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第39話

追っ手を星の彼方へ吹き飛ばした俺は、我に返って頭を抱えた。


かっこよく助けたのはいいが、魔族の姫と逃亡中の剣聖を、普通の村に連れて帰るわけにはいかない。大人たちに見つかれば、また二人は引き離されてしまう。


「よし。二人だけの、誰にも見つからない秘密基地を作ろう」


俺の提案に、サクリアとユエルはパァッと表情を輝かせた。


そこからの俺たちは、森の奥深くにある巨大な御神木を拠点に、様々な作業に没頭した。

蔓を編んでハンモックを作り、雨風を凌ぐために木の枝と大きな葉っぱで屋根を組む。

俺はただの工作のつもりだったが、無自覚に漏れる魔力が木々に干渉したおかげで、出来上がったのは風雨を完全に遮断する高断熱・高気密の堅牢なツリーハウスだった。


サクリアは魔法の火で不器用に木の実を焼き、ユエルは木剣で薪を割ろうとして失敗し、三人でススだらけになって笑い合う。

大人たちの都合から解放された、ただの子供としての本当に幸せな時間。


だが、日が落ちて急に春の夜風が冷たくなり始めた頃。

俺たちの前に、大人たちよりも残酷な『第二の壁』が立ちはだかった。


「うっ……あぁっ」


ツリーハウスの中で身を寄せ合って眠ろうとしていた二人が、突然胸を押さえて苦しみ出したのだ。

サクリアの角から黒い瘴気が、ユエルの体から銀色の聖気が制御不能となって溢れ出し、狭い室内で激しく反発し合っている。


「二人とも、どうしたんだ」


俺が慌てて駆け寄ると、サクリアが荒い息を吐きながら答えた。


「ごめんなさい、アルト……。魔族の瘴気と、剣聖の聖気は、本来絶対に交わらない相反する力なの。こんなに狭い場所で近くにいたら、お互いの魔力がショートして……体が引き裂かれそう」


相反する属性による魔力排斥現象。

これが、種族という絶対に越えられない第二の壁だった。このままでは二人とも自滅してしまう。


「離れなきゃ……でも、外は暗くて、寒いよぉ……っ」


ユエルが涙声で外の暗闇を見る。

追っ手の恐怖と夜の森の寒さ。離れれば凍え、くっつけば魔力反発で命を削る。

残酷すぎる現実に、二人の小さな手が離れそうになったその瞬間。


「離れなくていい。俺が間に入る」


俺は二人の間に割り込み、サクリアの小さな左手と、ユエルの小さな右手を、それぞれ自分の両手で力強く握りしめた。


「俺の体を通して、二人の魔力を繋ぐんだ。俺がクッションになる」


ただの村人である俺の体に、致死量の瘴気と聖気が同時に流れ込んでくる。

普通の人間なら一瞬で消滅する負荷だが、俺の規格外の魔力回路は二人の暴走する力を瞬時に中和し、穏やかな温もりへと変換して二人に送り返した。


「あ……苦しくない。アルトの手、すごく温かい」

「本当だ……アルトの中を通ると、サクリアの魔力も全然怖くない」


荒れ狂っていた魔力の嵐が静まり、ツリーハウスの中は春の夜のような優しくて温かい光に包まれた。


「これからは、俺がずっと二人を繋ぐから。だからもう、安心して眠っていいよ」


俺が微笑むと、二人は安心しきった顔で俺の腕にすり寄り、すぐにスースーと可愛い寝息を立て始めた。

相反する宿命を背負った二人を、俺という存在が繋ぎ止めた夜。


こうして俺たちは、誰にも秘密の、本当の家族になったのだ。

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