16話
冒頭は面倒くさいミリオタのうんちく語りなのですっ飛ばして構いません、むしろ「……問題は~」まで飛ばすのを推奨します。
とは言え、ようやく戦闘です。
TZF 9d照準器を覗き込む。
本来のティーガーの照準器は9bかcだが、主砲をKwK36から43に変えた時点で、照準器もそれ用にしないと意味がない。
いくらゲシュペンストの砲弾の初速が早いといっても、それでもある程度の山なりの弾道を描くのは仕方ない。
正確な照準を行うには、目標とのできるだけ正確な距離を測るのが必要だ。
通常は相手の大きさが分かれば、それで距離が割り出せる。
照準器には ∧ ∧ ∧ △ ∧ ∧ ∧ の山型が描かれている。
それぞれの山の先端は四シュトリヒ離れており、また中心の山の底も四シュトリヒ、左右の山の底は二シュトリヒである。
シュトリヒとは、円周を六四〇〇等分した角度で、一シュトリヒ角は一〇〇〇メートル離れた時に一メートルに相当する。
つまり、一〇〇〇メートル先にある物体がこの山と山の間にぴったり収まれば、その物体の幅は四メートルとなる。
なので、相手の大きさが事前に分かっていれば、何シュトリヒあるか分かれば、目標の大きさ÷シュトリヒ×一〇〇〇で簡単に距離が算出可能だ。
但し、今回は相手の大きさが推定でしかない。
幸いなことに、鷹の目が落ちる前に送ってきてくれた、精密な地図がある。
それを見ると、ちょうどここから二キロ地点に分かりやすい地形があり、敵がこの位置に来た時点で砲撃を開始する予定だ。
照準の距離を二〇〇〇に合わせると、照準器の中で山が下がって行く。
その分だけ砲を上向きに修正するために、俯仰角調整ハンドルを回す。
念のために、僅かに目標よりも遠目に位置をセットする。
細かく上半身を旋回させ、目標の地形の横の道に合わせるが、照準器は顔の中心にセットされているが、主砲は右肩にあるために、その分のズレを修正する。
高低差がなく、真正面から向かってくる目標を撃つだけならこれでいいが、今は高台から撃ち下ろすので、敵の移動速度と高低差も視野に入れて、一度遠目にセットした砲身をやや下げる。
砲弾は既に43式徹甲榴弾を選択済みで、この距離なら三〇度の角度で一三二ミリの装甲を貫通することが可能だ。
史実ならこの距離で、当時ドイツが敵対していた国が実戦投入していたあらゆる戦車を貫通可能だった。
それどころか、三五〇〇メートルでも西部戦線に投入された全ての戦車を正面から撃破可能だったとの検証結果が出ている。
……問題は、パンストだとそれでも通用しない相手がいるってことなんだよな。
パンストは、戦車戦をシミュレートするゲームではなく、戦車をモチーフとしたゲシュペンストで、ファンタジー世界で苦戦しながらあがいていくゲームで、下手するとガチガチに強化したゲシュペンスト部隊でも簡単に全滅してしまう。
無双ゲームでは決してない。
基本シナリオが敗北前提となっており、プレイヤーがどんなに頑張って敵を押し返し、前線を押し上げても、プレイヤーたちが次の戦場に移動すると、あっさりと今まで確保していた地点が敵に奪われ、戦線が後退している。
アプデ直後に飛び交うネタとして、「上層部は無能の集まりだ!」とか「最大の敵は戦線を維持できない上層部だ」なんて話が出るぐらいで、その苦境からどうやって自分たちの力で逆転していくか、そのカタルシスを楽しむ所が大いにあった。
今回のアプデは恐らく、最後は全てを敵に囲まれて補給物資も戦力も限られた帝都などの拠点で、人類最後の大反攻を行う予定だったのだろう。
それで勝利すれば、そこから再び人類拠点を押し上げて行く戦いが続き、敗北すればリセットをして大戦開始時に巻き戻す予定だったんじゃないかな。
ともかく、この世界でも少なくとも人類は数少ない拠点に押し込められ、しかも徐々にそれを失いつつある。
それを押し返す戦い、いやぁパンスト魂が唸りますな。
「目標二二〇〇、速度そのまま」
そこに敷嶋の冷静な報告が飛び込んでくる。
「ありがとう、敷嶋。聞こえたな八嶋、こちらは二〇〇〇で発砲開始する」
『了解です、こちらも準備完了、いつでも撃てます。というか早く撃たせて下さい』
気が逸っている八嶋に落ち着くように笑いかけて、双眼鏡で敵影を確認、目標位置に近付いているのを再確認すると車内に体を滑り込ませ、照準を覗き込む。
主砲はさっき設定した通りで問題ない。
すぐに先頭の敵が照準内に飛び込んでくる。
……今だ!
主砲発射、砲口から毎秒一〇〇〇メートルを超える速度で43式徹甲榴弾が発射され、やや山なりの弾道で目標へと吸い込まれていく。
こちらの発砲を見たのと同時に、八嶋機の一〇・五センチ榴弾砲が火を噴いた音が聞こえる。
僅か二秒で目標へ到達し、命中、先頭を走っていたサソリがつんのめるように動きを止めた。
「命中!」
その間に次弾が装填され、発射準備が整い、僅かに砲を横に動かし次の目標へ発砲。
これも同じようにサソリの動きを止める。
直後、八嶋機からの砲弾が後続に弾着した。
『二体の間に着弾、両方ともひっくり返った模様』
「宜しい、どんどん撃て」
八嶋の歓声に指示を返す。
どうやらこちらの砲弾は、従来のサソリと比べて丸くなった背中部分が、上からの砲撃に対してはちょうどほぼ直角に命中する形になっているみたいだ。
そのせいで、威力を最大に発揮している。
続けて三発の砲弾を発射した所で、弾倉交換が発生した。
徹甲榴弾で効果が出ているので、弾種変更はせずにそのまま自動交換を行う。
数秒のラグの後、新しい砲弾が装填され、次の目標へと砲身を向ける。
先頭の五体が急停止したのと、後方で爆発が続いているので、僅かに隊列が崩れたが、それでも続くサソリの群れは止まったのを踏み潰しながら進んでくる。
「止まりそうもないな」
距離が詰まったので照準の距離を僅かに短くして、次弾を発砲する。
八嶋機も弾倉交換をした模様で、発砲を再開している。
次々と砲弾を送り込み、先頭の一列が全て壊滅し、後方の小型もいい感じで八嶋からの攻撃でひっくり返ったり、動けなくなっている。
「いいぞ、このまま叩き潰す!」
「了解、残り目標は二列目の大型六体、三列目の小型四体」
照準器は見える範囲が限られている。
本来は車長が周囲の状況を確認するのだが、今は自分が車長と砲手を兼任しているので、代わりに操縦席の敷嶋が、周囲の見張りと広範囲の目標の観測をしてくれている。
残りの数はかなり減った。
小型は今のまま八嶋に任せておいていいだろう。
やや距離が詰まった目標に向けて、照準の距離を調整して、左端から砲撃を加える。
八嶋の砲撃も同じように後列の小型を狙っていく。
左の二体を倒して、次の一体に砲身を向ける。
「ん、ちょっと形が違う?」
照準に捉えた一体は、今までよりも丸みが強く、そして明らかに一回り大きい。
「あれがボスか」
形状の違いに、一瞬トリガーを押す指が躊躇しかけたが、そのまま押し込む。
だが、ボスと思われる一体に向けて放たれた弾が、ひときわ大きく盛り上がった背中に当たると、甲高い音と共に空へ向かって跳ね上がった。
「はぁ!?」
「目標、依然として行動中」
もう一発同じ目標に対して撃ち込むが、やはり同じように弾かれた。
「高速徹甲!」
砲弾を、タングステンの芯を軽金属の弾体で覆って軽量化、高初速とした硬芯徹甲弾に変更する。
初速が秒速一一三〇メートルに向上したが、弾頭重量自体は一〇・四キロから七・三キロへと減少しており、その結果として距離が延びると急速に威力が低下する欠点がある。
それでも二〇〇〇メートルで、一五三ミリの装甲を貫通する能力を持っているので、この距離なら問題ないはず。
「喰らえ!」
照準の中の目標に向けて高速徹甲弾を叩き込むと、僅かな放物線を描いて目標へと吸い込まれる。
「どうだ!」
しかし、やはり同じように砲弾は弾かれた。
「マジかよ!」
「目標、着弾位置に僅かな凹み発生」
敷嶋からの冷静な報告を受けて、血が上った頭が少し冷える。
「多少は効いているってことか」
「はい、金剛銀に近い強度があると推測します」
天然の金剛銀並みの装甲だって!?
それが本当なら乱獲しなきゃ。
どんな生き物か分からないが、向こうからお宝がやってくるんだ、見逃す手はない。
ここは課金砲弾を容赦なく使う場面だ。
「弾種、粘着榴弾」
パンストにおける課金要素の一つ、課金砲弾は、本来そのゲシュペンストの砲では撃てない特殊砲弾を使用可能とする。
粘着榴弾もその一つで、史実では一九四〇年代にイギリスにおいて、傾斜装甲などによって砲弾が弾かれてしまうのに対抗して作られた砲弾である。
弾頭が目標に命中すると圧し潰されるように広がりながら変形し、内部の炸薬が爆発して広い範囲で圧縮衝撃波が装甲を介して伝達する。
装甲の無い空間に衝撃波が伝播した際に、エネルギーの一部は反射され、衝撃波と反射波が交差した点で装甲が剥離し、高速で飛び散って内部を損傷させる。
簡単に言えば、砲弾が平たく潰れて、その衝撃で装甲が車内に飛び散るというものだ。
しかし、内部にケブラーやセラミックを張った複合装甲に対しては、大幅に威力が低下するため、現在ではイギリス以外の国では対戦車用としてはあまり使用されていない。
というのも、現在の戦車砲では、タングステンや劣化ウランなどの重金属で作られた針状の砲弾に矢羽根を付けた弾体に、発射時のガス圧を効果的に伝えるための装弾筒をつけた、装弾筒付翼安定徹甲弾と呼ばれる砲弾が主流になっている。
だが、この砲弾は旧来の内部に溝を切ったライフル砲から発射して高速回転させると、弾道が不安定になるので、溝の無い滑腔砲が主流となっている。
それに対して、粘着榴弾は回転させることで、命中した時により接触面積が大きくなるので、この砲弾を使用するならライフル砲が望ましい。
なので、世界中の主力戦車が滑腔砲を採用しても、イギリスはライフル砲を使い続けており、更には装弾筒付翼安定徹甲弾を使うために砲弾側に回転を抑える素材を取り付けるほどであった。
これぞ英国面。
そして、愛機の主砲である8・8センチ KwK36は普通にライフリングが切ってあるので、今回のような硬い相手には英国面に墜ちることも厭ってはいけない。
なお同様の砲弾として、成形炸薬弾があり、それはティーガー用の砲弾としてもあるが、こちらは装甲を突き破るのにエネルギーを使用するので、今は向いていない。
……多分。
その間に、装填が完了した合図が表示されたので、照準を改めて目標に向ける。
課金砲弾を使用したことで、照準内部の表示も変更され、それに合わせて主砲を動かす。
上半身の回る速度がやたら遅く感じて、額から汗が滴る。
照準の中心に先ほどのサソリを捉え、しかも先ほど砲弾が弾かれた凹みが見える。
相手の速度と距離を素早く計算し、未来位置に向けて発砲する。
すーっと吸い込まれるように凹みに砲弾が向かい、一瞬後サソリが大きく体を跳ね上げ、その後にガクッと動きを止めた。
「やった!」
「お見事です、ご主人様」




