21話
ようやく戦闘終わりです。
なのに師匠、日本刀の説明も長いよ!
基地跡地に一つだけ残っている建物、それをズームアップする。
ハッとする敷嶋。
「了解しました、武装はいかがいたしましょうか」
「近接武装Bだ!」
「了解」
機体後部の空間収納庫から大盾、馬上槍、二本の大太刀が出現、対ヒュドラ戦と同じように、左腕に盾、右腕に槍、背部左右に大太刀を装着する。
盾を前に構えると、馬上槍を小脇に抱え込んで突撃体制を作る。
丘の上のガンブット基地に向かって機体を加速させる敷嶋、サソリの群れが追い縋ろうと迫ってくるが、それら全てを置き去りにして全力で進んで行く。
ガンブット基地がある台地へ向かう坂を上って行くと、地面からボコボコとサソリが出てきて、こちらに尾を向ける。
「足止めする気か、朝日、聞こえるか、朝日!」
『……こちら朝日、現在砲撃続行中ですわ』
「残っている弾はあるか、あったらガンブット基地に叩き込め!」
『はい!? 一射分だけですが……』
「いいか、座標を送る。そこに向かって大至急叩き込め!」
『り、了解しましたわ、ご主人様』
操作盤から地図の座標を確認、それを朝日機に転送する。
その間に足止め用のサソリがこちらに針を撃ち込んできた。
敷嶋が華麗な操作で、軽々と攻撃を避けつつ距離を詰めて行き、微修正をして一体を馬上槍の先におびき出す。
右手の馬上槍が硬質な金属音を立てて突き刺さり、そのままサソリを地面に縫い留める。
槍を振ってサソリを抜こうとしたが、予想以上に深く刺さっており、余計な時間をかけたくないのでそのまま馬上槍から手を放し、右手で大太刀を引き抜く。
他のサソリからの針を左手の盾で受け流し、急加速して接近、太刀を薙ぎ払う。
サソリが太刀を受けようと鋏を掲げたが、それを切断し、そのままの勢いで尾も断ち切る。
まだ動こうとするサソリを蹴り飛ばし、坂の下に転がして急坂を登って行く。
だが、こちらを足止めするためのサソリは次々と出現し、なかなか前に進めない。
「まだか」
『弾着、今』
そこに朝日からの通信が飛び込んでくる。
特徴的な長く尾を引くネーベルヴェルファーの絶叫が空を切り裂き、ピンポイントでちょっと前に我々が盾にしていた三階建ての建物に降り注ぐ。
直後、猛烈な閃光と轟音が広がり、続いて天まで届くような爆炎が立ち昇り、建物が崩れて行くのが見えた。
「よし、よくやった朝日!」
『後で沢山褒めて頂きますわよ、ご主人様』
「分かった」
「それは朝日だけでしょうか?」
敷嶋が僅かにこちらを振り向き、不満そうな顔を見せている。
やばい、これ地雷だ。
今までのどんな敵と対峙した時よりも恐ろしさを覚え、背中に冷や汗が流れる。
選択を迷っても、間違ってもダメだ、ここはこれしかない!
ニッコリと満面の笑みを浮かべて、悩んだことを隠しつつ答えを口にする。
「まさか、今回は君も含め全員のお陰だ。戻ったら当然みんなをたっぷりと褒めないとな」
「……楽しみにしております」
「ああ、だが今は目の前のボスを倒す時! 行け、敷嶋!」
「了解!」
何とか地雷を踏むのは免れたか。
後のことは後の自分に任せた。
今は目の前の敵を倒す!
周囲のサソリどもは爆発の衝撃か、それともボスからの指示が途絶えたのか、動きを止めてフラフラしている。
それを蹴散らして、一気に坂を登り、まだ爆煙がたなびいている建物に向かう。
だが、がれきの中に何かが蠢いているのが見えた。
「いた!」
更に接近しようとした瞬間、爆煙の中から何かが飛び出した。
咄嗟に左手の盾を構えると、その何かが激しく衝突する。
更に次々と飛来する物体を右手の太刀で切り払う。
ハンマーで厚い鉄板を叩くような鈍い音が何度も響き、目にも止まらぬ速さで影のような物が盾を連打する。
そのせいで、これ以上近寄ることができない。
「何だ、これは」
敷嶋がじっと目を凝らすと、嫌そうな表情を浮かべた。
「……確認しました、触手です」
「触手プレイとは趣味悪いな!」
一度戻った触手が鞭のようにしなり、先端が音速を超えたのか乾いた破裂音が響く。
サソリに触手とか、そんなのちょっとダメだろ。
「敷嶋、動きが読めるか?」
「見えないわけではありませんが……割と隙が無いですね」
「じゃあ、触手はこっちで何とかする。構わずに真っ直ぐに突っ込んでくれ!」
「了解しました」
敷嶋がアクセルを踏み込むと、触手が次々と邪魔をするように向かってくる。
左手の盾を横に薙ぎ払って、複数の触手をまとめて弾き飛ばし、真っ直ぐに伸びてくる触手には右手の太刀で時には切り飛ばし、時には方向を変え、無理やりに道を開く。
近付くに従って、触手には一定のリズムがあるのが見えてきた。
四方八方から飛来するように感じていたが、それは触手の先端が自在に動いているからであって、どうやら付け根の部分は左右の二か所のようだ。
敷嶋に接近する速度に緩急をつけるように指示を出す。
具体的なタイミングはお任せで大丈夫だ。
というより、任せておいた方が上手く動いてくれる。
触手が大きく動いた瞬間、敷嶋は機体を一歩大きく踏み込ませ、次いで小刻みに左右にステップを踏むように動く。
最初の踏み込みにタイミングを合わせて、触手はこちらに向かって来ていたのが、目測を誤って機体の少し前に着弾する。
そこを狙って再び踏み出すと、左脚前に着弾した触手を踏み潰す。
更には右手の太刀で、交差するように振ってきた触手の束を切り飛ばす。
数本の触手の先端が宙に飛び、残りがひるんだように元へと戻る。
次いで踏んだ触手の根元へ、左手の盾の先端を突き出す。
何かに盾を払われた感触があったが、そのまま勢いをつけて斜め下へと突き込んだ。
盾の先端にあるスパイク部分が地面に突き刺さったので、盾から左腕をパージする。
両手で太刀を構え、右側だけからとなった触手を切り払おうとすると、下から何かが突き上げられたのが見える。
咄嗟に右膝を前に出し、膝の装甲で受けると、硬い物同士の鈍い衝突音がした。
その時ようやく爆煙が晴れ、向こうの姿が見えるようになった。
「何だ、こいつは」
膝とぶつかっていたのは、サソリの巨大な鋏であり、ティーガーと変わらぬほど巨大な胴体に繋がっている。
それは想定内だった。
しかし、本来頭があるはずの部分には、鎧をまとったような人型の上半身が生えており、両の腕は無数の蛇になっている化け物がいた。
人型とは言ったが、顔の中央に二つの大きな目があるが、その左右にも三対の目が並んでおり、鼻や口は見当たらない。
「データベース上はギルタブリルとの類似性が指摘されています」
ギルタブリル、メソポタミア神話の蛇人間か。
混沌の女神ティアマトが生み出したというが、あれは胴体と脚は鳥じゃなかったか?
こっちはサソリがベースで、それに蛇が触手のようになっている。
「だから類似性か」
「はい、特定は困難です」
ゲームの時に登場したモンスターのデータベースはあるが、ヒュドラはともかく、今回のサソリとこのギルタブリルもどきは、それとは異なっている。
今後もどれだけ当てになるかは分からないな。
向こうの右手側は、蛇の頭をこちらの脚で踏み付けられ、胴体部を盾で地面に縫い留められている。
それに対して左手側は多少数を減らしたが、鎌首を持ち上げて威嚇している。
胴体から突き出した巨大な鋏のうち、一つは未だにこちらの右膝と力比べをしている。
さて、どうしたものか。
鋏を抑え込むように膝に力を入れ、両手で持ち直した太刀を右側に立てて八相の構えに移行する。
ギルタブリルが右手の触手を素早く振ってくるのを右手で受け、左手だけの片手打ちに移行して、素早くギルタブリルの頭へと振り下ろす。
だが、意外にも中央の目の下が左右に開き、太刀を受け止めた。
「しまった⁉」
ゲシュペンスト用の太刀も、素材は金剛銀や緋炎鋼であるが、基本構造は日本刀の古刀と変わらない。
よく言われる粘りのある芯鉄を硬い皮鉄で包むという造り込みは、新しい時代の作り方であり、古刀の時代は不純物が多かったので、それ自体が硬軟取り混ぜた材質になっていて、丸鍛えと呼ばれる全てが同じ素材から作り方をしていた。
異なる鋼を組み合わせる作りは、寒冷地などで素材の違いから折れやすくなる欠点があるので、酷暑の砂漠から極寒の東部戦線と、温度差の大きい戦場で戦う必要があるゲシュペンストには向いていない。
そこで、金剛銀と緋炎鋼をベースとした合金を作り、それを巨大な刀の形にして、高温で全てを焼き入れした後、適切な温度で焼き戻し、焼刃土を塗って刃の部分だけに硬化処理をするために再焼き入れを行う。
この焼き入れと焼き戻しの温度を探るのが、最大の問題だった。
何せ、現実世界には金剛銀も緋炎鋼も存在しないから。
更には、巨大な動力ハンマーを作ったり、ゲシュペンストにハンマーを持たせて相槌を打たせたりと試行錯誤を繰り返した。
これで強靭で温度差にも強く、簡単には折れない巨大な太刀が生まれたが、それでも今のように左右を固定され、棟――刀の後ろ側――から大きな力を受けると、硬い刃の部分とそれ以外の柔らかい部分の差から、曲がりやすくなる。
ギルタブリルの顎らしき箇所に力が入り、下手にここで抵抗すれば太刀がダメになる。
そこで左手を太刀から離し、一歩後ろに飛び退る。
膝から鋏が離れたことで、ギルタブリルが左右の鋏を交互に突き出し、咥えていた太刀を頭を振って遠くへ捨てた。
鋏のワンツー攻撃に右の触手攻撃を織り交ぜてくるが、左側を盾で固定されているので、ギルタブリルが大きく動けない。
「喰らえ!」
左側背部からもう一振りの大太刀を抜くと同時に、右手の手首だけを反して、手首内側から焼夷手榴弾を取り出し、ギルタブリルへと投げ付ける。
一つだけではなく、続いてもう一つ。
最初の一つを鋏で受け、切断しようとするギルタブリル。
しかし、その瞬間に信管が作動し、内部のアルミニウム粉末が発火し、ギルタブリルの上に燃えたまま降り注ぐ。
もう一つの焼夷手榴弾を触手で払いのけようとしたが、数千度にも達する高熱を受け、反射的に体が縮こまり、胴体の下へと転がって発火した。
胴体の下から猛烈な火炎が立ち昇り、強固な金属製外骨格すらも貫通した。
さっき太刀を咥えていた箇所から、甲高い絶叫が響き渡り、火を消そうと体を震わせ、鋏を振り回す。
だが、焼夷手榴弾の炎は燃え尽きるまで消えることはない。
左手の大太刀を両手で持ち直し、大上段に振りかぶる。
「とどめだ!」
そのまま化け物の頭の天辺から、真っ直ぐ下に振り抜いた。
一息の後、燃えながらギルタブリルは左右に分かれ、それぞれが倒れると動かなくなった。
「ふぅ……」
太刀を突き付けながら、ギルタブリルの動きを見下ろすが、どうやら完全に死んだみたいだ。
「これで終わりか?」
「確認致します」
敷嶋が朝日や八嶋とも連絡をして、周囲の状況を調べている。
「周囲、動態反応ありません」
それを聞いて、ほっと息をついて太刀をしまう。
ギルタブリルから盾を引き抜き、飛ばされた太刀も拾い上げる。
まずは朝日たちと合流して、残骸と鷹の目を回収しないとな。
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