いっスか!?」

「うん? 何かな?」

「どうして、俺をそのまま放っておいてくれなかったんです!?」


 翔太は高等部に入った時から水姫を知っていた。彼女はその実力、容姿、性格などから非常によく知られた存在なのだ。当然多くの者に慕われている。

翔太は注意され窘められることは予想したが、ただサボっていたという理由だけで無理矢理戦闘に持ち込まれるなどとは思いもしなかった。その身勝手さは話に聞いていた水姫の人柄と食い違う。


「そうね……強いて言えば知りたいことがあったの。キミ、何か隠しているね(・・・・・・・・)?」


 その言葉には翔太だけではなく、飛び回る彼に振り回されていたラビエルですら、慄然とした。


(……ラビエルに気づいてるのか!?)

(いや、契約者とまではわかっていないだろうが……心底驚いた。まさかあれほどの実力に加えてこの観察眼。歴代でも有数どころではない……恐らくだが)


 翔太の前方から水の弾幕が打ち寄せる。

 翔太はその身をバレルロールさせながら弾幕に突っ込んでいった。羽根先を、嘴を、耳の先をコンクリートすら軽く穿つ水弾が掠めてゆく。


(いずれ歴代最高の、〝神の力〟の契約者になるだろう)


「よく、躱すね……一年生でこれほどできる子がいたなんて。名前を聞いてもいい?」


 限られた空間を、壁に、天井にぶつからぬよう小刻みに反転、急上昇する翔太に変わらず届く声には感心と――未だ大きな余裕が滲んでいる。

 繰り出す攻撃を無傷で避け続けられながらも保たれる余裕は、翔太も一応持っていたらしい男としてのプライドを刺激した。


「そりゃ、勝ってから聞きやがれ! 勝ったほうが相手に言うことをきかせるんだろ!?」


 反転した視界に、水の上に佇む水姫が映った。

 その口元が、ゆるく弧を描く。

 とても可憐で目を引き付ける――どこか挑戦的で僅かな〝本気〟を感じさせる笑顔。

 微笑を向けられた翔太は迷わず全速で距離を取る。


(――翔太!? 天井にぶつかるぞ!)


 一直線、ぶつかって自滅すると思わせる飛行。勿論そんなつもりはない。いまはただ、逃げている。翔太の本能が告げるのだ。

 今から放たれる攻撃で第三校舎は跡形もなくなるだろう、と――


「そうだったわね。じゃあ少し真面目に聞き出そうかな……ジブリール?」

「イエス。いつでもどうぞ」


 その時、眼下で模擬訓練の担当教師が身振り手振りに怒号も交えてやめろと伝えてきたが、水姫は相手にしなかった。それを見て教師も避難する。

 蒼が眼だけではなく、髪にまで及んだ。その輝きはドーム内部を照らす。


「どうかな? これも避けられると思うと……わくわくする」


 右腕を頭上に掲げた。指二本だけを突き立てた、その先端に渦巻いて水が集っていく。


「キミは、私を本気にさせてくれる?」


 ピッと、水が跳ねる音がして水姫の指先から水が「消えた」。


「――斬雨(きりさめ)


 放った技の余韻か。

 水姫が瞼を閉じた。

 間を置かず。

 第三校舎が、斬り崩された。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 その時、岩園学園の各所でその轟音が轟いた。

 誰もが何事かと訝しんで、原因を知って愕然とする。

 近くにいた者は慌ててその場から離れ、遠くのものはただ茫然と見やるのみ。大勢の目前で岩園学園が技術の粋を集め天人の奇跡、妖人の異能にも耐えうる設計を施した第三校舎が呆気なく細切れにされていたのだ。

 校庭で熊ヶ谷にしごかれていた悟と美樹もそれを見ていた。


「な、なんだぁ?」

「……第三校舎が、斬られた?」


 周りの生徒たちもざわついている。普通このような混乱が起きた場合落ち着かせるのが普通の教師だろうが熊ヶ谷は違った。


「ほう、あれは穂澄の〝斬雨〟だな。あいつは確かにこの時間第三校舎で模擬訓練だった筈だが、あれほどの技を使わざるを得んほどに苦戦でもしたのか?」


 美樹はそれを聞いて思考を再回転させる。思考が猛烈に頭の中を駆け巡る。


(いや、それはない筈……水姫と同等の実力者なんて数えるほどしかいない。しかも全員が委員長などの役職者。

役職者は戦闘訓練では極力同じカリキュラムにならないように調整されているし、もしそうじゃなくなったら学園側から知らされてそのハイレベルな戦闘を参考にするために観戦の名目で特別授業が組まれる決まりだもの……)


 その時崩れていく建物から粉塵を引き連れて何かが飛び出した。それは美樹が昔からよく見慣れた姿の――


「おっ、翔太じゃん?」


 悟が普段通りの口調で呟く通り、悟と同じく一つ年下の幼馴染だ。


「……翔太さんがあのジブリールの契約者の相手でしょうか?」

「アムルタート、あなたなら水姫を止められる?」

「それは私の契約者であるあなた次第。私はあくまで力を貸すだけです、美樹。あなたが翔太さんのためにお姉さんぶって守るというのなら、応えますよ?」

「……一言余計なのよ。お姉さん気取りじゃなくて私はお姉さんなの! ほら行くよ、悟!」

「え? 俺も? 別に大丈夫じゃねぇの? 翔太だって中々やるぜ? 勝てるかどうかはわかんねぇけど。あ、もしかして穂澄先輩が力加減を誤ることを心配してんのか? それこそ大丈夫だろ。あの風紀委員長だぜ」


 どこまでも呑気なバカな方の「弟」の頭を引っぱたく美樹。


「痛ってぇ!?」

「あんたは黙って言うこと聞きなさいよ! それにあんたはわかってない! 水姫はああ見えて〝がっつく〟性格なんだから!」


 言い捨てて崩れた第三校舎の方へと走っていく美樹の後ろをよくわからないとさする頭を捻りながら悟も追う。

 走り去る二人を見て他の生徒も次々と走っていく。最早授業は出来ないだろう。その様子を見て熊ヶ谷は、


「やれやれ……どこまでもガキはガキか」


 肩を竦めて歩き出す。その言葉は足の向く先に第三校舎がある、己の童心に向けての呟きだったのかもしれない。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 翔太は体の至る所に小さな破片がぶつかる中、もとは第三校舎のあった場所の上空を旋回していた。眼下は立ち込める粉塵のおかげで何も確認することが出来ない。


「……なんつー技を、たかが模擬訓練で使うんだあの女。ホントに風紀委員長かよ……」


 冷や汗どころではなく本気で死を覚悟した翔太である。これくらいの毒を吐くくらいは許してほしいというのが正直な心境だ。


「まぁ私がいる限り死なせはしないよ。〝神の薬〟の契約者なんだぞ、キミは」


 契約した一週間前から意志疎通するための憑代が欲しいと催促され、先日とある手段で入手してきた主に綿製の真新しい体を既に黒く煤けさせながらラビエル。


「そうは言うがラビエル。俺は短期間に何度も重体になりたくはない」

「そういうモノか? 寧ろそこは大天使たる私に癒されることを喜びたまえ」

「行為自体は嬉しいがそれを受ける前提条件が嫌だって言ってるんだ」


 あれほどの技を無事やり過ごしたということに安堵していたのだろう。だからラビエルと心の均衡を保つために軽口に応じたことも頷ける。しかし、それはやはり油断だった。

 少なくとも、穂澄水姫という指折りの天人に晒すべきのものではなかった。

 ゴッ、という破裂音とともに眼下の粉塵を渦が吹き飛ばした。


「――っ!」


 渦を形成するのは、やはり水。

 竜巻のように地上に現れた渦潮を身に纏うのは誰あろう〝神の力〟の天人。


「――渦姿王(うずしお)


 華奢にも見えるその体躯に収束していく渦は正に羽衣。蒼き水を従えて、強大な天女がいまだ冷めやらぬ戦闘意欲を剥き出しにしていた。


「是非キミの名前を知りたくなったわ。〝斬雨〟すら大きな負傷もなく躱されるなんて……心躍る展開ね」

「それは良かった。俺としてはもう放っておいてほしいんですけどね。もうあまりサボらないんでやめません? この通り反省してます」


 第三校舎を斬り刻んだ攻撃を躱しきれたのも偶然によるところが大きい。いくらなんでもこのまま戦闘を続行しようとは思わせないほどに翔太の肝を冷やした攻撃だったのだ。

 なので翔太としては切実に戦闘中断を訴えたのだ。頭を下げて反省もしていると伝えた。まぁ今後もサボるだろうが今日に限っては本当に反省したのでもう勘弁してほしい――ただそれが儚い希望だということも理解していたが。


「釣れないことを言わないで。躱してばかりでキミからの攻撃がない。一年生にキミほど有望な子がいるとは想像もしていなかったの。だから半ば諦めていたんだけど、キミならあるいは……」


 水姫がぐっと身をたわめた。


「だからもっと見極めさせて」


 上空の翔太にまで聞こえる渦を巻く音。周りの空気を巻き込み、砕き、削っていく流動体の暴力を纏い、蒼の天女が跳ねる。

 ただ、その速度が尋常ではなかった。

 先ほど屋内で見せていた翔太に匹敵する速度。しかも纏った渦が半端な回避では逃してくれない広範囲を巻き込む。

 ゾリッという音は耳元で聞こえたのかと思うほど大きかった。掠っただけだ。眼前に紅い花火が噴いたと思えば、既に胸が紅く染まっていた。


「が……っ」

(翔太!)


 堕ちることはなかった。一瞬崩れたバランスに逆らわず己を地面に引き込む重力を用いて速度を得て、降下するままに距離を取る。


「くそ……どうすればこの状況が終わってくれる!?」


 わざと負ければいいのか? しかしあそこまで力を解放した水姫の攻撃に無防備の体で己を差し出す勇気はさすがに持ちえない。


(翔太……勝ち目がないと逃げ続けたのがダメだったんじゃないのか?)

(……俺も今更ながらそう思う。逃げるなら気づかれた瞬間にその場を後にするべきだった。その後もさっさと外に出てしまえば良かったのに中途半端に攻撃だけを避け続けてしまった俺が間違いだった)


 二人にだけ聞こえる会話でついに傷を負った猛禽と未だ相棒としか会話したことの無い大天使は意見を交わす。


(こちらも打って出るべきだ。なにより契約者が一方的に攻撃されるのは相棒として見ていて気持ちのいいものではないからな)


 ふん、と語気荒くラビエル。


(……そうだな。勝てるかどうかはともかく、ここまで追い詰められると勝つ以外に穏便に済まないだろうな。ただのサボりに対する折檻とお前の存在に感づかれただけが理由だったのに、目的がすり替わってしまってるようだしな)


 サボったことに対するお仕置きついでに、翔太に感じた違和感を確認しようというのが本来、水姫が抱いた目的だったのだろう。だが翔太が水姫の攻撃を躱し続けていたことが裏目に出た。

 以前より抱いていた問題の解決手段を翔太に見出したらしいことが先ほどの言動から推測出来る。彼女に目を付けられてしまったのだ。

 ジリ貧のままで結果、負けるにしても相手の本気度から鑑みるに悲惨になるだろうことが容易に想像できる。だったら最初の条件を利用して――勝った方の言うことを聞くという条件を生かして勝って放ってもらう。これがベスト。こんな有名人、強力すぎる実力者に気に入られなどしたら面倒なことが降りかかるだろうし、身が持たない。

 触らぬ神に祟りなしをモットーの一つとしている翔太はそこまでを考え、後ろ向きなやる気を出して攻撃へと打って出る。

 斜めに傾いだ第三校舎の壁面だったであろう場所に着陸する。


「……一撃で、決める!」

「へぇ、私をたった一回の攻撃で仕留められるほどの自信があるのね?」


 翔太の中々悲壮な覚悟とは違い、期待に満ちた声音で身構える水姫。

 彼らは気付かないが、少し離れた場所から生徒や教師が取り囲んでその戦闘を見守っている。彼らの中から「水姫先輩だ」「風紀委員長が本気?」「相手は……一人!?」などという声も漏れている。

 地に降り立つ猛禽が限界まで身を捻る。視線は上空の水姫からブレない。


「――羽根倉流空戦技・五番」


 フッと鋭い嘴から呼気が漏れ、


「――螺閃爪(らせんそう)!!」


 両腕を突き出した体勢で回転しながら一気に飛び立った。


「っ!」


 今までで一番の速度で迫る翔太に、さしもの水姫も顔を引き締めた。纏う水の羽衣が大きく渦を巻いて受け止める。


「うおらあぁぁぁぁ!」

「んっぅぅぅぅぅぅ!」


 螺旋と渦。互いに回転することで威力を高めた技が激突した。水と空気が掘削される音が鳴る。宙に在った水姫の姿は地上より急上昇した翔太の勢いの押されてますます高度を増していく。

 やがて、


「……冗談だろ?」

「……ふふっ。合格だ」


 黄金の瞳を呆然と見開いた翔太と無傷の水姫が向かい合っていた。


「ちょ……先輩、ホントにシャレになってない!」


 翔太が慌てているのは攻撃のため突き出した両の鉤爪が水に取り込まれビクともしなかったからだ。


「はぁ、勝った方の言うことを聞くんだよね?」


 出た溜息は熱く、ぺろりと舌で湿らせた唇は艶めかしく。


「じゃあ、言うことを聞いてもらおう。私の勝ちでね。これはここまで私を本気にして、期待に沿ってくれたキミへのご褒美」


 彼女の遥か頭上、天空の彼方でここからでも視認できるほどに蠢く水をどう捉えればご褒美と言えるのか翔太は本気でわからない。


「死ぬ! あれは死ぬ!」


 ここまで来ると流石にジブリールも止めに入った。


「……水姫? それはいくらなんでも……」

「ヤダ。私はこの子が欲しい。全力で欲しい」


 遥か遠くの会話でも、明瞭に聞くだけの技量があり水姫の〝がっつく〟性格を把握している者は例外なく呟いた。


『出た……駄々っ子水姫……』


 彼女は良くも悪くも真面目である。そして努力家でもある。いや努力家というか求むもののためには全力を惜しまないし、必ず手にするまで諦めない。大変わがままに駄々をこねるのだ。とにかく一度欲しいと思えば駄々をこねてでも諦めることはできない。

 この場合は、羽根倉翔太という少年を何かしらの理由で欲することになりそのために全力を尽くすことに疑問を感じなくなっていたのだ。

 つまり、翔太を思うようにする「勝利」という条件を掴むために、「全力」を惜しまない――この場合は彼女の最強手で勝利を得るという形で駄々がこねられた。


「――天垂水槍(あめのたれみずのやり)


 超極太の水の柱、その太さは大の大人が十人手を繋いで覆っても覆いきれぬだろう。その巨大な水の槍が七本、全て身動きできない翔太へと降り注ぐ。


(……南無)

「ラ、ラビエルー!?」


 何か不吉なことを呟いた相棒の名前を叫びながら翔太はあまりの迫力に目を閉じた。


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