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26話

「何であんたがここにいるんだよ!」


格納庫に入ったら、当然のようにおやっさんがいやがった。


「入って駄目だとか言われてねぇからな」


……確かに言った覚えはないけど、午後まで待ってくれとは言ったじゃないか。


「それにしてもこの格納庫はいいな。一つこっちにも作ってくれないか」


「そんなにポンポン作れませんよ。これは元々あるパーツを組み合わせただけだから早いけど、そんなに無いですから」


それを聞いて、片目を薄く閉じてじっとこっちを見るおやっさん。


「おめぇ、どっから来た?」


「どこって……」


「おらぁ、長げぇことゲシュペンスト扱ってるが、あれだけ状態のいいティーガーなんて見たこともねぇ。特にあんだけ魔導複合装甲マギコンポジットアーマーなんぞをふんだんに使ったのなんて、それこそおとぎ話だぁな」


「……」


思わず沈黙する。


「まぁ、まずはこっちの話を聞かせてやる。椅子はねぇか?」


さっき出した機材の中に入っている折り畳み椅子を出して、おやっさんに勧める。


「何だ、変わった椅子だな」


あ、しまった、この時代折り畳み椅子ってないのか?

でも、日本でも戦国時代には床几しょうぎあったし、西洋にも古くからあったよな。

アルミは当然、プラスチックだって、ドイツ軍がベークライトを多用しているはず。


おやっさんが「うっぷらー」だか「おっぷらー」とか言いながら椅子に座る。

翻訳されてないけど、今何て言った?

そして胸ポケットから箱を取り出すと、中を覗いて握り潰す。


「おめぇさん、タバコ持ってねぇか?」


「あ、はい」


ちょっと後ろを向いて、その間に片手でこっそり携帯用操作盤からメニューを呼び出し、ポケットから取り出したふりをして、タバコの箱を取り出して渡す。

金色のパッケージをしげしげと見つめるおやっさん。


「ゴルデネ・ジリアか、聞いた事の無い銘柄だな」


自分自身はタバコは吸わないが、いやまぁ年齢的にも吸えないが、パンストのゲーム中は時代感を出すためにアイテムとしてタバコは色々な種類が存在している。

タバコ、チョコレート、コーヒー、ガム、アルコール、そしてアルバース(イギリス)軍では忘れてはならない紅茶、こうした嗜好品は当時のパッケージっぽいのが再現されていたり、コラボアイテムだったりと多彩な種類があった。

中には現実世界でタバコが制限されたので、せめてゲームの中だけでも自由に吸いたいとして、パンストをプレイするユーザーもいたという。

何せ、現代社会をモチーフとしたゲームの場合、たとえゲーム中であってもタバコは完全に規制されていたからな。

パンストは、プレイヤーの回復アイテムであり、タバコではないと主張してゲーム中に登場させていた。

それでも一部の規制の厳しい国では、タバコ状の物体を咥えるだけでNGで、そうした国では別なアイテムに差し変わっていた。

そのために、そういった国のプレイヤーが、日本サーバーとかそれらが大丈夫な国の人間と物々交換して入手するのも珍しくなかったので、交換用に自分もある程度在庫はしている。

その中でも人気のあるのが、カエルラス(フランス)のガーレイズやドンサー、アルゲンテウス(アメリカ)のブルズアイ、そしてアートルムス(ドイツ)帝国のゴルデネ・ジリアだ。

何でも中東の葉を使った高級タバコで、アフリカ軍団の将軍も吸っていたというので、雰囲気作りには持ってこいらしい。

なお、アルバース(イギリス)軍プレイヤーには、紙巻よりも葉巻の方が好まれるとか。


封印を切ると、中身を取り出し、匂いを嗅ぐおやっさん。

納得したのか咥えると、指を鳴らして火を点ける。

大きく吸い込むと、ぷかりと大きな煙の輪を吐いた。


「軽いがいいタバコだ」


「全部差し上げますよ」


「すまねぇな。最近はタバコもなかなか手にはいりゃしねぇ」


暫く沈黙が続き、いっそのことカートンごと上げた方がいいかなと思っていると、おやっさんが口を開いた。


「おめぇさん、魔法の匂いがプンプンすんだよ」


「魔法の……匂い?」


「ああ、ワシらエルフでも、そこまで魔法が強い奴なんていねぇ。もしいたとしても、無駄にしないように外に漏らさない訓練をさせられる。じゃねえと、魔物に狙われるからな」


そうか、おやっさんの話をまとめると、ヒュドラはともかく、サソリとかギルタブリルが狙ってきたのは、俺の魔法の匂いを嗅ぎつけて格好の餌だと思ったのか。

魔物の中枢は魔核であり、その動力は魔法の元となる魔力だ。

奴らは魔力を求めてさまよっており、強い魔力には引き寄せられる性質がある。

だからこっちの世界の人間は、誰であっても例外なく、小さな時から魔力を抑える訓練をさせられる。

なのに俺みたいに垂れ流していれば、普通ならこんな辺境の最前線であるアウグスタ(トブルク)に来る前に、大量に魔物に襲われているはずだし、当然魔法があることとか、魔力に関してももっと知っているはずで、誰かに魔力を抑えるように言われてなきゃおかしいと。

だとしたら、アウグスタ(トブルク)に突然出現したと考えるしかない。


なるほど、素晴らしい推理だ、ホームズ。


「それにな、おめぇさんみたいな奴は、時々現れるんだ」


おっと、ここで種明かしか。

話を聞くと、どうやらこの世界には過去にも何度か転移者が来たらしい。

都市にある自動工廠やゲシュペンストも、そうした転移者がもたらした物だったと。

元々がゲームのエンディング後の世界だったのか、それとも別な世界だったのが転移者によってこうなったのか、そこまでは分からない。

だが、少なくとも似たような世界になったのは、自分のような転移者の仕業だ、と。

だから隊長なんかも、こっちに協力を要請しつつも、そんなに強く出なかったのか。

自警団では太刀打ちできないほどの強大な魔力と戦力を持つ転移者を刺激しないようにして、どう動くのか見守るしかなかったわけだ。


さて、どうしたものか。

彼らが気にしていることの一つは、今みたいに魔力を垂れ流していると魔物が寄ってきてアウグスタ(トブルク)が危険にさらされる可能性がある。

だが、逆に今でも最前線で魔物と対立しているから、こちらの戦力は欲しい。

なので、まずは魔力の抑え方を早急に学んで欲しいってことだな。


そして、もう一つは味方をしてくれるのかどうかだ。

どうやったら取り込めるか、それを探るためにおやっさんは来たんだろう。

基本的にパンストユーザーは、人型戦車好きが多い。

というか、こんなゲームをやるのは、まずそれが好きじゃないとやらないだろう。

日本サーバーの黒エルフ隊長好きを除いてな。

なので、愛機を褒められて嫌がる人間は少ないだろう。


「いや、普通にティーガーが大好きでな」


しれっとおやっさんが答える。


「ずーっと昔、ワシの村に来た傭兵が、ティーガーの伝説を教えてくれたのよ。たった一機で百体以上の敵に立ち向かって、弾薬を使い果たすまで戦い続けたとか、集中攻撃を受けたのに、全てを弾き返したとか、な」


またふーっとタバコの煙を吐くおやっさん。


単なるマニアかよ。

しかしそれがいい。

俺の仲間だ。


おやっさんに右手を差し出す。


「分かりました。あなたは私の同類なんですね」


おやっさんが一瞬ぽかんとする。


「俺もティーガーが一番好きなんですよ」


それを聞いておやっさんが、こちらの手をガシッと握る。


「じゃあ乗せてくれるな」


「はい」



と言っても、ティーガーのメンテナンスは始まったばかりで動かせない。

そう告げると、見てわかるほど落胆する。

なので、入り口近くに止まっているベルゲティーガーの所に移動し、脚の装甲をポンポンと叩く。


「こいつもティーガーですよ」


「何!」


「主砲は外してありますが、こっちはフレームも弄ってないですし、エンジンもオリジナルです。これならすぐに動かせます」


それを聞いて、ショーウィンドウのトランペットを見る少年のように、目をキラキラ輝かせるおやっさん。

かわいくねぇ。


「……乗っていいのか?」


「はい」


解体ばらすのは?」


「それはダメです」


「ちぇっ」


機内で待機していた朝日を呼ぶと、ベルゲティーガーに降着姿勢を取らせる。

整備用の汎用タラップを持ってきて、車長用ハッチからおやっさんを乗せる。

おやっさんに中を触らないように注意を伝えつつ、十二時まで周辺を走ってくるように朝日に指示を出す。

自分の機体のツインエンジンとは異なる、ティーガーオリジナルのHL230P45、その特徴的な唸るように絞り出す、金切り声にも似たエンジン音が響き渡り、整備場の中を通って街に向かって移動していく。

エンジンの轟音の中でも、おやっさんの歓喜の声が聞こえている。

堪能しているなあ。


さて、その間にもう一度整理しよう。


おやっさんと隊長にはこっちが転移者だとバレた。

まあバレても困ることはないのも分かった。

なので、転移者の能力を使っても問題はない。

こっちの世界の人間は、魔法は使えるが、機体や個人の空間収納を使える者は少ない。

というか、空間収納に接続するための制御盤がこの世界では不足しているらしい。

後でこっちのゲシュペンストを見せて貰う話になったが、どうやら自動工廠の機能不足で機体能力が簡略化されていると思われる。

予備操作盤を渡す訳にはいかないが、格納庫メニューも含めて、何とか少しでも制御盤メニューを使えるように考えてみないとな。


誰が仕組んだのかは分からないが、こっちの人間の戦力底上げ、それが転移者に望まれているんだろう。

過去の転移者がどうなったか、まだ生きている転移者がいるのか、転移者の遺物とか空間収納の中身はどうなったのか、その辺りも調べる必要がある。


それと、こっちの権力者に利用されて抹殺されるのは避けたい。


ここに永住するつもりはないが、周辺の魔物の脅威を排除して、自警団でも処理可能なぐらいまではいることになるんだろう。

なので、戦力底上げも同時にする必要がある。

というか、もう躊躇ちゅうちょなく、やりたい放題戦力底上げしてもいいかな。

魔改造しちゃうよ。


……こんなことになるなら、さっきすぐに隊長たちの話聞いておくんだった。

そうしていたら、建物を設置するのも、天幕張ったりしなくてもよかったのに。


今度から、もうちょっと人の話には耳を傾けるようにしよう。




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