第一章11 「当たり前たい。肉体労働しよったら誰でもこれぐらいなるばい」
「ふんふん、やっぱり、筋肉はかなりあるね。自然に鍛えられた良質な筋肉って感じ」
「当たり前たい。肉体労働しよったら誰でもこれぐらいなるばい」
「上半身もだけど、下半身がかなりガッチリしてるね」
「足腰が大事やけんな!」
「お腹は……ちょっと出てるかな。でも多少脂肪が付いてるほうがいいっていうもんね」
「ビールが美味いのが悪いったい!」
アンバーによって上半身裸にされた九州男は、全身の肉体をくまなくチェックされていた。
身長、手のひらのサイズ、胸囲、握力、体幹の軸……専用のメジャーや測定器具を使い、あらゆる数値が計測されていく。体中をアンバーの細い指先でペタペタと触診されているが、九州男も満更ではない様子だ。ちなみに、その視線は終始アンバーの豊かな胸元へ注がれている。
「わ。パンチ力凄いね。素手でも相当戦えそう」
「殴り合いの喧嘩じゃ負けなしたい。番長やりよったこともあるけんね。まあ中学で卒業したばってんが、ガハハハ」
頑丈な測定台に設置されたパンチングマシンのような革袋を殴りつける九州男を見て、アンバーが感心したように声を漏らす。
「ふうん?」
にこやかに見えて、九州男を見るアンバーの目は真剣そのものだ。
「いきなり脱げって言われたときはどういうことかと思いましたが……クスオ様に合った武器を作るためなんですね」
「ああ、アンバーは客の骨格や癖をじっくり観察して、最適な武器を作ってくれる腕の良い鍛冶屋だ。私も最初に来た時は全身を……いや、それはいい。お前も武器を作ってもらうか? ミルミルの……弟」
「あ、クルクルです……僕はいいです……」
「そうか……まあ普通の男はそうだろうな」
レイラとクルクルが少しよそよそしい雰囲気で会話を交わしている間に、アンバーの観察が終わったようだ。
「よし、決めた!」
高らかに九州男に宣言するアンバー。
「お、俺に合う武器はなんね!」
「一つ目は……ずばり斧だね。それも、両手で扱う戦斧――バトルアックスがいいと思う」
「斧……強そうでいいやん!」
「でしょ?初心者でも比較的扱いやすいし、下半身がしっかりしているクスオには向いていると思うよ! 何より……破壊力が抜群!」
人差し指を立てながら熱弁するアンバーに、九州男は大きく頷いた。
「おおー! めちゃくちゃいい気がしてきたばい! んで、一つ目っちことは二つ目もあると?」
「そのとーり! 冒険者は複数の武器を持つものでしょ?」
「そうなん?」
九州男が後ろのふたりに視線をやる。
「ああ。お前の世界ではどうだか知らないが、冒険者は複数の武器を持ち歩くのが一般的だ。単純に武器が折れたり壊れたりした時の予備という意味もあるし、例えば斬撃武器が通りづらい相手に打撃武器を使ったり、武器の使い分けのメリットもあるからな」
「私も予備の武器を持ち歩いてますよ。短剣以外は苦手なので、めったに使いませんが……」
「とは言え、あまりたくさん武器ばかり持ち歩いても使いこなせないからな。2~3種類の武器を持ち歩いている冒険者が多いと思うぞ」
レイラとミルミルの解説を聞き、九州男は納得したよう頷く。
「ほーん。なるほどねぇ。んでんで、二つ目はなんなん?」
わくわくした顔で尋ねる九州男に、アンバーは不敵な笑みを浮かべ、人差し指に続いて中指を立てて答えた。
「二つ目は……ガントレット! 指先から肘まで覆う籠手のことだね。籠手というと防具的なものだと思われがちだけど、殴ってヨシ防いでヨシのガントレットを作るつもり!」
「ガントレット……あんまりピンとこんけど、メリケンサックみたいなもんかね?」
九州男が腕を組み、首をひねる。一般的な九州男児である九州男にとって、ガントレットという響きは馴染みが薄い。
「メリケンサックはアタシがピンとこないけど、防具としても使えるし、殴る威力を高めたりできる装備って思ってもらえればいいかな」
「まあよくわからんばってんが、それで頼むわ!」
なんだかんだとアンバーに乗せられ、九州男は笑顔で快諾する。
「おーけい。じゃあ早速今日から作成に取り掛かるよ! 2週間もあれば出来上がると思うから、それぐらいに取りにおいで!」
「そんなにかかると?もっとカンカンカーンって作れるもんやなかと?」
せっかちな九州男は、2週間という言葉を聞き顔を曇らせる。
「そんなにパパッとできるもんじゃないよ。最高の武器を作ってあげるから、楽しみに待っておきな! あ、うちにある練習用の斧とガントレットを貸してあげるから、完成まではそれを使ってね。性能は落ちるけどタダでいいから!」
「決まりね。最後にお代だけど……レイラの紹介だから割引して……これぐらいでどう?」
アンバーが提示した金額に、後ろで見ていたミルミルが目を見開いた。
「うわぁ高い! 私の短剣の5倍の値段です!」
「そりゃ短剣よりも素材は消費するしねぇ。それにバトルアックスとガントレット合わせての金額よ?」
「まあ妥当だろうな。アンバーの腕は一流だ。オーダーメイドの武具は高くなるものだし、むしろ良心的だろう」
レイラがフォローを入れると、アンバーも我が意を得たりと胸を張る。
「そういうこと! まあ、お代は後日でもいいよ! クスオの武器、私もインスピレーション湧いちゃったからスゴイの作れそうだし!」
「クスオ様、貯金ありましたっけ?」
「なか! 全部酒とメシに使いよる!」
ミルミルの問いかけに、むしろ誇らしげに答える九州男。
「まあでも冒険者のランクが上がれば報酬も上がっていくっちゃろ? すぐに貯めちゃるばい!」
※いくっちゃろ?……いくんですよね? の意
「交渉成立ね!」
腕を組み、豊かな胸を持ち上げながら嬉しそうにアンバーは笑った。
「うーん、眼福眼福」
鼻の下を伸ばして胸部を凝視している九州男に気づき、レイラがすかさず咎める。
「だから……アンバーをいやらしい目で見るな!」
「なんね良かろうもん減るもんじゃなしに……焼きもちやきよると?」
「減るとか減らないとかの問題ではない! それに焼きもちなんて焼くわけがないだろう!」
「心配せんでもお前も顔はえらい美人やし、背ぇも高くていい尻しとるけん大丈夫たい! 乳もアンバーほどじゃないけどかなりでかいやろ?」
※えらい……とても の意
「な、な、な、な!」
レイラは顔を真っ赤にして声にならない声を漏らしている。
「お、レイラが珍しい反応してる。レイラってばファンクラブとかいる割に男耐性ないから新鮮~」
アンバーが呑気に呑気に笑っている横で、九州男に飛びかかろうとするレイラを、ミルミルとクルクルが「レイラさん落ち着いてー!」「斬っちゃダメですー!」と必死に押さえていた。




