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15話

アウグスタ市から十分に離れた地点で、Ⅱ号L型(ルクス)とそれを操作する八嶋を呼び出す。

うん、追加で呼び出しても魔力が減った感じは全然しない。

というか、さっき埋火が魔法使った時が異常だったんだよな。


「八嶋、お呼びに応じて参上致しました。ご命令を!」


ティーガーと比べると大人と子供ぐらいの差があるⅡ号L型(ルクス)が横に出現し、その上部ハッチから八嶋が背筋を伸ばして元気に応答して来る。

ルクスは山猫の意味だし、やっぱり猫っぽい八嶋が操るのがピッタリだな。

そう思っていると、敷嶋も隣の補助席に移動してきて、ハッチから身を乗り出す。


「八嶋、あなたは我々の先行偵察を命じます」


「敷嶋姉さま!」


敷嶋を見た瞬間、満面の笑みを浮かべる八嶋。

うんうん、設定上八嶋は敷嶋の妹分で、フレーバーテキストでは敷嶋に憧れているって書いておいたっけ。

それがちゃんと反映されているんだなあ。

何でこの世界に来て、彼女たちも実体化しているのか分からないけど、変な設定にしなくて良かった。

何人か、メカフェチとかガンマニアとかハッピートリガーとか書いた記憶が蘇ったが、せいぜいその程度でピーキーなのを書いた覚えはないので、まぁ、多分大丈夫大丈夫……きっと大丈夫。


「今は作戦行動中なので、姉さまではなく、メイド長と呼びなさい」


「はい、敷嶋最先任メイド長、失礼致しました!」


「宜しい。ではそちらに作戦内容を送るので、確認なさい」


「はい!」


こちらに頭を下げると、素早く機体内に潜り込む八嶋。

敷嶋も目礼して、ハッチから操縦席へと戻る。

片手で軽くスカートの端を押さえて、体を横から滑らせるようにシートに腰掛けようとするが、その前にくいっと腰をひねる所がハッとするほどセクシーで、思わず目が行ってしまう。

こちらの視線を感じたのか、小さくくすっと笑う敷嶋。

む、誘われたか。


「敷嶋、八嶋を二キロ先に先行させ、更に鷹の目(ファルケナウゲ)の中継ポイントをⅡ号L型(ルクス)に設定、ガンブット基地周辺の敵影を調べてくれ」


「了解、八嶋、道の右一〇〇メートルを二キロの間隔で先行、ご主人様の目となりなさい」


『八嶋了解、時速四〇キロを維持して先行します』


八嶋の機体が道を外れて、右側の荒れ地に踏み込んでいく。

荒れ地と言っても、この道と並行して何本もの轍が通っており、約一〇〇メートルの位置にも細い道のようになった場所がある。

そこを進んで行く八嶋機。


「出します」


「ああ」


八嶋が前進すると、鷹の目(ファルケナウゲ)が八嶋機を追い越し、周囲の映像が操作盤に映し出される。

大体時速四〇キロで進めば、ガンブットまでは一時間もかからないはずだ。

鷹の目(ファルケナウゲ)に操作が届くのは最大一〇キロ、速度は時速一〇〇キロ程度出るので、全速で飛行するとあっという間に操作範囲から出てしまう。

なので、先行した八嶋機を中継させて操作範囲を伸ばし、更に蛇行して飛行させてより広範囲を探るように設定してある。


ハッチから身を乗り出し、周囲を双眼鏡で見ているが、右前方に動く八嶋機以外に動くものは確認できない。

鷹の目(ファルケナウゲ)の映像からも、同様だ。


「む、風が出てきたな」


砂ぼこりが遠くで舞い上がったのを見て、首のマフラーを鼻まで上げて、ゴーグルを下ろす。

しかし、この服本当に凄いな、これだけ刺すように日差しがきつくて、気温が高いのも分かるけど、ちょっと魔力を通すだけで全然暑くない。

リアルの世界でも欲しいわ、これ。


砂ぼこりがますます大きくなる。

砂は厄介だ、ゲシュペンストのあちこちに入り込んで、機械の故障に繋がる。

一応、ティーガーのフィルター類はさっきのチェックの際に砂漠用に変更してあるし、Ⅱ号L型(ルクス)は前に使用したのが砂漠戦だったので、こちらも大丈夫なはずだ。

アプデ前の戦場が冬の欧州だったので、他の大部分の装備は冬仕様だから、使う時は気を付けないと。


『前方に移動物体複数確認!』


そこに八嶋から通信が飛び込んでくる。


「何っ!」


じゃあ、さっきの砂ぼこりはそれか?

急いで操作盤の映像を確認する。

そこには鷹の目(ファルケナウゲ)からの映像が表示されているが、八嶋機が指示を出し、映像が切り替わる。


「あれは……」


周囲を石の壁で囲まれ、内部は碁盤の目状に道路が交差しているガンブット基地が見える。

その崖の下、東側の方に多数の砂ぼこりが見え、そこがズームされる。

そこには先に突き出した一対の大きな鋏、左右で素早く動いている多数の脚、多くの関節を持つ硬そうな胴体、そして威嚇するように上に突き上げられた尾を持つ、黒みがかった緑色の巨体の姿があった。

しかも複数の。


「サソリ……ですか」


「そのようだな」


その尾の一つが光る。


「撃ってきた!?」


直後、操作盤の映像が途切れた。


「信号途絶、撃墜されたと思われます」


その間にも直接観測を続けている八嶋からも、敵情が詳しく入ってくる。

八嶋に敵に発見されないよう、同時に射撃もしないように注意して観測を続けるように指示を出す。


『敵サイズ、かなり大きいです』


パンストで登場していたサソリは、尻尾を除いて長さ三メートル程度で高さは五〇センチ程度しか無かったから、踏み潰すのが一番手っ取り早かった。

だが、報告からすると隊列の前方に並んでいる複数の個体は、通常の倍近いサイズがあるという。

もし後方の小さいのが通常の三メートルサイズだとしたら、大きいのは踏み潰すにはちょっと高さがあって難しい。


『特に大型は形状が異なり、背中の丸みがかなりあります』


まじか。


『目標までの推定距離五千、推定移動速度時速一〇キロ、大型およそ二〇、小型四〇体!』


これは結構な数だ。

このままアウグスタ市までやって来られるとちょっと面倒だ。

ここで引くよりは叩けるだけ叩いた方がいいだろう。


まずは八嶋と合流して直接確認だな。


敷嶋に路上を急ぐように伝える。

八嶋が進んでいた道は、ガンブット基地の右側を迂回するように二〇〇メートルほど離れた所を通っており、断崖になるやや手前、恐らく塹壕の跡と思われる場所に八嶋機が伏せているのが見える。

それに対して自分たちが進んでいる舗装路は、基地の真ん中を通り過ぎている。

基地と言っても、囲いの中にある茶色の建物はほとんどが破壊されており、ほとんどががれきの山だ。


だが、そんな廃墟の端の方に、司令部か何かだったのか、三階建てくらいの高さの原形を留めた薄茶色の建物があるのが見える。

土レンガを固めて漆喰を塗った他の建物とは違い、コンクリート作りのように見えるので、壊れずに残ったのだろう。


「敷嶋、あの大きな建物の後ろに止めてくれ」


「了解しました」


ティーガーが停止すると、急坂となって下っている道に沿って双眼鏡を向ける。


「かなりの斜面だな」


「平均勾配四%、最大勾配は六%程度です」


敷嶋がざっと目算で斜度を出してくれた。

一〇〇メートル進むのに四メートル上がる程度だから、さほど大したことがないように思えるが、現代日本の道路構造でも、普通道路で設計速度が時速六〇キロの場合、最大勾配は五%までだ。

なお、CMでカメラワークによって天にそそり立っているように見える橋として有名になった江島大橋だが、あれが最大六・一%なので、大体同じぐらいとなる。

この時代のパワーが足りない車だと、結構登るのに苦労するだろうな。


坂の先を見ると、確かにパンストで見慣れたサソリとは異なる、ずんぐりした丸みを帯びた大型が多数視界に入ってくる。


「まだちょっと遠いな」


「はい、有効射程外です」


ティーガーの砲なら、四キロ先の目標にでも当てろと言われれば当てられないことは無いし、通常徹甲弾でも大抵の戦車やゲシュペンストは撃破するだけの威力があるのは分かっている。

だが、まだ向こうは平地にいるから、坂に差し掛かって速度が落ちてから撃つ方がいい。

だとしたら、八嶋には何の兵器を使わせるか。

搭載している二センチ機関砲の有効射程は一二〇〇メートルだが、その距離で撃破可能なのは非装甲の相手程度で、ちょっとしたゲシュペンスト並みの装甲を持つサソリを倒すのは無理だ。


こんな時、ゲシュペンストは戦車と違って、武装交換が可能だ。

もちろん肩に搭載した主砲のような武器は無理だが、両手がある以上持つこともできるし、背部のバックパックや空間収納庫ゲペックカステンのマウントに取り付けるのも可能だ。

しかも、重量と衝撃吸収さえ可能なら、どんな種類でも扱えるように武装は共通化されている。

むしろ共通化されていないなら、人型兵器の意味はない。

人間と同様に手で扱える武器なら、敵から奪ったのでも、仲間から渡されたのでも何でも使えるのが大きな強みであるはずだ。


これがパンスト開発チームの基本コンセプトの一つで、実際にゲームに実装されている。

初期バージョンでは他人の武装を奪うのも可能だったが、βテストで、苦労して入手した武器を他人に奪われて戻ってこないのはプレイを続ける意欲が削がれるとの声が非常に多かった。

開発チームはそれも戦場の常だと考えていたが、流石に反響の大きさに改善、プレイ中に他人に貸したり奪ったりするのは可能だが、セッション終了後は自動的に所有者に戻るように設定された。

なおセッション中に武器弾薬や燃料の売買や譲渡機能も、同時に実装されている。


なので、史実でもⅡ号戦車の車台に搭載された一〇・五センチ榴弾砲――改造された車輌はヴェスペ(スズメバチ)と呼ばれた――をベースとした砲を取り出す。

設定上、これならばⅡ号L型(ルクス)でも扱える。

榴弾砲は砲身長が短く、装薬量が少ないので低初速で射程も短い代わりに、軽量で反動も少ないので、軽ゲシュペンスト用の大威力装備として使われる。

特に、アートルムス帝国(ドイツ)の一〇・五センチ leFH18は通常の榴弾――内部の火薬が爆発して破片を飛び散らせる砲弾――以外に、徹甲榴弾、成形炸薬弾、発煙弾、焼夷弾、照明弾など多彩な砲弾が使用可能で、更には戦車用の弾頭に筒を被せた対戦車用砲弾まであるぐらいだ。

もちろん、本来使用するはずの砲に比べると威力は格段に落ちる。

また、砲撃の仕方も、ティーガーなどの主砲は砲弾の初速が早いので、弾丸が直線に近い状態で飛翔するが、榴弾砲は斜め上に打ち上げ、目標に向けて自由落下させることで初速の足りなさを補っている。

砲弾が山なりに飛ぶので、建物などを越えて撃つのも可能で、安全な位置から攻撃ができる。


八嶋機を呼び寄せると、砲と砲弾を渡し、こちらが射撃を開始したら敵の後続に向けて砲撃を開始するように伝える。


「お任せください」


自信満々に受け取った八嶋だが、演算能力はそれなりに高いので大丈夫だろう。


さて、戦闘開始だな。




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