第一章2 「男が料理なんてせんでよか!それは女の仕事たい!」
「うったたかれっどきさん!」
「「う、うわぁ~!」」
※うったたく……叩くの意
「あん? また俺は気ぃ失っとったんね」
九州男が豪快な寝言とともにバッと跳ね起きる。
そこは先ほどの白い部屋ではなく、木造の素朴な部屋――粗末なベッドの上だった。
その枕元で、腰を抜かしかけている二人の子供がいる。
「お、おはようございます……!」
「き、気分はいかがでしょうか……!」
「ま~た知らん人がおるばい……あんたたちは誰ね?」
二人は十代半ばほどで、金髪にライトブラウンの瞳をした少年少女だった。
性別こそ違うが、顔立ちは瓜二つである。
「私はミルミルです。双子の姉です」
「僕はクルクルです。双子の弟です」
「変~な名前やね。親の顔ば見てみたいばい!」
「むぅ……」
「むぅ……」
九州男のぶっきらぼうな口振りに不満そうな顔をする二人。
「まあそれはいいばってんが、ここがさっきの女の言いよった異世界ね?」
「はい、おそらくそうです」
ショートカットで活発そうな姉のミルミルが答える。
「女というのは、異世界転移を司る女神さまのことだと思われます」
ポワポワした髪の毛の少しおとなしそうな弟のクルクルが続く。
「ときどき……何年に一度か、異世界からこちらに転移してくる人がいるのです」
「転移してくる場所は、いつも決まってこの村の近くにある祠です」
「私たちの役目は、異世界から転移してきた人を保護することです」
「僕たちが、当面はあなたのお世話をしますので……」
「ちょ! ちょ! ちょっと待たんね!」
※待たんね……待ってください の意
「はい、なんでしょうか」
「何かご質問でしょうか」
「それよそれ! なんで二人で交互にしゃべると? 気が散るけん一人ずつ喋ってくれんね!」
「むぅ……」
「むぅ……」
何かしらのこだわりがあったのか不服そうな双子だったが、数秒の目配せの後、姉のミルミルが咳払いをした。
「コホン……失礼いたしました。要するに、あなたのような転移者様がこの世界に馴染めるようサポートするのが私たちの役割です。異世界の方は強力なチートスキルをお持ちのことが多く、この世界の発展や治安維持に大いに役立っているのですよ」
「はあはあ、よぉわからんばってんが、あんたたちが俺の世話ばしてくれるっちことね?」
「(せわば……? )は、はい、そうです。あくまでこの世界に馴染んで、一人立ちするまでの間ではありますが……」
謎の方言に首をかしげるミルミル。
「ふーん……あの女神ちいう女の言いよったことは本当っちことたいね」
「はい、そうなるかと思われます。ところで、あなたのお名前と、女神様からいただいたスキルを教えていただけませんか?おそらく、チートスキル、と呼ばれる強力なスキルをもらっているはずです」
「あん?俺は田川 九州男ちもんよ。九州男 よか名前やろ?」
「クスオ様、ですね。それで、スキルの方は……?」
「チート? スキルちやつは、要らんっち言ってやったばい。なーんかせこかやつみたいやけん、男がそんな情けないことできんち言うたったわ」
※せこかやつ……ずるいやつ の意
「「えぇぇぇ――っ!?」」
今まで大人しかった弟のクルクルまで、目玉が飛び出んばかりに驚愕の声をあげた。
「チート、断っちゃったんですか!?」
「なんてもったいない!」
「チートスキルがないなんて、普通の人間と変わらないじゃないですか!」
「あぁ……僕たちが世話役になって初めての異世界人だったのに……」
「しかも……しかも、よりによって男性なんて」
「やかましか! ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒いでからに……しゃあしいガキやどもやのう!」
「「ひっ!」」
怒気を発する九州男に双子は口をつぐんで震え上がった。
九州男は声も体もでかいので、かなり威圧感がある。
実は九州男は怒っているわけではないのだが、どう見ても怒っているようにしか見えない。
「まあスキルだのチートだのはどうでもいいけん、とりあえず、めしば作っちゃらんね。ばり腹減っとるっちゃん」
「めしば……? あ……しょ、食事ですね! すぐに用意します!」
「では、僕が料理してきます。豪華なものはありませんが、ご容赦ください」
「クルクル、お願いね。私は外の見回りついでに、村のみんなにクスオ様が目覚めたことを伝えてきます」
「うん、了解だよ」
スムーズに役割分担をして動き出そうとする双子。
しかし――
「ちょお待て」
「「……?」」
九州男の低い声が二人を呼び止める。
「なんで男が料理で女が見回りっちゅう役割になっとんね」
「え……?」
「いや、それは……」
「男が料理なんてせんでよか!それは女の仕事たい!」
「え?」
「えぇ!?」
双子は九州男の発言に目を見開く。
「女がおるとに男が台所入るとか恥ずかしいことせんでよか。そっちのミルミル?っちゅうおんなんこが作ればよかたい」
「え……で、でも、私は料理なんてほとんどしたことがなくて……!」
「そ、そうです! いつも家事や料理は僕の担当で、姉さんは外で戦闘の訓練やモンスター討伐を……!」
「なんね! 女のくせに料理もしきらんとね! か~! なさけなか! あんたいくつね?」
「わ、私たちは今年で16歳です……」
「16歳ち言うたら高校生の年やろうもん! 料理ぐらいできんといかんばい! ミルミルが飯ばつくってきて!」
「そ、そんな……」
「はいわかったらすぐ行きぃや!」
「はいぃ!」
ミルミルは慌てて厨房に向かう。
「あのぅ……僕はどうすれば……」
「あん? 確かクルクルち言ったね。ほなら酒ば買ってきてや! できれば焼酎がよか!」
「ええっ!? ぼ、僕が一人でお外に買い物だなんて……そんな危ないこと……!?」
「男が買い物行くぐらいでガタガタ言わんと! ほら、早よ行かんね!」
「ひ、ひぃぃっ! 行ってきますぅ!」
とぼとぼと、しかし大急ぎで買い出しに走っていくクルクル。
それを見送りながら、九州男は満足げにドカッとベッドに深く腰掛け直した。
――異世界であっても、さす九の価値観は1ミリもブレないのであった。




