第23話
右からは魔王の極大魔法が、左からは剣聖の神話級の斬撃が、そして頭上からはミサリアの超重力魔法が俺を起点にして激突しようとしていた。
普通の人間なら塵一つ残らず消滅する絶対死の空間。
だが、俺はゆっくりと目を開け、大きく長いため息をついた。
「こら。家の中で危ないものを振り回しちゃダメだって、いつも言ってるだろ」
俺は起き上がりざまに、ユエルの聖剣の刀身を親指と人差し指でヒョイとつまんで止める。そのまま左手でサクリアの魔法陣をハエでも払うようにパチンと叩き割り、頭上のミサリアには軽くデコピンを放った。
「あうっ」
「えっ、私の全力の一撃が指二本で」
「魔法陣が、物理的に砕かれたわ」
唖然とする規格外の三人を前に、俺は没収した聖剣をテーブルの端に置き、腕を組んだ。
「喧嘩するなら全員おやつ抜きにするぞ。それより、お前たち」
俺は床で泡を吹いている調査官と、彼女の手にある文字化けしたような桁の請求書を指差した。
「俺が寝ている間に、ずいぶんと派手な買い物をしてくれたみたいだな」
俺がかつてないほど低いトーンで問い詰めると、最強のヒロイン三人がビクッと肩を跳ねさせ、正座の姿勢で綺麗に横一列に並んだ。
「ち、違うのアルト! これは借金を返すために」
「そうよ! ちょっと力加減を間違えて隣の次元が消えただけで」
「私は悪くないわよ、アルト」
「言い訳は聞かない。明日から全員、俺の畑で強制労働だ」
俺が一家の主として絶対的な判決を下した、その時だ。
床に倒れていた調査官が、ゾンビのようにむくりと上体を起こした。
「……アルト様。ギルド法第百四十二条……債務者による身内への強制労働は、不当労働行為および新たな罰金の対象と……」
血の涙を流しながら法律を盾にする公務員の執念に、俺の精神が再び真っ白になりかけたその瞬間――




