17話
残りの数体はボスと思われるサソリが動きを止めた直後、混乱してその場をウロウロし始めたので、簡単に仕留めることができた。
「これで終わりか?」
照準器から目を離して、敷嶋を見る。
敷嶋が口を開きかけた瞬間、八嶋の声が飛び込んできた。
『敵影です! 南方の台地から接近する多数の物体あり!』
ガンブットの南には航空基地、北には港があり、谷を縫うように細い道が繋がっている。
南側の道は、一度谷に下った後、そこから東西に続く四〇メートルほどの高さの断崖の裂け目を蛇行しながら登っている。
その先は南の断崖の方が高いので先は見えないが、記憶では台地になっているはずだ。
だが、今はその断崖の縁に多数のサソリが並んで、こちらに尻尾を向けているのが見える。
「回避、急げ!」
嫌な予感がして指示を出すのと同時に、敷嶋がアクセルを踏み込み、ティーガーが素早く建物の裏に回避運動を行う。
八嶋機も加速し、石積みで囲われた塹壕の中に身を隠す。
その後を追いかけるように、サソリの尻尾から何かが発射された。
「攻撃確認!」
さっきまでティーガーがいた場所に、次々と何かが突き刺さり、隠れた建物の壁にも当たる硬い音が響いている。
八嶋機が隠れた石積みにも着弾し、人の頭ほどもありそうな石が跳ね飛ばされる。
稲妻状になった塹壕を八嶋機が膝をついて地面を這いながら距離を取ると、一〇・五センチ榴弾砲を構えようとする。
だが、そこに目掛けてサソリからの攻撃が次々と飛来、慌てて砲を引っ込める。
こちらも動くに動けず、機体の近くに刺さっている物体を見ると、人の肘から先ぐらいもありそうなサイズの針だった。
「自前で徹甲弾作って撃つのか、あのサソリども」
「どんな生態系なんでしょうか、気になります」
確かに、金剛銀並みの装甲に身を包んで、しかも金属のダーツを尻尾から撃ち出してくるとか、何を食ったらそんな体になるんだか。
ゲーム中で出てきたサソリよりも、よっぽど質が悪いぞ。
針なんだし、少し撃てば弾切れになるかと思ったんだが、どうも尽きる様子がない。
崖際にずらりと並んでいるのを見ると、時々前後が入れ替わっているみたいだな。
「あれはまさか桶狭間」
「織田信長の鉄砲三弾撃ちですか。あれは大坂冬の陣屏風図にあるように、先頭に射手がいて、後ろ二人が弾込めと鉄砲の受け渡しをしていた可能性がありますが」
「いや、そうじゃなくて」
敷嶋のマジぼけに突っ込んでおく。
まさかあの崖の上、何列にもサソリが並んでいるのか?
もしそれが一斉に降りてこられたら、ちょっとヤバい。
「威力から計算して、本機の装甲を貫通する可能性は小数点以下ですが、関節部含む可動部、レンズ部、履帯に連続して被弾すると損傷の可能性ありです」
だよなあ。
それ以前に、八嶋機はティーガーほど装甲が厚くないから、やられる可能性がある。
今は建物周辺に掘られていた溝の中を通って、着弾地点から移動しているが、このままでは身動きが取れない。
まずはこっちの砲弾が効くかどうかだな。
「八嶋、一〇・五センチ榴弾砲はまだ使えるか?」
『確認致します……申し訳ございません、砲身に複数の被弾確認、貫通はしていないので、発射は可能だと思われます』
「いや、暴発したら危険だ、安全のためにしまっておいてくれ」
『御心のままに』
建物の陰から砲身を出して狙いたいが、下手に出すと狙い撃ちされる。
一旦北側の谷に降りるか?
それとも、シールドを出してそれに身を隠しながら撃つか。
「北側からも敵接近中!」
「くそっ、考える暇も与えてくれないのか!」
北を見ると、四キロほど先の谷の切れ目から、ワラワラと何かが大量に出てきたのが見える。
「この地点自体が罠だった可能性大」
「ティーガーの機体性能を過信しすぎた。ガンブットは最初から見張られていたのか」
前門の虎後門の狼というか、前門も後門も蠍でサソリのサンドイッチ状態だ。
恐らく最初からガンブット周辺にあのサソリどもは伏せていて、今回の自分のようにのこのこと近付いていたのがいたら、包囲殲滅するつもりだったんだろう。
正面のは囮だったのか、それとも三方から囲む予定がズレたのか、いや、アウグスタ市のゲシュペンストレベルなら、正面からでも叩けると判断していたか。
……まて、アウグスタ市の方に一〇キロほど戻れば、今我々がいる台地と南の台地は繋がっている。
ひょっとすると後ろも抑えられているかもしれない。
ここで下手に後退すると、待ち伏せを受けるか、そうでなくてもアウグスタ市まで追撃を受ける可能性がある。
後退しつつ、突出した敵を少しずつ減らすのも一つの手だが、その時に後ろに回った部隊から攻撃を受けると再包囲されて物量で潰される可能性がある。
サソリなんて踏み潰すのがいいと思ってたのが、逆にこっちが潰される側になろうとは。
あーあ、こんな時こそ広域殲滅魔法とか欲しかったわ。
南の敵が来るまでもう暫くあるから、シールドで身を守りながら北の敵に突っ込む手もあるが、崖で手間取っている間に集中砲火を受けるだろう。
向こうの射程はどの位なのか、少なくともさっき……あ!
「敷嶋、鷹の目が撃墜された時の距離を確認!」
「了解、現在算出中……鷹の目高度一〇〇、相対距離四五〇」
「そこまで撃ってこなかったのは、見つけられなかったのか、それとも届かなかったのか……少なくともさっき正面から来た奴らは一六〇〇を割っても撃ってこなかった」
南の崖から八嶋の隠れている地点までは約千メートル、自分たちがいる場所は一五〇〇、撃ち下ろしてきてこれがギリギリなのか?
とすると、ここは北の谷に降りる一手か!
そうすれば南の敵は地形が邪魔になって撃てないはずだ。
もし撃てたとしても、距離が開けば威力は落ちる。
射程が足りなくなる可能性もある。
ならば、こちらから北の目標に接近して迎撃、その隙に八嶋は北側に移動して……。
「ご主人様、今が朝日を呼ぶ時です」
そうか、朝日に別動隊を率いさせる、それだ!
だが、コレクションしている機体は格納庫に一杯になっているが、今すぐに動かせるゲシュペンストは少ない。
前回の最終決戦でかなりの車輌が大破して、整備待ちの状態だ。
ここでせめてティーガーがもう一輌とは言わないが、パンターかⅣ号駆逐ゲシュペンスト、もしくはナースホルンでもあれば。
いや、ティーガーあるじゃないか、あれを使う!




