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第66話

冷たくて、暗い。


玉座に座る私の足元には、また愚かな反逆者たちの血だまりが広がっていた。


「……これで、何人目かしら」


誰も答えない。広すぎる魔王城の空間には、骨の髄まで凍りつくような静寂と、むせ返るような鉄の匂いだけが充満している。


七歳のあの日、私は追手によって魔界の最深部へと連れ戻された。

それからの十数年。私は誰にも心を開かず、ただ圧倒的な恐怖と暴力だけでこの冷たい玉座を守り続けてきた。


震える指先で、漆黒のドレスの懐から小さな布包みを取り出す。

そっと開いた中に入っているのは、とっくに枯れ果てて茶色く変色した、シロツメクサの冠だった。


「アルト……」


名前を口にするだけで、胸の奥が物理的に抉られるように痛い。


アルトの作ってくれたあの場所は、あんなに温かかったのに。

アルトの手は、あんなに優しかったのに。


ここには、私を撫でてくれる人は誰もいない。

どれだけ強大な魔力を手に入れても、この凍えるような孤独だけは決して埋まらない。


「会いたい……アルト、私を、一人にしないで……っ」


——ハッ。


「……サクリア?どうした、うなされてたぞ」


耳元で、少し眠たそうな、けれど深く落ち着いた低い声が響いた。


勢いよく目を開けると、そこは血塗られた玉座ではなく、少し柔軟剤の匂いがする柔らかな布団の中だった。

アルトの大きな手が、私の背中を一定のリズムで優しく叩いている。


「あ……アルト……っ」


「怖い夢でも見たのか。大丈夫だ、俺はここにいるよ」


寝汗をかいた私の額を、アルトの指先がそっと拭ってくれた。

鼻腔をくすぐる石鹸の甘い香りと、布団の中にこもったアルトの生温かい体温。


私が十数年間、狂いそうなほどの暗闇の中でずっと、ずっと求め続けていた本物の温もりが、今ここにある。


「……ううん。なんでもないわ」


私はアルトの胸にすり寄って、その大きな背中に強く腕を回した。

耳を澄ませば、すぐ隣からユエルの静かな寝息が聞こえ、少し離れた場所ではミサリアや他の子たちが身じろぎする気配がする。


もう、あの冷たい玉座には戻らない。

私には、帰る場所があるのだから。


「ねえ、アルト」


「ん?」


「明日は、あなたのお誕生日ね。私……世界で一番のプレゼントを用意しているから、覚悟しておきなさいな」


「プレゼントなんて気を遣わなくていいのに。姉さんのケーキをみんなで食べられたら、俺はそれで十分だよ」


アルトが苦笑して、私の頭をポンと撫でる。

その不器用な優しさが愛おしくて、私はアルトの胸にさらに顔を押し付けた。


「ふふっ。ダメよ、絶対に受け取ってもらうんだから」


アルトの規則正しい心臓の音を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じた。


この温かくて騒がしい、愛する人との居場所だけは。

何が起きても、誰が奪いに来ようとも、絶対に私たちが守り抜いてみせる。

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