25話
師匠と約束した10万字に到達しました。
区切りの良い所だと前話なんですが、そこで第一章として区切るのにはちょっと物足りないので、もうちょっと進めて第一章にしようと思います。
目が覚めた。
今は何時だろう……。
枕もとの時計を見ようと、もぞもぞと動く。
「お目覚めですか、ご主人様」
静かな敷嶋の囁き声が聞こえる。
それは眠っていたら聞こえなかった位の小さな声で、まだ寝ていたら起こさないようにと、気を使ったのだろう。
だが今はもう目が覚めている。
「ああ、今何時だ?」
「八時二五分でございます」
寝たのが日が変わるちょっと前だったはずだから、八時間以上寝たのか、やっぱりかなり疲れていたんだな。
そして昨日のことは夢じゃなかった。
いやまあ、夢の中なのに寝たり起きたりすることもあるけどさ。
夢じゃないと確かめるために、もぞもぞと上半身を起こす。
すると、ベッドサイドの照明が灯り、敷嶋の顔が見える。
あれ、敷嶋、ひょっとしてずっと横で待機してたとか?
「ちゃんと休息はとったのか?」
「はい、体調は万全です」
「それならいいが、俺が頼れるのは君たちだけだ。全員決して無理はするなよ」
「御心のままに」
頭を下げる敷嶋。
照明のせいか、それとも気のせいか、僅かに頬が赤くなっているように見えた。
そうだ、トイレ行っておかないと。
ベッドから降りようとすると、敷嶋が足元にスリッパを揃えてくれる。
それに足を入れ、トイレに向かう。
部屋と洗面所の間の扉は、朝日が音も無く開けてくれる。
「ありがとう」
それに一礼する朝日。
トイレの扉を開けようとすると、拆釧が先にやってくれる。
そのまま下着をおろそうとするので、流石にそれは断っておく。
というか、中にいられると出る物も出ないから。
何とか外に出て貰うと、ふっと息をつく。
ちょっと全員過保護じゃないですかね。
少し世話の度合いを減らして貰わないと、逆に落ち着かない。
しかしまあ、こうやって用が足せるところを見ると、やっぱり夢じゃないんだなあ。
戻る気配もないし、それ以前に何でこの世界に来たかもさっぱり分からないけど、まぁそんなのどうでもいいか。
現実世界ではどんなに望んでも存在すらあり得なかった人型ロボットを自由に操れて、しかも美しく献身的なメイドたちが周りにいるんだ。
暫く生きて行くだけの物資も十分、恐らく力もある。
だったらそれで十分だ。
俺はここで敷嶋たちと生きて行く。
……あー、でも魔王が降臨して世界が明日滅ぶとか、神と名乗る存在の気まぐれで、この力がいきなりはく奪されるとかはいやだなあ。
なすべきことをなした後、温水洗浄便座の機能と、更に水が流れるかも確認する。
実に素晴らしい。
これこそ、人類の英知が生み出した最高の存在の一つではなかろうか。
身支度をして、外に出ると拆鈴がタオルを手に控えている。
塗れた手を拭いてタオルを戻す。
「シャワーはお使いになりますか?」
「いや、今はいい」
深々と頭を下げる拆鈴。
部屋に戻ると、敷嶋に今後の予定を聞かれる。
確かに、昨日のうちに伝えておくのを忘れたな。
「まずは朝の体操、その後に朝食、十時から野戦整備拠点と仮設宿舎の設置を行う。十二時に昼食と一三時まで昼休憩、午後は各班にそれぞれ割り振ることになるだろうから、昼食までに進捗を見て検討する」
「了解致しました、それでは各部門に通達致します」
室内で軽く体操……あー、さすがに壁の大型モニターで配信動画とかは見れないか。
ネットも繋がっていないし、当然TV放送なんかも無いからメニュー画面以外は砂嵐だ。
仕方がないので、音楽無しで体操をする。
そういや、ピアノ弾ける設定のメイド誰だっけ。
朝日なら弾けそうだけど、ピアノの生演奏で体操するとかちょっと無いわ。
それ以前に装備にピアノだけじゃなく、楽器は無い。
まあバグパイプを装備している軍隊はあるけど、うちはそっち系じゃないし。
「ご主人様、朝食は何に致しましょうか?」
体操が終わると、いつの間にか車内に入っていた月影が聞いてくる。
何があるか聞くと、シリアルやサラダ、ハムやチーズなどの冷たい食事が中心のコンチネンタル、それに温かい卵や肉料理などを付けたアメリカンならすぐに用意できて、和食には少し時間が掛かるとのことだ。
昨日の夜に沢山食べたし、元々朝はあんまり食べられないからコンチネンタルを頼む。
凄くホテルのルームサービスっぽい。
これなら、映画とかで見るベッドで食べるってのをやろうと思えばできるなあ。
まあ、今日は普通にテーブルで食べるけど。
月影が運んできてくれたのは、生ハムのサラダ、バスケットに入ったパン、ハムとチーズの盛り合わせ、フルーツプレートとヨーグルト、それにオレンジジュースという定番だ。
ゲーム中に登場していたレーションやコラボアイテムだけだと、この朝食は無理だよな。
聞くと、パンは地元のパン屋から購入したそうだ。
時間があれば自前でもパンは焼けるそうなので、早く人員と機材の用意をと朝日に詰め寄られてしまった。
確かに焼きたてのパンって美味しいよね。
他の物も、自分が寝ている間に市場を覗いてきて、そこで買ってきたと。
物流は物凄い勢いで回復していて、どんどん物が入ってきているとの報告をしてくれた。
本当にあのヒュドラがネックだったんだな。
でも、出没していたのは町の東側で、物流のメインルートは西側なんだけど、それはどうなっているんだ?
ギルタブリルの両腕が無数の蛇だったけど、もしあれが育ってヒュドラになったのだとしたら、手は二本ある以上、もう一体いる可能性は否定できない。
東にいた奴だけじゃなく、西にもいるのか?
それとも、ギルタブリルが本体だとしたら、本体が死ねばヒュドラも倒れるのだろうか?
ちょっとこれは、町の周囲をもっとしっかり偵察する必要があるな。
食事はとても美味しかった。
設定上は場所が北アフリカなのに、地元のパン屋で購入したというパンはバゲットやクロワッサンでだったけど、あれ、北アフリカのパンってどんなのだ?
そういや、昨日なんとか隊長……あれ、名前何だっけ?……に奢って貰った昼食も、パンはバゲットだったな。
外側はカリッカリなのに中身はもっちもちで、煮込みをすくって食べるととても良かった。
最後にゆっくりとエスプレッソを飲む。
横には敷嶋と朝日が控えており、実に優雅な朝食だ。
だが、その優雅な時間を叩き壊すような大声が、車の外から聞こえてくる。
しかも二つもだ。
「あれは……ロッセリーニ整備長と何とか隊長の声だな」
「フェデリコ隊長ですね」
敷嶋が教えてくれる。
そうそう、それそれ、男の名前とかいちいち憶えてられないよな。
「如何致しますの?」
朝日が聞いてきたが、食事も終わったし、身支度もしているし、外に向かう。
靴を履いて外に出ると、そこでは山桜と押し問答をしている、整備長と隊長がいた。
しかしなぁ、あの隊長がエルフとかないわー。
どう見ても髭でマッチョで、確かに背は高めだけどむしろドワーフだろ。
「おはようございます、いい天気ですね」
「お、タイガ、ちょっと相談がある」
「急ぎですか?」
「あー、うん、できれば早めだと嬉しいんだが」
「でしたら、整備場の隣の空き地しばらく貸して貰えますか。こっちも機体の整備をする場所が必要になったので」
「だったらうちの整備場使えばいいじゃねえか」
おやっさんが口を挟んでくるが、確かに整備場は機材は揃っているかもしれないけど、絶対に入り浸って作業にならないに決まってる。
それに見られたくない物もあるし、それは勘弁して貰う。
結局午前中はこちらの作業があるので、午後まで待って貰うことで話が付いた。
ちょうどサソリに関して聞きたかったし、ちょうどいいといえばちょうどいい。
おやっさんと隊長が戻ったので、使っていいと言われた空き地に移動する。
本当にただの荒れ地で、黄土色の台地に子供の頭ほどもありそうな石がゴロゴロと転がっている。
所々に地面と同じような低い草が生えているが、それ以外は砂と石しかないので、細かい埃が酷い。
野戦整備拠点を作るにしたって、まずはこの埃を何とかしないとな。
そんなわけで、まずはベルゲティーガーのドーザーを使って整地する。
次にベルゲティーガーのクレーンとⅡ号L型で、周囲に目隠しの天幕を張る。
どうせ上からは見えないから、これは四方をぐるっと囲むだけでいい。
「ふむ、広さは十分だな」
中に入って見回すと、そこは大きめの体育館ほどの空間だった。
格納庫メニューを呼び出して、そこから簡易格納庫の設置を選択する。
一番簡単なのはテント型だが、それだと密閉度が足りない。
なので、鉄骨フレームに木材と樹脂を鋼板でサンドイッチした壁板を組み合わせた、断熱性と密閉性に優れた格納庫を選ぶ。
幸い、在庫はまだあるので、ここで使っても問題ない。
今は回収する術がないので、移動したら置いて行くことになるかもしれないが。
地面に設置範囲が表示されたので、天幕の中に納まるように調整して設置する。
すると幅三〇メートル、奥行き二〇メートル、高さ一〇メートルほどの建物が出現した。
正面には巨大な六枚の可動扉があり、ティーガーが直立モードでも問題なく出入り可能で、それどころか、ティーガーとベルゲティーガーとⅡ号L型を一緒に収納しても余裕があるほどだ。
しかも中にガントリークレーンも設置可能であり、更には最初から床と壁の下側はコンクリートで固めてある。
側面の人間用出入口の鍵を開けて、中に入ると、ガントリークレーンを呼び出して設置、一緒に牽引用のハノマーグ重トラクターや修理用工具、予備パーツなどを置いておく。
この広さと大きな扉を開くことが多いのでエアコンが効かないから、送風機を忘れないように設置。
細かい配置は実際に使う埋火たちに任せて、まずはティーガーをここまで持ってきて、修理して貰おう。
格納庫から出て、そのまま天幕の切れ目から外に出ると、既に隣にもう一つ天幕が用意されていた。
そっちに入って、整地されているのを確認すると、今度は格納庫メニューから兵舎を呼び出す。
兵舎の中で手っ取り早いのはテントで、次はカマボコ兵舎だが、どちらも密閉性が悪いので、砂漠にはちょっと向いていない。
いや、普通仮設の兵舎と言えばテントなんだけど、メイドたちをテントになんて住まわせるわけにはいかないので、格納庫と同じ構造の、鉄骨と壁板組み合わせの二階建て簡易兵舎を設置する。
格納庫との大きな違いは、壁や天井の構造材を増やして断熱と遮音効果をアップ、また各部屋にエアコンが設置されているので、快適さが段違いだ。
兵舎型を二つと、食堂や事務室の汎用型を設置、それを複数通路で繋いで、王の字型に配置する。
それに発電施設と水処理、蒸気系の配管を繋げば完成だ。
そんなに長くここに腰を落ち着ける気はないが、それでも最低限の環境は必要だからなあ。
自分の部屋は、後で装甲指揮車を移動させて、隣に停めて置けばいい。
本当は装甲指揮車のように、空間収納を使った格納庫内にある兵舎や施設を出したいんだけど、戻せなかったら大損だからなあ。
捨ててもいい中で一番いい奴を選ぶしかない。
これらの兵舎なら、一応いざとなったら解体して運べなくもないし、最悪エアコンだけでも外していけば後は大体今の文化レベルのはず。
急に建ったのがバレると面倒なので、暫くは外側の天幕はそのままにしておこう。
まあ、おやっさんにはすぐにバレそうだけど。
ここまでで大体一時間、移動と部屋割りに関しては敷嶋に任せよう。
後は補充の人員の選択か。
これも各部署からの希望を出させて、敷嶋に取りまとめさせて、それに従って呼び出すか。
そういや、Ⅲ号とかのこっちのゲシュペンストって、空間収納あるのかな。
あるんだったら、あれこれ隠す必要はないんだけど。
どの程度技術レベルが違うのかとか、逆に魔法で何ができるのかとかもっと調べないと。
あれ、埋火たち魔法教わったのかな?
予定よりも一時間早く終わって時間もある。
魔法も気になるし、ティーガーの様子でも見に行くか。




