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第40話

ツリーハウスでの秘密の共同生活は、夢のように楽しくて温かい日々の連続だった。


朝は小鳥のさえずりで目を覚まし、三人で手を繋いで森を探索する。

魔力コントロールの練習がてら、サクリアが小さな火の玉を出して野イチゴのジャムを煮詰め、ユエルが不格好な木剣で器用に木の実を割る。俺は蔓草を編んで、二人に小さな指輪や腕輪を作ってやった。


「アルト、見て。私のお手製ジャムよ。世界で一番甘いんだから」

「私だって、アルトのために一番大きいくるみを割ったんだよ」


口の周りをジャムだらけにしながら、俺の隣を取り合う二人。

夜になれば、相反する魔力を中和するために俺を真ん中にして、三人でぎゅっと身を寄せ合って眠りにつく。

大人たちに利用され、怯えていた二人の笑顔は日に日に明るくなり、この小さなツリーハウスは間違いなく俺たちだけの完璧な『家族の城』だった。


この幸せなスローライフが、ずっと続くと信じていた。

あの絶望の雨が降る日までは。


その日、俺が森の入り口まで湧き水を汲みに行き、ツリーハウスに戻ってきた時だった。


「……え」


俺は持っていた水桶を地面に落とした。

秘密基地があったはずの巨大な御神木が、無惨にもへし折られ、周囲の森ごと黒焦げになっていたのだ。


空には分厚い暗雲が立ち込め、冷たい雨が降り注いでいる。

燃え盛る木々の向こうに、空を覆うほどの巨大な漆黒の魔法陣と、神々しくも冷酷な光を放つ巨大な十字架の結界が展開されていた。


魔族の最高位の将軍と、神殿の異端審問官のトップ。

それぞれの組織が本気で放った最強の追手が、同時にこの森を包囲していたのだ。


「サクリア! ユエル!」


俺が叫びながら燃える残骸に駆け寄ろうとした時、二人の小さな影が俺の前に立ち塞がった。


「来ないでアルト」


いつも俺の腕に抱きついていたサクリアが、冷たい声で俺を拒絶した。

その隣で、ユエルが大粒の涙をポロポロとこぼしながら、必死に唇を噛み締めている。


「どうして……一緒に逃げよう、俺が二人を守るから」


俺が手を伸ばすと、サクリアは悲しそうに首を振った。


「アルトはただの優しい村の男の子よ。あんな本物の化け物たちから、逃げ切れるわけがないわ」


彼女たちは知らなかったのだ。俺に、追手をすべて消し飛ばせる規格外の力があることを。

自分たちが一緒にいれば、ただの優しい友達であるアルトが確実に殺されてしまうと悟った二人は、俺を守るために、自ら投降する道を選んだのだ。


「アルト……イチゴ、すごく美味しかった。花の冠も、宝物だったよ」


ユエルの小さな手が、最後に俺の額にそっと触れた。

瞬間、二人が事前に調合していた『眠りの霊草』の魔力が俺の体内に流れ込む。

どんな強大な魔力も中和できる俺の体も、大好きな二人が純粋な「守りたい」という想いで込めた魔法だけは、拒絶することができなかった。


「ま、待って……行かないで、二人とも」


薄れゆく意識の中、俺の視界が暗闇に沈んでいく。


「さようなら、私の大好きな王子様」


その小さな声と、頬に落ちた温かい涙の感触を最後に、俺は完全に意識を手放した。


……どれくらいの時間が経っただろうか。

冷たい雨の音で目を覚ました時、周囲には黒焦げの森の残骸だけが広がっていた。


「サクリア……ユエル……」


誰もいない。

足元には、泥だらけになった花の冠と、折れた小さな木剣だけが転がっていた。


守れなかった。

大切な家族を、居場所を、俺は力不足で失ってしまった。


この日、ただの優しかった村人Aは死んだ。

泥だらけの花の冠と折れた木剣を両手に握りしめ、七歳の俺は雨の中で声を枯らして泣き叫んだ。


もう二度と、大切なものを奪われないように。

誰よりも強くなるために、俺は一人で暗闇の底へと歩き出し、心を殺して戦い続ける狂気のブラック労働へと身を投じていくことになるのだった。

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