第24話
血の涙を流しながら法律を盾にする調査官の執念に、俺は頭を抱えた。
「じゃあどうすればいいんだ。借金を返すには畑を拡大して作物を売るしかないのに」
俺がため息をつくと、調査官はスッと立ち上がり、ホコリを払って眼鏡を光らせた。
「仕方ありません。私が労働基準監督官として、皆様の農作業が適法に行われているか、このギルドハウスに常駐して二十四時間体制で監視いたします」
「えっ」
「な、なんですって」
俺が間の抜けた声を出す横で、正座していたサクリアたちが一斉に立ち上がる。
「国家権力を笠に着てアルトの家に住み込む気ね。この泥棒公務員」
「絶対に許さないわ。私の聖剣の錆にしてあげる」
殺気立つヒロインたちをよそに、調査官は大量の荷物が詰まった魔法鞄をどこからか取り出し、すでにフリルのついたエプロン姿に着替えていた。
「これも公務ですので。アルト様、さっそく畑へ向かいましょう」
波乱の予感しかしないが、背に腹は代えられない。
俺たちはギルドハウスの裏手に広がる広大な畑へとやってきた。
「まずは土作りからだ。みんな、鍬を持って」
俺は使い慣れた鉄の鍬を振り上げ、スローライフの基本である耕作を始める。
よっ、はっ、と掛け声を出しながら、適当に地面を打ち据えた。
ズドガァァァァンッ
鍬が振り下ろされるたびに、大地が悲鳴を上げ、地平線の彼方まで続く巨大なクレバスが次々と形成されていく。
ただの農作業のつもりが、俺の無自覚な魔力が乗ったことで、大陸を分断するレベルの地形変動を引き起こしてしまったのだ。
「よし、ふかふかのいい土になったな」
俺が額の汗を拭って満足げに振り返ると、エプロン姿の調査官が完全に硬直していた。
「アルト様。これは農業ではありません。国家に対する地形改変のテロ行為です」
調査官が震える手で新しい赤切符を取り出そうとした、その時だ。
ゴゴゴゴゴッ。
俺が適当に割った大地の底から、この世のものとは思えないおぞましい咆哮が響き渡り――




