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第一章3 「だいじょぶたい!女にできて男にできんわけはなか!なんかいい感じの棒ばある?」

「うぅ……どうしてこんなことに」


 ミルミルが悄然とした様子で呟く。

 慣れないせいか、料理をするその手つきはどこかぎこちない。


「野菜の皮むき器、どこだったっけ……」


 この世界では男女で暮らす場合、家事や料理を担当するのは主に男性だ。

 そのため、普段は弟のクルクルに任せきりだったミルミルにとって、調理器具を探すことすら一苦労だった。


「思っていた異世界人とは全然違ったなぁ……何言ってるかよくわかんないことも多いし……」


 先代の異世界転移担当である父から役目を受け継ぎ3年。

 ようやく現れた九州男はミルミルとクルクルにとっては初めての異世界人であり、毎日の日課である祠の見回りで九州男を見つけた時には、期待で胸が高鳴ったものであった。

 異世界人を保護し、この世界について教え、導き、そのスキルを世界のために役立ててもらう……そんな崇高な使命感を持っていた双子だったが、現実は思ったようにいかないようだ。


「味は……ちょっと薄いかな。調味料を足したほうがよさそう」


 とは言え、使命を放棄するわけにもいかない。

 この世界と異世界人がやってきた元の世界には様々な違いがあり、それを伝えるのも双子の役割なのだった。


「よし! 気を取り直して頑張るぞ!」


 ミルミルが気合を入れなおしていると、九州男の叫び声が聞こえた。


「おーい、まだ飯はできんとや?」


「はい、ただいまお持ちしますー!」


 九州男の部屋に料理を運ぶと、九州男は貧乏ゆすりをしながら待ち構えていた。


「お待たせしました! クルクルが帰ってきたら食事にしましょう」


「いや無理ばい。腹が減って倒れてしまうけん、先食いよくばい」


 言うや否や、料理にがっつき始める九州男。

 せっかちな上自分勝手な男である。


「むぐ……むぐ……ずぞぞぞぞ……なんね! 野菜ばっかりやないね! 肉ははいっとらんと?」


 作ってもらっている立場を感じさせない九州男の物言いにイラッとしたミルミルであったが、なんとか感情を抑え込み返答する。


「こんな辺境の村だと、お肉がいつも手に入るわけではなくて……」


「味も薄いし、野菜は皮が残っとるやん。あんた料理下手やね~」


(ぐっ! あなたが無理やり作らせた癖に……!)


「はは、すみません。不慣れなもので……」


 ひきつった笑顔を浮かべるミルミルだが、九州男は意に介した様子もなく、追撃する。


「さっきも言ったばってんが、料理の一つもできん女は嫁にいけんばい? 今のうちに練習せんば」


※練習せんば……練習しないといけないよ の意


「ははは……わかりましたぁ……」


(もうやっていけないかもしれない。なるべく早く出て行ってもらおう)


 ミルミルが心の中で決意を固めていると、バタンと慌ただしくドアが開いた。

 買い物から帰ってきたクルクルが、息を荒げながら九州男達に呼びかける。


「姉さん! 大変だ!も、モンスターが出た!」


「っ……! わかったわ! すぐ行く」


 ミルミルは瞬時に表情を変えると、目にも止まらぬ速さで家を飛び出した。

 いつの間に装着したのか、腰には二振りの短剣を装着している。


「もんすたあ? モンスターち言ったら怪物とかそげんやつのことば言いよるとかね?」


「は、はい、そのモンスターです。九州男さんは危ないので、ここで待っていてください」


 残ったクルクルが説明する。

 しかし、黙って聞く九州男ではなかった。


「そげんこつ言うてもおんなんこ一人で行かせたらいかんかろうもん」


※そげんこつ……そんなこと の意

※いかんかろうもん……いけないでしょう の意


「姉さん……ミルミルなら大丈夫です。このあたりのモンスターに対抗できるぐらいには鍛えています」


「だけんち男の俺らが家で待っとるわけにはいかんばい。俺らも行こうや」


「えぇぇぇぇ〜!? 僕、戦えないですよ!?」


「なーん情けないことば言いよっとか! さっさ行くばい!」


※さっさ行くばい……早く行きましょう の意


「えええ~!」


 抵抗するクルクルを半ば引きずるように九州男が外に出ると、村の広場でミルミルがオオカミのようなモンスターの群れと対峙していた。


「グルルルルル……」


 九州男がテレビで見たことのあるオオカミより一回りは大きいだろうか。

 しかし、大きさよりもその禍々しい30cmほどの太い角が、彼らがただのオオカミではないことを如実に示していた。


「角狼(ホーンウルフ)……の群れです……!」


 緊張した様子でクルクルが呟く。

 数は20匹近くはいるだろうか。

 角狼(ホーンウルフ)の群れに囲まれ、ミルミルは舞っていた。


「やっ! はっ! てやっ!」


 そう。そ(・)れ(・)は舞いというのが相応しい、流麗な動きであった。

 二振りの短剣を巧みにきらめかせ、襲い掛かる角狼(ホーンウルフ)に斬撃を与えていく。


「ガウッ!」


「はっ! せいっ!」


 角狼(ホーンウルフ)は次々ととびかかり、その鋭い角や牙でミルミルに襲い掛かる。

 しかし、全てを見切っているかのように、少女は舞う。

 そして避けながら、角狼(ホーンウルフ)の目を、頬を、背中を、足を切り裂いていく。


「ギャウッ!」

「グギギギギッ!」


 一撃一撃は重くないが、その刃は確実に、着実にダメージを蓄積させ


「ふっ! やっ!」


「グ……グ……」

「ガ……」


 一匹、また一匹と角狼(ホーンウルフ)を仕留めていく。

 地に足を着けている時間より空中を舞っている時間のほうが長く感じるほどの、華麗な体捌きであった。


「は~。お前の姉ちゃんけっこうすごかやん! 犬畜生ば相手にぴょんぴょん飛びよるばい!」


「い、犬畜生……!? いや、そんなことより、ここは姉さんに任せて早く家に戻りましょう!」


「あんたもしつこいね~! あんなおんなんこにやられるぐらいの犬畜生ば、大した強さじゃなかろうもん! かせしちゃろうや!」


※かせしちゃろうや……加勢をしてあげましょう の意


「えぇ! イヤイヤイヤイヤ! 危ないですって! スキルもない九州男さんじゃどうにもならないですよ!姉さんは「短剣戦闘」と「踊り手」のスキルを持ってるから戦えるんです!」


「だいじょぶたい! 女にできて男にできんわけはなか! なんかいい感じの棒ばある?」


「棒!? 何を言ってるんですか!」


「あ、あったあった、犬畜生ごとき、これでよかやろ。これでキャン言わせちゃるばい」


※キャン言わせる……痛い目に合わせる の意


 九州男が拾いあげたのは、やや硬いが何の変哲もない、木の棒であった。


「そんなもので戦えるわけないでしょう!?」


 もはやクルクルは半泣き状態である。


「せっ! やっ! ……!? あの二人、何をしているの!?」


 激戦の合間にルミルが九州男とクルクルに気付く。


「まずい……いま二人が襲われたらひとたまりもない……!」


 両手の双刃をふるいながら呟くミルミル。

 その瞳には焦りの色が浮かんでいる。


「グルルルルル!」


「まずい……気付かれた! ……クスオ様!クルクル!逃げて!」


 ミルミルが叫ぶ。

 助けに行きたいが、まだミルミルの周りにも多くの角狼(ホーンウルフ)が残っており、すぐには助けに行けそうにない。


 このままでは


「ガルルルルルル! ギャオオオオオオ!」


 ついに角狼(ホーンウルフ)が、九州男たちを見つけて牙を剥き出し飛びかかった!


「うわああああああ!」


 クルクルが絶望の悲鳴をあげ目を瞑る。

 しかし――


「せからしか」


 バコーーーーン!!!!


「キャイーーーーン!」


 耳を疑う破砕音が響き、角狼(ホーンウルフ)が爆音とともに吹き飛んだ。

 そのまま大木に激突し、ぐしゃりと音を立てて即死する。


「え……?」


 ぽかんと口をあけたまま固まるクルクル。


「なんね!やっぱり見掛け倒しのしゃばい犬畜生ごたる」


※しゃばい犬畜生ごたる……弱い(もろい)犬みたいだね の意


「まあ女子供に退治される犬はそんなもんやろうたい」


 九州男は鼻で笑うと、迫り来る角狼に向かって無造作に木の棒をぶん回した。


 バゴーーーーン!

 ドゴーーーーーン!


「ギャオオン!?」

「ギャァァァァァウ!」


「なに……あれ……」


 九州男が木の棒をふるうたび、角狼(ホーンウルフ)がまるで紙切れのように吹き飛び、絶命していく。

 九州男のほうが脅威だと判断したのか、角狼(ホーンウルフ)たちはミルミルには目もくれず、九州男に次々と飛びかかっていく。

 しかし、九州男に傷一つ付けることもできないまま、一匹、また一匹と角狼(ホーンウルフ)の数が減っていった。


「怪力のスキル……? いやでも、あの人はチートもスキルももらってないって……」


 バコバコーーーーン!


「キャン!」

「キャーーーン!」


 悲痛な断末魔とともに、最後の一匹が叩き潰された。

 あたり一面に転がる角狼(ホーンウルフ)の凄惨な死体の中、九州男は「ふぅ」と素振りでも終えたかのように肩を回している。


「まあ、こんなもんやろ」


 九州男は涼しげな顔である。


「クスオ様!」


 ミルミルが駆け寄る。

 クルクルはわけがわからないといった面持ちだ。


「いったいどうやって……なぜそんな力をお持ちなのですか!?」


「なんでっち言われても……やっぱ仕事が力仕事やけん、鍛え方が違うんかねぇ?」


「いやいや、そんなレベルでは……でもなんにせよ、ご無事で何よりです。クルクルも、ほら、クスオ様にお礼を言いなさい」


「ぁ……はい……ありがとうございます……」


 クルクルも本調子ではないものの、ようやくまともにしゃべることができるようになってきたようだ。


「よかよか! 大したことはしとらんたい。まあ、女子供が退治できるモンスターに男が負けるわけはなかけんね」


「そういう……ものですか……?」


 疑わしい声で答えるミルミルであったが、あんな現実を見せられた後では、否定もできない。


「そうたい。帰って残りの飯ば食おうや! あと汗かいたけん風呂もわかしてくれんね!」


「あ、はい……では私はモンスターの死体を片付けてきますので、クルクル、お風呂の準備をお願いね」


「う、うん」


 クルクルが動こうとすると、案の定と言うべきか、九州男がそれを咎める。


「まーたそげんこつ言いよるとね! 風呂沸かすのも女の仕事たい! こんな血生臭くて重い死体の片付けは俺とクルクルでちゃっちゃと片付けるけん、あんたはとっとと風呂沸かしてこんね!」


※そげんこつ……そんなこと の意


「え……?」


 口は悪く、相変わらず風呂を「女の仕事」と決めつけている。だが、一番泥臭くて重労働な死体撤去を「男の仕事」として当然のように買って出ているのだ。


「……はい! すぐに準備してきます!」


 ほんの少しだけ頬を緩めて家へと走っていくミルミル。


「よしクルクル、男二人でチャッチャと片付けるぞ!」


「は、はいっ! クスオ様!」


 身勝手で頑固、けれどそれだけではないかもしれない。

 双子はそんなふうに思ったのだった。


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