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第8話:偽・『鳳凰』の包丁と千切り大根の盾

「私が巷で噂の、伝説の暗殺料理人……『鳳凰』の包丁を持つツヨシである!」


王都の広場に設けられた特設ステージで、朱色の派手なマントを翻す男が吠えた。

男の手には、鳳凰の翼を模した巨大で歪な装飾包丁。その周りには、物珍しさに集まった群衆と、エルゼ王女を唸らせたという「伝説の味」をひと目見ようとする貴族たちが群がっている。


「……おいおい、偽物が出るなんて、俺も有名になったもんだな」


人だかりの端っこで、串焼きのオーク肉を頬張りながらツヨシは呆れ果てていた。

第7話でエルゼ王女の偏食を「物理的」に治し、王女の胃袋を掴んだ功績により、ツヨシの名は「どんな我儘な舌も鳳凰の如き鮮やかさで屈服させる鉄腕料理人」として王都中に広まっていた。だが、目の前の男はどう見てもただの詐欺師だ。


「さあ、見よ! この『鳳凰』の羽撃はばたきが、あらゆる病を治し、あらゆる敵を退ける!」


偽ツヨシが、ぐにゃぐにゃと柔らかい謎の「魔野菜」をまな板に乗せ、鳳凰の首を象った柄を握りしめた。

だが、その手つきは素人目に見ても危なっかしい。案の定、男が包丁を振り下ろそうとした瞬間――。


シュッ!!


鋭い風切り音とともに、観衆の中から銀色の光が飛んだ。

偽ツヨシの自称・『鳳凰』包丁が、安っぽい装飾の継ぎ目から音を立てて砕け散る。


「な、何事だ!? 私の『鳳凰』が!」


「厨房に立つなら、まず『鳳凰』の翼を飾る前に、刃を研ぎ直してこい。三下」


人混みを割って、ツヨシが悠然と歩み出た。

腰には、飾り気のない、しかし冷徹な光を放つ『鳳凰』。彼の放った「鰹の鱗飛ばし」用の小刀が、見事に偽物のまやかしを撃ち抜いたのだ。


「貴様、何者だ!」


「本物のツヨシだよ。……と言っても、信じねぇわな」


その時、広場に異様な緊張感が走った。

「ぎゃははは! 料理人ごっこはそこまでだ!」

広場の屋根から、巨大な「暴走ゴーレム」を操る武装集団――以前、ツヨシに煮え湯を飲まされた暗殺ギルドの残党が乱入してきたのだ。


「ツヨシを殺せ!『鳳凰』を名乗る奴を、まとめてなぶり殺しにしろ!」


暗殺者たちは、派手な格好をしていた「偽ツヨシ」を本物だと思い込み、一斉に襲いかかる。

「ひえぇぇ! 助けてくれ、私はただのしがない役者で――!」


偽物が腰を抜かし、ゴーレムの巨大な拳が彼を押し潰そうとしたその時。


「チッ、職人の名を汚した罰だが……食材(客)を死なせるのは後味が悪い」


ツヨシが動いた。

彼は近くの八百屋の屋台から、大量の「大根」を抱え上げると、空中に放り投げた。


「必殺・ツヨシ流――『防壁・鳳凰の盾(千切り大根)』!」


ツヨシの腕が、視認できないほどの速度で爆発的に動く。

『鳳凰』が激しく火花を散らし、空中で数十本の大根がコンマ数秒で「極細の千切り」へと姿を変えた。


バラバラバラッ!!


ただの千切りではない。ツヨシは魔力をごく微量、包丁の刃に乗せていた。

切られた大根の繊維は、鳳凰の翼が重なるように空中で編み込まれ、白く輝く「巨大な壁」となって偽ツヨシの前に立ち塞がった。


ドォォォォン!!


ゴーレムの重い拳が、その大根の壁にめり込む。

だが、どれだけ力を込めても、弾力のある千切りの層が衝撃をすべて吸収し、拳を奥へ通さない。


「な、なんだこの壁は!? 白い羽のように柔らかいのに……びくともしないぞ!」


「千切りってのはなぁ、密度を高めれば鋼鉄よりもしなやかなんだよ。これを『鳳凰の守り』って呼ぶんだ」


ツヨシはそのまま、壁の隙間から「辛口のわさび」を練り込んだ手裏剣(包丁型)を投げつけた。


「ついでに、刺激的な薬味を添えてやるよ!」


パシュッ! とゴーレムの関節部分に命中したわさび弾が炸裂。

ツーンとする強烈な刺激臭がゴーレムの制御回路を狂わせ、巨大な体躯がグラグラと揺れ始めた。


「とどめは、鳳凰の爪で切り裂いてやる」


ツヨシは跳躍した。

ゴーレムの頭上を越えながら、空中で『鳳凰』を逆手に構える。

彼の狙いは、ゴーレムの動力源ではなく、それを取り囲む暗殺者たちの「武器の接合部」だ。


キィィィィィィン!!


着地した瞬間、ツヨシの背後でゴーレムの外装と、暗殺者たちの剣がパラパラと細切れになって崩れ落ちた。

「活きのいい魚を捌くよりは手応えがねぇな」


暗殺者たちは、自分の持っていた剣が「薄切りのハム」のようになっているのを見て、恐怖で顔を青ざめさせた。

「ば、化け物か……!? 大根を鳳凰の翼のように編み、剣を刺身にするなんて……!」


彼らが逃げ出すのを見届け、ツヨシは腰を抜かしている「偽ツヨシ」の前に立った。


「……おい」


「ひ、ひぃ! ごめんなさい! 二度と『鳳凰』なんて名前は騙りません!」


「そうじゃねぇ。お前、さっき大根を無駄にしようとしたろ」


ツヨシは、地面に散らばった大根(盾として使ったもの)を丁寧に拾い上げた。

「料理人は食材を無駄にしねぇ。……これ、今日の夕飯の『つま』にするから、洗うの手伝え。お前みたいな偽物でも、皿洗いぐらいはできるだろ?」


数時間後。

王宮の厨房では、エルゼ王女がツヨシの作った「ゴーレム撃退記念・鳳凰仕立ての大根サラダ」を頬張っていた。


「ツヨシ、今日のサラダ、なんだかいつもより『高貴な味』がするわね!」


「そうっすね。……隠し味に、鳳凰を気取った馬鹿の汗が入ってますから」


ツヨシは、厨房の隅で必死に皿洗いをさせられている元・偽ツヨシを横目に、新しい包丁を研ぎ始めるのだった。

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