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23話

飯テロってほどでもないですが、ご注意を

装甲指揮車マーシャルに移動すると、その横に野営用の折り畳みテーブルに白いクロスが掛けられて並んでいる。

敷嶋が事前に月影に人数が増えたのを連絡したのと、自分が全員で一緒に食べたいと強く主張したために、ビュッフェスタイルにしてくれたらしい。

装甲指揮車マーシャルの中だと、テーブルと椅子が足りないからな。

月影と望月が給仕できないのが不満そうだったので、今後幾らでもできるだろうと言ったが、全ての食事の面倒を見るのが仕事と言われて、嬉しいんだけど、ちょっと困った。


月島と望月を引き連れてテーブルに向かうと、横一列に並んだメイドたちが優雅に礼をする。


「ああ、楽にしてくれ」


すると、すっと横から月島が、淡いピンク色の液体が入ったグラスを差し出してくれる。

それを受け取ると、全員がグラスを手にして、こちらを見ている。

やばい、これ何か言わないとならない奴だ。


「今日の諸君の働きには大変感謝している。明日以降もまた忙しくなると思うが、今日はまずたっぷりと食べて、この後は風呂に入って、ゆっくりと英気を養って欲しい。乾杯!」


『乾杯!』


全員がグラスを持ち上げて唱和する。

そのまま一口飲むと、柑橘類のような甘酸っぱい匂いが鼻に広がる。

あっさりとしているが、どこか奥の方に独特の渋みがあり、それがむしろアクセントになっている。


「ロゼか」


「はい、近くの都市で長年作られているロゼと聞いております」


「上品でいい味だ。詳しい話は後で聞くが、まずは料理を食べよう」


グラスをテーブルに置くと、望月がきれいに前菜を盛りつけた皿を渡してくれる。


「すまない」


「いえ、任務ですから」


「望月も遠慮なく食べていいんだぞ」


「ご奉仕が私の存在意義ですので」


下手に断ると逆に彼女たちを傷付けるか。


「じゃあ、宜しく頼む」


「はい」


小さく微笑む望月。

続いて月影が料理の説明をしてくれる。


「本日は極力地元の食材を用意致しました。前菜は生ハムのグリッシーニ、こちらはハニーマスタードを添えてお召し上がりください。田舎風パテは豚が入手できませんでしたので、バターソテーした鶏レバーと羊になります。申し訳ございませんが、魚介類は入手できませんでしたので、在庫からスモークサーモンのハーブ仕立てを。ドライフルーツはデーツになります」


生ハムをグリッシーニと呼ばれるスティック状のパンに巻き付けたものを取り上げて、口に運ぶと、生ハムの塩味とそれにマッチしたハニーマスタードの甘さ、そしてグリッシーニのサクっとした食感が食欲をそそる。

パテは本来、一晩氷の中で寝かす必要があるのだが、この短時間で、しかもこんなに大量に作り上げるとは、本当に大変だっただろうに。


「いえ、調理器具が宜しかったので」


そう言って謙遜する月影。


パテの外側はベーコンか。

しっかりとしたベーコンで包まれた、ホロホロと崩れそうで崩れないパテが舌の上でとろけていく。

羊の独特の臭みが、ワインと黒コショウと……いや、これはマジョラムか?

かすかな甘い香りがするスパイスによって見事に打ち消されており、更に羊の脂のざらつきも完璧に消えている。

スモークサーモンは某社のコラボ缶詰―メーカーコラボで缶詰をゲーム中に出すのが不思議だったが他にサバやオイルサーディンもあった―だが、オイル漬けでローズマリーとにんにくが効いていていい具合だ。

そういえば、いわしかば焼きとかさんまかば焼きやさばみそもあったはずだから、和食が食べたくなったら助かるな。

最後に、赤黒い色をした細長い豆のような形をしたデーツ―なつめやしのことだ―を一つ手に取って、口に運ぶ。

ドライフルーツだが、噛むとぐにぐにとした弾力があって、黒糖のようなあっさりとした甘さが口の中に広がり、疲れた体を癒してくれる。

なるほど、これは砂漠地帯でおやつ代わりにするのが良く分かる。


前菜を一通り口に運ぶと、皿を望月に渡して、他のメンバーの元へと足を運ぶ。


一言敷嶋に声を掛け、まずは警備に残ってくれた山桜だ。

敷嶋が長巻でサソリを切ったと聞いて、次からは必ず同行させるように強く言われた。


「警備がいない所で怪我でもされたら立つ瀬がありません」


確かにな。

次からは警備班を同行させるようにすると約束した。

必ず、と念を押される。


次いで、整備中隊の元へ移動する。

敷嶋がその間に温かい料理の皿を手渡してくれる。


「子羊の香草焼きです」


普通は骨付きのラム肉で作るのに、皿に載っているのは骨から外し、食べやすいように一口サイズのロール状にしてある。

塩とハーブだけで味付けしたような感じなのに、中からしっかりとした旨味と脂の甘味が染み出してきて、しかもとても柔らかく、あっという間に口の中から消えてしまう。

これは食べやすくていいな、幾らでも食べられそうだ。


埋火たちは今日一日ずっと整備をしていただろうに、まだまだ元気なようだ。

ティーガーを酷使したから、明日見て欲しいと伝える。

他にもアプデ前の戦いで損傷した機体も、順次修理していく必要がある。

整備班はやることが一杯なので、ねぎらっておかないと。


「でしたら、野戦整備拠点、特にガントリークレーンの設置許可が欲しいであります」


埋火が要望を出してきた可動式の一六トンガントリークレーン―折り畳み可能な門型のクレーン―は、修理用車輌に搭載されているクレーンよりも重量物を運べて、それこそゲシュペンストの上半身とかを吊り上げるのも可能なので、本格的な修理には必要となる。

更に輸送用のハノマーグ重トラクターにも溶接機材などを搭載しており、格納庫が使用できないなら、ここに整備拠点を作るのは必要だろう。


「だが、それだと三人だけでは足りないだろう?」


「そうですね、可能なら整備中隊全員呼んで欲しいであります」


まあ、そうなるな。

できるだけ対応すると答えておく。

まぁそうなったら、恐らく他の部門も全員呼ぶように言われるのが目に見えているけど、将来的には仕方ないかな。


山桜も護衛として付き従うようになると、整備拠点の護衛には別な警備中隊のメンバーを呼ぶ必要があるはずだし。


ああ、そうそう、埋火に風呂のことを聞くのを忘れていた。


確認すると、元々あった施設を修復して使っているそうだ。

ただ、広い敷地に様々な温度の浴室や運動場、サウナなどを備えた古代ローマのテルマエな感じではなく、かといって中東などにあるハンマームと呼ばれる蒸し風呂でもないとか。

多分、個人邸宅の遺跡かなんかじゃないかという話だ。

後は、お湯張りと清掃は自分たちでやる必要があり、それが面倒で滅多に使われないとか。


話しながら、敷嶋が持ってきてくれる料理をつまむ。

基本的にこういったビュッフェスタイルでは、一か所に固まらず、多くの人と話して、温かい料理と冷たい料理を一つの皿には入れないで、新しい皿に交換するのが基本ではある。

特にこうやってメイドたちの要望を聞く必要がある時は、向こうからではなくこちらから出向いて話しやすくしないと。

メイドとは言っても、彼女たちも戦友で、命を預ける相手だ。

主人であっても、いや自分が主人であるからこそ、彼女たちの考えを聞く必要がある。

そう思って、少しずつ食べては全員の所を移動する。


そうやって一人一人に声を掛け、二周りもするとデザートに移っており、見事なフルーツの盛り合わせとジェラートが盛られている。

どうやら、これが一番人気みたいだ。


自分はコーヒーを貰いに月影の所に戻る。

企業とのコラボアイテムではなく、これも地元で入手したという。

ワインや羊に鶏、デーツなんかは地元で作っているんだろうけど、コーヒーって南米とかそっちで作っているようなイメージがあるんだが。


「コーヒー発祥はエチオピアですよ?」


と思ったら、月影に訂正された。

エチオピアって、地中海からスエズ運河を通って紅海の出口近くにある内陸国だよな。

東側が魔物どもの領地になっていると聞いたけど、南下して砂漠を通る物流ルートが生きているのだろうか。

コーヒーは高額と月影が言ってたので、多分物流ルートが生きているとしても、大量には運べていないのかもしれない。


そうそう、隊長から貰った報奨金は千リブラ札で、月影に渡したのが百枚あったそうだ。

十万リブラ、これがどの位の価値かと言えば、基地にあるⅢ号ゲシュペンストが三百万リブラ前後で取引されるらしい。

時代にもよるがⅢ号戦車の生産コストは、大体三・三万ドルぐらいだから、一ドルが百リブラぐらいか?

ついでに、一ドルが三~四円ぐらいで、この当時の一円の価値は今の二〇〇倍ぐらいになるから、えーっと幾らだ?


「全体で六~八〇万円相当ぐらいでしょうか」


計算に悩んでいると、敷嶋が一瞬で答えてくれる。

なるほど、手元に残した半分と合わせて、大体一五〇万前後ってとこか。

隊長も言ってたが、確かにゲシュペンスト持ちの傭兵に払う懸賞金としては安いな。

ゲシュペンストがヒュドラ相手で損傷でもすれば、その修理費だけで飛んでしまうどころか足が出てしまう。

弾薬や燃料代も考えたら、そりゃあなかなか傭兵も来ないか。


ただ物流が止まっていたにも関わらず、食料はずいぶん安かったそうだ。

ワインを樽で、肉と小麦もずいぶんな量を買い込んだが、まだ半分以上残っていると。

ひょっとしてこの町の自動工廠、ゲシュペンスト以外にも色々作っているのか?

例えば紙幣とか食料とか。

設計図と素材を入れたら作れる万能型だったら、ティーガーの部品とか助かるんだけどな。

何とか調べられないかな。


そんなことを思っていると、全員の食事と片付けも終わったようだ。

埋火に風呂へと案内される。




えーっと、あのー、何で全員いるんでしょうか?

あ、そうか男湯と女湯が分かれているのか。


埋火が表扉の鍵を開けて中に入ると、そこはちょっとした土間になっていて、更にその奥にある扉へと進み、電気を点ける。


「どうぞ、こちらであります」


「すまない」


土間で靴を脱いでから扉をくぐると、そこは壁に小さな照明が幾つかある薄暗い部屋で、左右の壁際にはずらっとベンチが並んでいる。


「休憩室……かな?」


「ここで服を脱ぐでありますよ」


そう言うなり、埋火が真っ先にメイド服を脱ぎ始めた。


「えっ! 男湯は」


続いて望月がスパーンと勢いよくメイド服を脱いで、あっという間に全裸になると、そのままこっちに近寄ってきた。


「ご主人様のお手伝いする」


「ええっ」


男湯を探してキョロキョロするが、湯気が出てきている奥への入り口以外他に扉は無い。

その間に、こちらも全裸になってタオルで身を包んだ月影と望月が左右の手をホールド、敷嶋がこちらの服を脱がし始めた。



あー、これ昼間と同じ展開!



結局、なす術もなく全身脱がされて、そのまま捕まった宇宙人のように奥の部屋へと拉致エスコートされた。

奥も同じように壁に小さな照明があるだけで、更に激しく湯気が立ち昇っているので、隣にいる敷嶋の顔もよく見えないぐらいだ。

だが、真ん中辺りに湯気の発生源がある模様で、そこが浴槽らしい。


敷嶋が壁際にある洗い桶を取ると、そこにお湯を汲んでこっちの体を洗ってくる。

敷嶋が自分の体を洗う間は、月影と望月がホールドして、それを繰り返して、逃げようにも逃げられない状態で浴槽へと連れていかれた。


八角形の深めの浴槽に、綺麗なお湯がなみなみと張られている。

ゆっくりと入って手足を伸ばすと、その気持ちの良さに思わず息がこぼれる。


「いい湯だな」


「はい」


隣に入った敷嶋の声がする。


あー、今日は疲れたし、もうどうでもいいや。


どうせ湯気でよく見えないし、いやでも、肌色が目の前をちらちらするのはなんでしょーか。


見ない見ない。

いや、見えない見えない。

むぅ、これが噂の大山脈か。

黒エルフ隊長もこんな感じなのかな。

ってなんか背中に押し当てられてる!

むにょんむにょんしてる!


やばいやばい、このままだと主砲の仰角が!

砲弾装填されちゃう。


ここは逃げないと!


だが、抵抗もむなしく、また敷嶋たちにホールドされて、壁際の石造りのベンチへと連れていかれた。

もちろん最後の抵抗ラインとして腰にタオル巻いていますよ。


これだけは死守せねば。

同じく敷嶋たちのタオルも……あれ、無い。



やーめーてーーーたーすーけーてーーーー。






のぼせた。

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