第一章5 「受付男子ぃ!?普通受付っち言うたら美人な女っち相場が決まっとろうもん」
「ほぉー! ここが街ね! 思ったより大きかね~」
馬車が立派な石造りの門をくぐり、リオの街へと入っていく。
御者席で巧みに手綱を握るミルミルの横で、九州男は物珍しそうに街並みを見渡していた。
「この世界にも馬がおるったいね。俺が小倉競馬場で見たことある馬とは全然違うばってんが」
「そう……なんですか? 私にはよくわかりませんが……」
「やっぱ競馬場におるのはサラブレッドやけんかねぇ?」
九州男は一人で納得しているが、馬車の荷台ではクルクルが青い顔で横たわっていた。
「うぅ……何度乗っても慣れない……」
馬車酔いで元気がないようだ。
「男のくせになさけなかねぇ~」
ガタガタと酷い揺れだったにもかかわらず、道中ずっと爆睡していた九州男は元気いっぱいである。
((い、言えなかった……))
ミルミルとクルクルは青ざめた顔で視線を交わした。
馬車の中でこの世界と九州男と世界の違いを説明するつもりだったのに、九州男が爆睡していたせいで何一つ話せていないのだ。
「ん? クルクル、お前そんな怪しい格好してどうしたと?」
街についた途端、クルクルは目深にフードを被り、口元まで布で覆い隠していた。
「あ、あの……男性だと分かると街では色々と面倒なことになるので、いつもこうしてるんです。九州男さんも念のため顔を隠しますか……?」
「なんで俺がそげんコソコソした格好せないかんのや! 男らしく堂々としとけばよかたい!」
「ですよね……」
九州男の拒絶を予想していたのか、クルクルはそれ以上追求せず深く溜息をついた。
「では、私は素材の換金に行ってきますね。九州男さんも一緒に来ますか?」
「いんや、俺はよか。任せるばい」
「……分かりました。では、私が戻ってくるまでここで大人しく待っていてくださいね。換金が終わったら一緒に冒険者ギルドに行ってクスオ様の登録をしますから。絶対に勝手な行動はしないでくださいね?」
「わかっとるわかっとる! あんたも心配性やねぇ」
「……では、行ってきます。クルクル、クスオ様をお願いね」
何度も振り返りながら、ミルミルは人混みの中へ消えていった。
15分後
「ミルミルはまだね! もう待ちきれんばい!」
案の定、九州男は貧乏ゆすりをしながらイライラしていた。
九州男児は待つことが極端に苦手なのである。
「だ、だめですよクスオ様! 姉さんが帰ってくるまで待ってないと……」
「あとどれくらいかかるとや?」
「わかりませんが、一時間もすれば戻ってくると思いますので……」
「か~! 一時間も待ちきらんばい!」
※待ちきらんばい……待ちきれないよ の意
「冒険者ギルドとやらに行っとこうや! 登録するだけやろ?」
「そ、そうなんですが、冒険者ギルドは男性だけだと普通は行かない場所なんです! 男性の単独利用は絡まれる危険性も高くて……!」
「なんやそれ! 意味わからんやろ。さっさ行くばい!案内せろ!」
※案内せろ……案内しろ の意
「そ、そんなぁ~」
九州男の威圧感に押し切られ、泣く泣く案内させられるクルクル。
顔を隠したクルクルと、堂々と胸を張って歩く九州男。すれ違う女性たちが、珍しいものを見るようにヒソヒソ話をしているが、九州男は「この街はべっぴんが多いねぇ!」と呑気に鼻の下を伸ばしていた。
「こ、ここです……」
「ふぅん。ここが冒険者ギルドね! ようわからんばってんが、さっさと冒険者登録しようや!」
観念したクルクルを従え、九州男が豪快にギルドの扉を押し開ける。
ギルドの中は酒場も兼ねており、剣や杖を携えた冒険者たちでごった返していた。
そして――そこにいる冒険者のほぼ全員が、「女性」であった。
ざわっ……
九州男たちが入った瞬間、ざわめきが起こった。
「あん?なんか注目されとるごたるね」
※注目されとるごたる……注目されているようである の意
九州男が言う通り、ギルド内にたむろしている他の冒険者たちが九州男たちに注目しているようだ。
あからさまに値踏みするような目線を送ってくる者も少なくない。
「いらっしゃいませ……ご用件は?」
ギルドの奥に座っていた若い男が近付き、九州男に話しかけてきた。
どこか儚げな印象の、線の細い美形の男だ。
「あんたが店の人ね?」
「店……ではありませんが……はい、僕が受付男子です」
どこか気だるげに答える受付男子。
「受付男子ぃ!? 普通受付っち言うたら美人な女っち相場が決まっとろうもん」
「はは……すみません」
ざわざわっ
周囲の女冒険者たちのがさらにざわつく。
「男のくせに何だあの態度は」とあからさまなことを言う女もいた。
「まあよか、冒険者登録っちやつをしたいっちゃけど、手続きばしてくれんね!」
「冒険者登録……失礼ですが、あなたが……?」
「他に誰がおるんね! 俺に決まっとろうもん! できんとや!?」
「……いえ、そういうわけでは……では、登録のためにいくつか質問や測定がありますので……奥の部屋に移動しましょう……」
「なんね大げさやね。なるべくはよしてくれたらありがたいばい」
九州男が奥の部屋に向かおうとした時だった。
「ふん! 男に冒険者が務まると思ってるのか?」
入口近くのテーブルで酒を飲んでいた女冒険者が、嘲笑いながら立ち上がった
ドッと湧き起こる女冒険者たちの笑い声。
クルクルが絶望で顔を覆う中、九州男はゆっくりと振り向き、太い眉をピクリと上げた。




