27話
昼食はチキンライスだった。
普通に米があるのに驚いた。
まあ、普段食べる粘りの多いジャポニカ種じゃなくて、インディカ種との交雑で生まれたジャバニカ種とか言う大粒種で、パエリアとかに使う奴だ。
なのでお米も炊いたのではなく、ナッツを入れてバターで炒めてある。
それに野菜とトマト、レモンを添えて、焼いた鶏肉の塊を乗せてソースをかけている。
この米だったら、チャーハンとかにしても美味しいかも。
昼も材料は、地元の物だけを使ったそうだ。
「兵舎の食堂で手早く作れるものと考えたので、あまり手の込んだものは作れませんでしたが」
月影が謝ってくるが、宿舎はさっき完成したばかりなんだから、ある物でも良かったのに。
そう伝えると、それでは料理人としてのプライドが許さないそうだ。
なので、美味しかったと労っておく。
実際、手早く作ったとは思えないほど美味しかったし。
なお、おやっさんも呼んでもいないのに一緒に食べて、しきりに旨い旨いと喜んでいた。
その間に、各部署から申請があった追加メンバーを呼び出して、配属する。
ある程度人数が揃ったので、今後は自分が行動する時には、戦闘班から敷嶋か朝日、護衛の山桜か交代要員が必ず同行するようにと念を押された。
月影に宿舎の管理を任せ、ベッドや寝具、部屋の備品などで不足しているものをリストアップさせる。
格納庫は埋火に任せて、ティーガーのメンテナンスが完了したら、他の機体修理もお願いしないと。
フェデリコ隊長が来たとの報告を受けたので、外に出る。
隊長は天幕を見上げて「いつの間に……」とか呟いているが、驚くのはこれからだ。
自重する必要がなくなったので、まずは格納庫前の空き地にハーフトラック一台分のサソリの残骸を積み上げた。
「アルマスコルピオがこんなに……」
なるほど、このサソリ、アルマスコルピオって言うのか。
昨日、東に行って刈ってきたと伝えると、ますます絶句する。
「こいつははぐれたのを一体倒すだけでも、大仕事なのに……いや、こんな大型見たことないぞ」
中にあった中ボスクラスを見て、目がまん丸になる。
あー、これ大ボスとか出したらどうなるんだ。
「これで全部か?」
「いえ、これの五~六倍はありますね」
それを聞いたフェデリコ隊長の顔は見ものだった。
赤から青に変わり、黄色くなってまた真っ青に、どこの信号だと思うような変化だ。
青い顔のまま暫く硬直していたが、突然ガバっと土下座をする。
ああ、こっちの世界にも土下座あるんだ。
「頼む、少しでいいから譲ってくれ! これがあれば、うちの自警団は……」
あーはいはい、戦力底上げ手伝いますよ~自重しませんよ~。
予想通り、アルマスコルピオは魔法金属を取り込んで精製、それを装甲にしているという。
なので、ゲシュペンストの防御力を上げるのには、こいつの装甲を転用するのが手っ取り早い。
うちのティーガーのように、魔導複合装甲にするのは、こちらの技術レベルで無理でも、今の機体の上に鎧を着せるようにアルマスコルピオの装甲を被せるのはできる。
「で、ワシからも見せたいものがある」
そこでおやっさんが口を挟んできた。
昨日うちの埋火たちと改造したⅢ号、それを見せたいとのことだ。
そこでおやっさん側の整備場に――まぁ隣だが――移動して、ハンガーの一つに駐機してある機体の前に行く。
「こいつは昨日ウドゥービちゃんと修復作業をやった機体だ」
埋火な。
「装甲外部に金剛銀コーティング、内部は真銀コーティングをしてある。フェデリコ、こいつを動かしてみてくれ」
「金剛銀に真銀だって!? そんなのどこから……」
そこで気が付いたのか、こっちを見る隊長。
その通り、うちの在庫を提供しました。
理解したのか、慌てて乗り込むフェデリコ隊長。
「あれ、こっちでは一人で乗っているんですか?」
疑問に思ったのでおやっさんに聞いてみる。
「一人で動かせるんだ、問題ねぇだろ?」
「いえ、砲手と操縦手は分けた方が。可能なら車長も乗せて三人の方が余裕ができます」
「そんなん乗ったら、撃破されたら貴重なゲシュペンスト乗りが一気に減っちまう」
あー、ゲームの時みたいにアシスタント雇うわけにはいかないのか。
何だっけ、そうそうヴァーレットだ。
こっちだとヴァーレットと契約するのも大変なんだっけ。
でも、役割分担した方が、そこそこの能力でも十分に活かせると思うんだけどな。
隊長の乗った三号が起動準備完了し、エンジンが始動する。
エンジン回りは何も弄っていないはずなので、昨日聞いたのと音に変わりがない。
ティーガーと比べると格段に軽い音をたて、なめらかな動きで立ち上がる。
装甲が擦れ合って金属のきしむ音が響くが、それもすぐにエンジン音にかき消される。
踵の履帯を降ろし、膝を軽く曲げて走行、そこから急停止してターンすると歩行モードに移行、徐々にスピードを上げて軽くランニングでこちらへと戻ってくる。
目の前に静止すると、上部ハッチが開いて興奮した様子のフェデリコ隊長が顔を出す。
「おい、これ凄いぞ、動きが全然違う!」
「どう違うんでぇ」
「魔力がスムーズに通って、思った通りに動かせる!」
いや、そんなの当たり前だろうと言いたくなるが、隊長の様子に黙って話を聞いておく。
ゲームでは、慣れれば動かすのにそんなには苦労しないはず。
まあ、すぐにアシスタントと契約して、大抵操縦を任せるようになるから、そこの苦労はあまり分からないのかもしれないが。
疑問に思って隊長用のⅢ号を貸して貰ったが、確かにこれは酷い。
魔力が全然通らない。
というか、個人用にセットアップしてないな、これ。
新品のゲシュペンストは、最初に個人用に調整する必要があるのだが、操作盤が無いからそれが出来ないわけだ。
結果として、今みたいに魔力伝導経路に蓋がされている状態で、動きがぎくしゃくしてまともに運用なんて無理だ。
よく今までそれで戦っていたなあ。
そんな状態の機体を動かせる能力が必要だから、ゲシュペンスト乗りが貴重なわけか。
初期設定さえすれば誰でも動かせるはずなのに、過去の転移者はそこを伝え忘れたか、それとも忘れられたのか。
恐らく埋火は、改造のついでに初期セットアップもやったんだろう。
隊長向けの調整はまだでも、最低限動かせるようにはなる。
それが更に真銀コーティングで、魔力伝導率が向上すれば、さっきの隊長の反応になるってことか。
やるべきは、まず内部に関しては、最初考えていた基本フレームの強化と真銀コーティング、エンジンのチューンに加えて、初期セットアップと個人設定、それに操縦手と砲手の分業体制の構築か。
外部はアルマスコルピオ装甲の取付と、重要部分は金剛銀装甲への換装ぐらいでいいだろう。
興奮している隊長が、またハッチを閉じて機内に戻り、今度は整備場の反対側へ向かう。
そこは周囲を土で囲った細長い空間で、奥には的がある。
ああ、射撃場か。
砲撃を試してみるんだろうけど、主砲は弄ってないぞ。
だが、予想に反して隊長は主砲を構えず、直立すると右手を前に突き出した。
「何をするんです?」
「まぁ見てろ」
おやっさんがニヤニヤ笑いながら答える。
仕方がないのでじっと見ていると、隊長のⅢ号は右手を静かに持ち上げる。
「ウィンドスラッシュ!」
掛け声と共に右手を前に振り下ろすと、直後、的とその後ろの土囲いが真っ二つに切れた。
「……今のは?」
「あれがあいつの風魔法だが……ちーっとばかし威力が強くなり過ぎだ」
おお、すげぇ。
攻撃魔法だよ攻撃魔法。
百メートル以上も離れた場所の的、ぶった切るとか超絶カッコいい。
絶対にあれはやってみたい。
結局、猛烈に興奮した隊長が戻ってきて言うには、魔法の伝導と増幅率自体も相当上昇したらしい。
全部の機体をこれに改造してくれとまくし立ててきたので、対価に何が払えるか聞いたら、怒られた犬のようにしゅーんとしてしまった。
いや、何もぼったくるつもりはないんだけど。
「そんな事言っても、ろくに払える物なんて無いぞ」
「価値があるかどうかはこっちが決めます。もう分かっているでしょうが、私は転移者だからこっちの常識を知りませんし、お金も無いですから。ああ、魔法の使い方と魔力の抑え方も教えて下さい」
「そんなんでいいのか?」
「智慧ってのは、何物にも代えられない貴重なものですよ。私は自分の持っている技術と道具を渡す、そっちはこっちの知らない智慧を渡す。良い交換ですよね」
パンストに無かった魔法関連を教われるのなら、インゴットの数個やゲシュペンストの改造や調整ぐらい安いもんだ。
アルマスコルピオの装甲だって、山ほどあるから少しぐらい譲っても痛くも痒くもない。
「よし契約成立だ」
そう言って隊長が右手を出してきたので、その前に釘を刺しておく。
「細かい条件はうちの敷嶋と詰めて下さいね」
「あ、ああ」
一瞬不安そうな顔になったが、しっかりと握手を交わす。
まずは改造済みのⅢ号に、自分の予備操作盤を繋いで、フェデリコ隊長用に個人設定を行う。
「あ、これ、パラメータ読めるじゃん……」
しかも隊長の個人パラメータまで確認可能で、よく見たらステータス増加やスキル習得に使えるボーナスポイントが結構残っている。
話を聞くと、どうやらステータスがあるのは知っていたが、それを確認するのはたまに巡回して来る商人に結構な額を払ってやって貰うしかないそうだ。
他人の商売の邪魔をするのも悪いが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
隊長の希望を聞いて、ボーナスポイントを割り振っておく。
同時に機体の特性も、希望通りに調整して、速度と魔力蓄積量重視にする。
その間に、おやっさんとうちの整備班がアルマスコルピオの装甲から外付け装甲を作ったので、その取付を行う。
ついでに、収納に余っていた機械式弓を渡す。
「これはサービスです」
「何だ、これは」
「魔力を矢として打ち出す弓です。Ⅲ号なら使えるでしょう」
完成した隊長用ゲシュペンストは、魔力効率が上昇したのでエンジン自体はそのままだが、基本的な機動性と操作性は向上し、今までの比較的スマートな姿から、外付け装甲によって西洋騎士を彷彿させる姿となり、手には機械式弓を持っている。
射撃場に小型アルマスコルピオの残骸を置いて、機械式弓で撃って貰った所、見事に貫通した。
バレンタインに乗っていた二人にも来て貰って、機体のセットアップを行う。
元がそれほど強い機体ではないが、それでも一人が火の魔法、もう一人が土魔法を使って、小型アルマスコルピオの装甲を破壊するのに成功した。
「自警団は他にはいないんですか?」
「後は見習いと怪我人だけだな……」
渋い顔の隊長が答える。
だが、初期設定をすれば、見習いでもちゃんと動かせるはずだ。
倉庫に眠っていた予備のバレンタインと、元は隊長用だったⅢ号J型に初期設定を施し、見習いたちを乗せてみる。
「無理です、今まで指一本動かせたことないんですから」
尻込みする見習いだったが、実際に乗ると、すぐに動き出してそのまますっ転ぶ。
慌ててバレンタインの自警団員が機体を抱え起こすと、目をキラキラ輝かせた見習いの子が、ハッチから出てきた。
「動いた、動いたんですよ!」
それを聞いて、他の見習いたちも興奮して、早く乗せろ乗せろと大騒ぎになった。
機体が足りないから、これなら砲手と操縦手のペアを組ませるのも余裕だろう。
新しい機体は都市の自動工廠を使えばいいらしいが、今は生活必需品を優先しているのと、ゲシュペンスト用原材料が不足しているので、暫く時間が必要だ。
その間に見習いたちの訓練と機体の整備、バレンタインの強化プランの作成と実施、それに隊長の機体もまだまだ強化できるはずなので、その方向性の見極めが必要だな。
戦えると分かれば、自警団に入りたい人間ももっと増えるはずだ。
それに怪我人も治療の手伝いができるかもしれない。
ゲーム通りなら、ポーションを飲めば瀕死からでも回復可能だ。
それが効くかどうか試してみるのもいいだろう。
ひょっとしたら、自動工廠のプログラムを確認して、もっと強力なゲシュペンストの製造だって可能かもしれない。
Ⅲ号ベースなら、七・五センチ砲を搭載した突撃砲型や、一〇・五センチ榴弾砲装備型がさほどの変更をせずに作れるはずだ。
これらの砲はうちに現物があるから、それを搭載したっていい。
バレンタインだって、一七ポンド砲を搭載したアーチャーに改造したり、二五ポンド砲を搭載したビショップに改造が可能なはず。
一七ポンド砲は非常に優秀な砲なので、戦闘能力は大幅に向上するはずだ。
その代わり、機体は後ろ向きになってしまうが。
後は魔法と魔力の抑え方の習得か。
これができれば、もう一度ガンブット基地へ攻め込み、そこを拠点として確保、更に東へと進む。
そして、東にあると言う陸上戦艦を手に入れる!
ここまでで第一章です。
ここで終わると打ち切りエンドみたいですね。
師匠に言われた10万字ですが、その量で起承転結もしっかりつけて話の盛り上がりとドラマを盛り込むことだというのが実に難しい。
緊急事態宣言明けから急に忙しくなるのが確定したため、暫く書けなくなりそうです。




