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第61話

縁側で冷たい麦茶を飲もうとした俺は、庭の惨状を見て湯呑みを落としそうになった。


「……おい。うちの庭に、なんか変なテーマパークが建ってるんだが」


つい昨日までただの更地だったはずの庭が、真っ二つに割れていた。

右半分には、黄金の泉が湧き出す雲の上の天界庭園。

左半分には、真紅の薔薇と白骨の観覧車が回るゴシック調の冥界遊園地。


肌を刺すような神々しい光と、底冷えする漆黒の瘴気が、庭の真ん中でバチバチと火花を散らしている。


「ふははは! 見たかアルト! 我が神の力で創り上げた天空の愛の巣を! ここで我と永遠の甘いバカンスを過ごすのじゃ」


「ふん、まぶしすぎて目が痛くなるわ! アルト、私の冥府のブラッド・ローズガーデンこそ至高だ! その骨の観覧車の頂上で、私に永遠の愛を誓え」


パジャマ姿のレムと、漆黒のドレスを着たネリアが、庭のど真ん中で胸を張って威嚇し合っている。


「…………」


俺は無言でこめかみを揉んだ。

鼻を突くオゾンの匂いと、甘ったるい腐葉土の香りが混ざり合い、春の穏やかな空気を完全に破壊している。


「パ、パパ……っ?」


足元で、歩くトマトのプチが怯えて葉っぱの足を震わせていた。


「こら、二人とも。庭で宇宙規模の陣取りゲームをするな。プチが怯えてるだろ」


俺が縁側から声をかけると、二人はハッとしてこちらを振り向いた。


「ア、アルト! 違うのじゃ、これはお前を喜ばせようと……っ」

「そ、そうだ! どっちのデートスポットがお前の好みに合うか、勝負していただけで……って、抜け駆けするな駄女神!」

「お前こそアルトにすり寄るな、骨女!」


二人の間に再び致死量の魔力が膨れ上がる。

純白の創造エネルギーと、漆黒の破壊エネルギーが激突し、庭の上空に次元の亀裂が走り始めた。世界そのものが、二人のアルト争奪戦に耐えきれず崩壊しようとしている。


「……まったく」


俺は小さくため息をつき、縁側に干してあった特大の布団をバサリと広げた。

そのまま庭に飛び降り、激突寸前のレムとネリアの首根っこを左右の手でひょいと掴む。


「あうっ」

「ひゃんっ」


凄まじい魔力の奔流など存在しないかのように、俺は二人を抱えたまま、天界と冥界の境界線に敷いた布団の上にゴロンと寝転がった。


「な、なな、何をするのじゃアルト!」

「こんなところで寝転がったら、神気と冥気で体が消滅して……っ」

「遊園地もいいけど、今日は天気がいいからな。三人で日向ぼっこだ」


俺は暴れる二人を両腕でガシッと抱き込み、そのまま胸に押し付けた。

俺の体を通じた無自覚な中和魔力が、荒れ狂っていた天と地のエネルギーを一瞬で相殺し、心地よい春の風へと変換していく。


「んんっ……アルトの、匂い……」

「あったかい……」


絶対的な安心感と、密着する体温。

世界を滅ぼしかけた二人の規格外の少女は、俺の腕の中でみるみるうちに戦意を喪失し、とろけるような顔で俺の胸にすり寄ってきた。


宇宙規模の喧嘩は終わりだ。

俺の腕にしがみつく二人の小さな寝息と、ぽかぽかとした太陽の光だけが、静かになった庭を柔らかく包み込んでいた。

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