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第一章6 「こっちのセリフたい!ぼてくりまわしちゃるわ!」

 紅(あか)い女だった。


 まず髪の毛が紅い。

 腰まで伸ばした髪の毛は鮮やかな紅であった。


 そして鎧が紅い。

 赤を基調とした特注であろう革鎧は、九州男達を見ていた女冒険者たちの中でもひときわ目立っていた。


 何より、その瞳が紅かった。

 燃えるような真紅の瞳は、まるでその女の苛烈さを表しているようだった。


「あ? 今なんち言うたとや?」


 即座に九州男が戦闘モードに入る。


「男に冒険者が務まると思っているのかと、そう言ったんだ」


 ぶちっ


 早くも九州男が切れる音がした。


「きさん……喧嘩売りよるんか」


※きさん……貴様 の意


 腹の底から響くようなドスの効いた恫喝。

 背後に控えるクルクルは、それだけでヒッと首をすくめて身を縮こまらせた。

 しかし、紅い女は眉一つ動かさず、冷ややかな視線を向け返してくる。


「喧嘩など売っていない。むしろ、貴様のことを心配して言っている」


「なんばこきようとや? 女にできて男にできんわけはなかろうもん!」


※なんばこきようとや……何を言っているんですか?の意


「貴様……もしや異世界人か? さもなければ相当の田舎者だな。この世界の常識を知らないと見える」


「異世界人やったらなんね! 文句あるんかちゃ!」


 まさに一触触発という雰囲気である。

 オロオロしているクルクルを尻目に、二人は口論はヒートアップしていく。


「やはりか……ふん、これは文句ではなく警告だ。無知な男に私の言葉を理解するのは難しいかもしれんがな」


 ぶちぶちっ、青筋が九州男のこめかみに浮かび上がる。


「表出ろや。ぼてくりまわしちゃる」

 

「ク、クスオ様ダメです! こ、この方はAランクに分類される有名な冒険者で……っ!」


「関係なか」


 クルクルの制止で止まるような男ではない。

 九州男の目は完全に据わっている。

 

「ふむ。私のことを知っているのか。だったら、この無知な男に私のことと、ついでにこの世界のことを教えてやるといい」


「ク、クスオ様! お伝えできてませんでしたが、この世界では女性が冒険者をするのが普通なんです! 理由は、この世界では男性より女性のほうが力も魔力も強く、戦闘に向いているからです! そして、Aランクというのは、トップクラスの実力を持つ冒険者で――」


「知らんわ。Aランクかなんか知らんばってんが、男が売られた喧嘩を買わんわけにはいかんったい」


「やれやれ。喧嘩を売っているつもりはないのだが……」


 呆れた口調で言いながらも、女は今にも剣を抜かんばかりの様子である。


「あわわわわわ。どうしよう、どうしよう」


 クルクルがわたわたしていると、バタン!と扉が開く音がして、慌ただしく足音が近づいてくる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいー!!」


 ミルミルが叫びながらやってくる。


「ストップ! ストップー!!」


「む、君は……『金色の双刃(こんじきのそうじん)』ミルミルか」


「ミルミル、止めんでよかたい。俺はこのおうちゃきい女ばぼてくりまわして……ん?……金色の双刃(こんじきのそうじん)? なんねそのけったいな名前は」


※おうちゃきい……生意気な、調子に乗っている の意


「えっと、Bランク以上の冒険者には二つ名が付くことがありまして、私は下位ですがBランク冒険者でして……ってそんなことより! 大人しく待っててって言ったじゃないですか! なんでこんなトラブルになってるんですか!」


「お前の換金が遅いのが悪か。それに喧嘩売ってきたんはこの女たい」


「うー、もう! クスオ様のわからずや! レイラさんも、この人は異世界から転生してきたばかりなので、失礼なところがあったかもしれないけど、許してあげてください!」


 レイラと呼ばれた紅い女は、すこしばつが悪そうだ。


「ふん……別に喧嘩を売っているわけではないが……」


「は? いまさらなん言いようと?どう見ても喧嘩うりよったろうもん」


「ク、クスオ様!もういいでしょう! レイラさんは、『紅の戦乙女(くれないのいくさおとめ)』の二つ名を持つ凄腕のAランク冒険者なんですよ! クスオ様もお強かったですが、敵う相手じゃありません!」


 ミルミルの必死な説得は、しかし逆効果であった。


「く……くくく……」


「……?ク スオ様……?」


「くれないのぉ? いくさおとめぇ? なーんやそれ! ぷぷぷぷ! なーんつやつけとうとや! ださすぎて笑いが止まらんばい! あっはははは!」


※つやつけとう……かっこつけている の意


 ツボに入ったのか、派手に手を叩きながら大笑いする九州男。

 笑いすぎて目の端に涙まで浮かべている。

  

 ぶちっ


 今度は、レイラが切れる音がした。


「……貴様、私に喧嘩を売っているのか?」


「喧嘩なんか売りよらんばい。なんやっけ?あんたを心配して言いよるだけたい。大人の女がそんなだっさい名前で冒険者なんぞやってて恥ずかしくないとやー?って」


 ぶちぶちっ

 先ほどまでの余裕は完全に吹き飛び、顔を真っ赤に染めている。


「よしわかった! 喧嘩を買ってやる! 表に出ろ!」


「こっちのセリフたい! ぼてくりまわしちゃるわ!」


 売り言葉に買い言葉。

 もはやミルミルとクルクルには止められそうになかった。

 恐ろしい形相で冒険者ギルドを出ていく二人。


「あわわわわわ……っ!」

「あわわわわわ……っ!」


「あの~……冒険者登録は……?」


おろおろするばかりの二人と、困り顔の受付男子が残されていた。



  





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