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第64話

ギルドハウスの増築された大浴場。

立ち込める乳白色の湯気と、世界樹の葉を浮かべた爽やかな香りが、一日の疲労を溶かしていく。


「ふぅ……極楽だな」


俺が肩まで湯に浸かり、目を閉じた瞬間だった。


「アルトの背中は私のものよ。さあ、流してあげるわ」

「ずるい!私は前を洗うからね!」


ガラッという音と共に、湯気の中からサクリアとユエルが突撃してきた。

さらに、背後から無数の足音が続く。


「お待ちください。浴槽の定員超過は条例違反……きゃっ、押さないで」

「アルト……背中、くっついてもいいだろう?」

「お姉ちゃんが一番にアルトの体を清めるのよ!」

「アルト!一緒に泳ぐのじゃ!」

「冥界の泥パックを持ってきてやったぞ」


イルマ、タチアナ、ミサリア、レム、ネリアが次々と湯船にダイブしてくる。

八畳ほどある特大の浴槽だが、八人の規格外ヒロインが密集すれば、たちまちお湯が溢れ出し、肌と肌が密着する限界突破の人口密度となった。

むせ返るような石鹸の甘い香りと、女の子たちの尋常ではない熱気が、湯船の温度を急上昇させる。


「ちょっとあんたたち!破廉恥よ!お兄ちゃんがのぼせちゃうでしょ!」


脱衣所から、バスタオルを一枚羽織っただけのリゼが真っ赤な顔で怒鳴り込んできた。

手には大賢者の杖の代わりに、黄色い風呂桶をしっかりと握りしめている。


「私が常識というものを教えてあげるわ!お兄ちゃん、今すぐそこから——ひゃうっ」


濡れたタイルに足を滑らせたリゼが、一直線に俺の胸へとダイブしてきた。


バシャァッ!


「いてっ……大丈夫か、リゼ」


俺がとっさに抱き止めると、リゼの柔らかい身体が俺の胸にピタリと密着した。

湯気で上気した彼女の顔が、俺の鼻先数センチにある。


「あ……う、うぅ……っ」


「昔からそそっかしいな。ほら、お湯の中は滑るからしっかり掴まってろ」


俺がリゼの背中を支え、濡れた銀色の髪をそっと撫でてやる。


「……お兄ちゃん、あったかい」


大賢者の威厳など跡形もなく消え去り、リゼは俺の胸に顔を埋めて大人しくなってしまった。

一番の常識人ぶっていた義妹が、開始数秒で完全に陥落している。


「……また抜け駆け。許さないわよ、新入り」

「お姉ちゃん、お湯の温度を百度まで上げるわね」


周囲を取り囲む七人の瞳から、一切の光が消えた。

バチバチと火花が散る大浴場。右からは魔王の柔らかな感触、左からは剣聖の弾力、背中には義姉のプレッシャー。

逃げ場などどこにもない。致死量の愛情が、物理的な重さとなって俺の全身を締め付けてくる。


「喧嘩するなら全員お風呂から上げるぞ。ほら、肩まで浸かって十数えろ」


俺の言葉に、八人の規格外たちが不満そうに口を尖らせながらも、いーち、にーいと子供のように声を揃え始めた。


熱気に包まれた極上の密着空間。

響き渡る声と水音が、夜の静寂を賑やかに塗り潰していく。

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