22話
「はぁ~疲れた」
周辺に転がっていたサソリの残骸を一通り回収して、ティーガーや自分の収納に入れて戻ってきても、まだギルタブリルは燃えていた。
途中、死んだふりをしていた、さっき鋏と尾だけを切って放置していたサソリが突然襲ってきたが、こちらが手を下す前に、敷嶋が収納から取り出した長巻で真っ二つにしていた。
サソリの砲弾代わりの針を手にして、ティーガーのつま先に座り込む。
この戦闘が赤字なのか黒字なのかはまだ分からない。
弾薬はかなり使ったし、機体の整備にも結構かかるはず。
このサソリの外骨格が金剛銀相当で、それを精製できるなら、まぁちょっと赤字ぐらいか?
少なくともこの針はかなりの純度があるみたいだ。
こんなのを外骨格だの砲弾に使うなんて、この辺りに金剛銀の鉱脈でもあるのかね?
もし見つけられたら黒字かな。
「後は南北の残骸を回収して、帰るだけか」
「ご主人様、その件ですが少々懸念が」
「どうした?」
現在朝日と八嶋が遠回りをして、素材回収に南側の台地に向かっている。
道が崩れてしまったので、こちらから向かうのは難しいのと、動くものが見当たらないのがその理由だ。
途中、ふらふらしている小型と遭遇したが、朝日に持たせた七・五センチ砲で五〇〇メートルから余裕で倒せたとの報告も上がってきている。
特に問題はなさそうだが……。
「南台地の敵が想定以上に多いとの報告が上がっております」
「えっと、それはまだ兵力が残っているのか?」
「いいえ、ネーベルヴェルファーでほぼ壊滅しましたが、収納に残骸が入りきらないと」
まじか。
どんだけいたんだよ。
「じゃあ、回収用にトラックでも出すか」
「そうして頂けると助かります。それともう一つ」
今度はどうした?
「ティーガーがやや不調で、可能なら自走するのは避けた方が宜しいかと」
「まあ、あれだけ戦闘やったし、それも仕方ないか。朝日のベルゲティーガーは使えるのか?」
「はい、牽引には問題ございません」
「じゃあ、トラック出して……あー、南の台地にどうやって行けばいいんだ?」
ちょっとネーベルヴェルファー、大盤振る舞いし過ぎたか。
あれこれありつつも、結局ベルゲティーガーに追加装備で付けて置いたドーザーが役に立って、トラックが行き来するぐらいにはなった。
なので、ある程度の不整地でも移動できる、前輪がタイヤで後輪が履帯のいわゆるハーフトラック、その中でもネーベルヴェルファーを購入した時にセットでついて来たSd Kfz・11を呼び出す。
これなら荷台にある程度を載せると同時に、ネーベルヴェルファーを一門牽引して、更に収納に回収した残骸を入れるのも可能だ。
これで十分かと思ったら、それでも残骸が回収しきれずに、さっきのハーフトラックを装甲化したSd Kfz・251を追加で送る羽目になった。
ホント、どんだけいたんだよ。
ハーフトラックの運転は拆釧と拆鈴に任せて、八嶋機をこちらに戻し、小楯を一トン軽装甲ハーフトラックのSd Kfz・250に乗せて、北側の残骸回収に行かせる。
更に八嶋には、回収が終わったら、北東の低地の切れ目の先を偵察するように指示を出す。
但し、万一まだ敵が残っていたら、すぐに戻ってくるようにと付け加えて。
ティーガーも戻ってメンテナンスしなきゃならないし、背中は冷や汗でびっしょりだし、喉は乾いたし、お腹も減ったから、さっさと帰りたい。
個人収納から取り出したコラボアイテムの炭酸飲料を一口飲む。
「あー、何と言うか冷えてて飲みなれた味なのはいいんだけど、やっぱり時代的にペットボトルはあわないよなあ」
「お疲れですか?」
両手で鷹の目の残骸を持った敷嶋が戻ってきた。
「さすがにちょっと疲れた。飲むか?」
飲みかけのペットボトルを差し出すと、硬直する敷嶋。
あれ、嫌だった?
「あの、使用人がご主人様の飲みかけを頂くとか、そんな恐れ多いことは……でも……」
「あー、くれるなら僕に頂戴!」
そこに八嶋が飛び込んできて、ペットボトルをかっさらう。
そして腰に手を当てて一気飲みをする。
「ぷはー! たくさん働いた後だと炭酸が染みる~~」
あれ、八嶋って僕っ子じゃなかったよな。
いつの間にそんな設定生えた?
というか、八嶋も個性が出てきたか。
そういや、さっき崖から飛び降りた時とか、定型文章以外も随分喋っていたか。
そんなことを思っていると、八嶋が敷嶋に説教されている。
メイドはもっとおしとやかにとか、ご主人様の物を勝手に持って行ってはいけないとか、報告を最優先にしなさいとか……ああ、報告は気になるな。
ペットボトルをもう一本取り出して、一口飲むと、それを敷嶋に押し付ける。
「えっ、あの……」
「飲みかけですまないが、一息つくといい。それより八嶋、報告を」
困惑した表情でペットボトルとこちらの顔を交互に見ている敷嶋という、珍しいものが見られたのはともかく、八嶋の報告によれば、敵はもういなかった。
そして、道の先には港の跡があって、数隻の船の残骸が転がっていたという。
ただ、今はそれを調べる余裕はないな。
調べるのは、今度しっかりと準備をしてからだ。
そろそろギルタブリルの残骸も冷えたようなので、個人収納にしまう。
だが、さっきあれだけ中身を出したのに、これでほぼ一杯になった。
これ以上回収するものが増えるようなら、またトラックを呼ばなきゃならないけど、今の格納庫にしまえない状況だと、トラックばかりは困る。
さっきの移動を考えたら、次はあのスリー・ポインテッドスターのエンブレムで知られている会社の中型兵員輸送車L1500A Kfz・70とか、ちょっとした移動に便利なバケツ自動車辺りにしたいところだ。
格納庫メニューが使えたら、個人収納やゲシュペンストの収納と連動させて残骸の回収なんて、あっという間にできたはず。
この辺りも何とかなるかなぁ。
一通り回収は終わったのと、ついでに各機に補給も行ったので、ティーガーを戦車フォームに変形させ、朝日のベルゲティーガーで牽引して、夕日の中帰路につく。
夕日か、今何時だ?
腕時計……は、付けてなかったな。
「敷嶋、今何時だ?」
「はい、一九時一二分です」
もうそんな時間か、そりゃあ疲れもするわ。
って、一九時?
夕日になり始めた所だから、一八時くらいかと思ってたわ。
「推定ですが、現在の地域は北緯三〇度前後と思われます」
なるほど、それで日の入りが遅い……ん、北緯三〇度って鹿児島と大差ないぐらいじゃないか?
へー、北アフリカ沿岸よりも沖縄の方がよっぽど南にあるんだ。
そうだ、アウグスタ市に残っている月影たちに戻るのを知らせないと。
夕食の準備をしてくれているだろうし。
そう思ったら、とっくに敷嶋が伝えてくれていた。
ガンブット基地跡からアウグスタ市までは、大体今の速度だと一時間ちょっと。
着くころにはすっかり暗くなっているかな。
何だかんだで、二一時近くなってから装甲指揮車やドラゴンワゴンを止めてある整備場へとたどり着いた。
整備場入り口に、誰かが仁王立ちしているのが見える。
月影たちの出迎えかと一瞬思ったが、あのシルエットはおやっさんか、ちょっと残念だ。
「なんでぇ、ずいぶんボロボロの上、機体も増えてねぇか?」
「ああ、仲間と合流したんですよ」
「仲間……仲間ねぇ」
胡散臭そうにこちらを見るおやっさん。
まあ、どのゲシュペンストや車輌に乗っているのも、メイド服の女の子たちだ。
アシスタント、いやヴァーレットだったか、要するにこっちの世界だと魔力によって維持されている妖精みたいなもので、一人と契約するのも大変なのに、複数いるので呆れられているんだろう。
それとも、人間の仲間のいない奴だと思われたか?
ネットの向こうには友達やメイド愛を語り合う仲間も、沢山いたぞ。
一応リアルでもあったことあるぞ。
……やめよう、空しいし、疲れた。
「そうだ、おめぇんとこの整備長、なんつったっけ、あの変わった名前の、ウルデリーコみたいな」
「埋火ですか」
「そうそう、そのウドゥービちゃんに風呂の鍵渡しといたから、後で入んな。今日は貸切にしといてやる」
風呂があるのか!
おやっさんが名前を全然覚えてないのは置いといて、風呂は気になる。
まずは食事が先だが、次は絶対に風呂だ!
装甲指揮車の高級ホテル仕様の風呂もいいが、所詮ユニットバス、足を延ばしてゆっくりするのにはちょっと足りない。
というか、長さはいいんだけど、深さが足りない。
「そん代わり、明日はティーガー乗せろよ」
ああ、どうやら出かける前の、戻ってきたら乗せるという約束を念押しするためだけに待っていたみたいだな。
子供か。
そう言うと、手を振りながらおやっさんは整備場の奥に去って行った。
それよりご飯だ、お腹が空いたぞ!




