14話
待つ間に、操作盤を弄って各メニューを確認する。
少なくとも格納庫機能は生きているし、中の物資や機材を取り出すのも可能だ。
だが、ゲームのように格納庫に移動して、直接操作をするのは出来ない。
ティーガーを格納庫に戻そうとしたが、それも出来ない。
メイド服などを作った簡易工房や、機体改造用の自動工作機械を使おうと思ったら、格納庫から出す必要があるのか。
発電施設や制御装置も取り出す必要があるから、しっかりした拠点を確保するまでは保留だな。
それまでは、ドラゴンワゴンに加えて装甲修理回収機を出した方がいいか?
装甲修理回収機は、旧式のゲシュペンストから武装を外し、大型クレーンやウィンチに加え、簡単な修理機械を搭載した機体で、戦闘中に擱座したゲシュペンストを回収し、可能ならばすぐに簡単な修理を行って戦線に復帰、もしくは安全な後方へと移送させる機体だ。
そのため、戦場である程度の攻撃を受けても大丈夫な装甲を持ち、ゲシュペンストと同じ機動力で移動可能で、五〇トン級のゲシュペンストでも抱え起こして牽引出来るだけのパワーが求められている。
それを可能とするために、フレーム自体は旧式でもエンジンを強化したり、両腕が非常にパワフルになっていたりするのが多い。
うちの装甲修理回収機は、メイン機体のティーガーを稼働させるために共食い整備をする事も視野に入れて、ティーガーベースのベルゲティーガーだ。
流石にエンジンや装甲まで同じにする魔改造は諦めたが、それなりに強化はしてあるので、少々の被弾には耐えられるはず。
まあ、実戦投入する機会がなかったから、性能は未知数なんだよな。
取り敢えず、ドラゴンワゴンに搭載してある簡易修理機械だけで様子を見るか。
一応、ティーガーの空間収納庫や、他の車輌の収納庫、それに個人収納は出し入れ出来るのは確認済みだ。
でも、格納庫への転送は不可能なので、収納庫同士の移動も出来ない。
要するにそれぞれの収納が一杯になったら、それ以上物が入れられなくなってしまう。
ティーガーと自分の収納は結構一杯だったはずだけど、幸い自分の収納の大部分を占めていた服は全部出したから、それなりに余裕はある。
残りは個人用の武器弾薬と食料、インゴット類と素材少々、回復用アイテム程度だ。
回復アイテムとかってこっちでも使えるのかね?
これも調べておかないとな。
ティーガーの収納は砲弾と武器弾薬、燃料とさっきのヒュドラだから、ヒュドラが容量を食ってるんだな。
骨とか頭とか使い道が無いようなら、後で処分だな。
そこにティーガーのエンジン音が響く。
時計を見ると、予定の五分前だ。
敷嶋が全ての連絡と準備を終わらせたのだろう。
操作盤をしまうと、ティーガーへと向かう。
整備中で片膝を付いた待機姿勢のティーガーによじ登り、上部ハッチから車長席に滑り込むと、敷嶋が分かるか分からないか程度の、小さな満足げな笑みを浮かべている。
「よくやった、敷嶋」
「はい、全員が準備完了、いつでも移動可能です」
「宜しい」
ハッチから顔を出し、ニヤニヤしながら見ているおやっさんに声を掛ける。
「我々はちょっと東の様子を見てきます。夕方までには帰りますので、他の車輌の受け入れをお願いします」
「おおよ、任せろ。本当なら、ワシも乗ってティーガーが動くのが見たいんだがな」
「申し訳ございませんが、それは受け入れられません。ですが、整備に戻ってきてなら同乗は許可しますよ」
それを聞いた瞬間、おやっさんがガバっと喰いついてくる。
「本当か!」
「ええ、約束します」
「絶対だぞ、それができるなら魔法なんてナンボでも教えてやらぁな!」
「では、ちょっと東の様子を見てきますので、うちの子たちの案内頼みます」
「おおよ、任せろ!」
おやっさんは興奮で飛び跳ねながら、停めてあった508CMに飛び乗り、大慌てでエンジンをかける。
あまりにも慌てていたのか一度エンストさせて、何とか再始動すると、今度はクラッチの繋ぎをミスったのか、車をガクガクと振動させながら、それとは対照的に滑らかな動きで接近してきた装甲指揮車を先導して町へと向かう。
その後に続くドラゴンワゴン、両方の車に手を振って丘の陰に消えるまで見送ると、ちょうど予定時間になった。
「素晴らしい、完璧な仕事だ、敷嶋」
「ご主人様のメイドとして当然です」
「宜しい、それでは戦車前進!」
指示に従って敷嶋がティーガーのアクセルをゆっくりと踏み込む。
ティーガーが立膝状態から静かに立ち上がり、少し前屈みの移動姿勢を取ると、脚後部の履帯が地面を噛みこむ。
更に膝を曲げることでつま先のスパイクを僅かに浮かせ、履帯に荷重を掛けると、ゆっくりと履帯に動力を伝えて行く。
ゆっくりと動き出すティーガー。
下が荒れ地にも関わらず、履帯の広さと優秀なサスペンション、そして敷嶋の優れた操縦によって、路面の悪さを感じさせない快適な動きで加速していく。
「目標は?」
「まずは道に沿ってこのまま東へ。今の町……えーっと名前なんだっけ?」
「アウグスタ市ですね」
「そうそう、それだ。アウグスタが本当にトブルクだとしたら、この道沿いに東に真っすぐ進めば五〇キロほど先にガンブット基地があって、更に五〇キロ先に軍港があるバルディアがあるはずだ。今は海が後退しているから、港は使われていないだろうが」
「偵察は如何いたしましょうか?」
「鷹の目を出して周辺警戒を行うと同時に、もう少し進んだらⅡ号L型と朝日を呼ぶ」
朝日は敷嶋に続く古参メイドで、どちらかと言えば演算力に長けて副官的立ち位置の敷嶋に比べると、前線指揮官的能力に優れている。
素早い判断力と果敢な行動力、優れた動体視力と高い操縦能力、沈着冷静な性格を兼ね備え、先行単独偵察や別動隊を任せるのには打って付けだ。
「……朝日ですか」
「ん、何かあったか?」
敷嶋が微妙に口ごもったので、思わず聞き返す。
「いえ、彼女にはもっと大型の方が向いているのでは、と思いまして」
……何だろう、それだけじゃなく、何か隠しているような。
でも、ゲームだとこの二人の相性が悪いとか無かった……というかアシスタントの相性は設定されていなかったわ。
「そうだな、偵察には八嶋の方が向いているか」
八嶋は敷嶋の妹分と設定されたアシスタントで、全体に小柄でスリム、子供っぽい所があるがその分敏捷性が高く、猫のような気まぐれさとしなやかさを持っている。
朝日のような前線指揮官能力には欠けるが、小型で機動力のあるゲシュペンスト向きでもある。
「はい、それが宜しいと思います」
敷嶋が明らかにホッとした表情を浮かべる。
……これは単純に二人の相性が悪いのか、それとも何か敷嶋の勘が、朝日に別動隊を指揮させなければならないような事態が起こるとでも告げているのか、はたまた別な理由があるのか、気になるな。
ちょっと敵情を視察して、油断してそうなのを数体ぶん殴って戻るつもりだったけど、気は抜かないようにしよう。
ティーガーをやや南に曲がった道を東に向けて進ませるが、この道だけが唯一この周辺では舗装されている。
舗装と言っても多くは、砕石を敷き詰めてそれをローラーで押し固めたマカダム舗装で、コンクリートやアスファルトを使った所はごく限られている。
とはいえ、道の左右もなだらかな斜面の荒れ地が広がっていて、そこに縦横に轍が連なっている。
ゲシュペンストならば、この辺りは道路を進むのと同じぐらいの速度で走行可能だし、車でも揺れはするがそれなりの速度を出せるほどである。
というのもこの辺りの地形は、一般的に砂漠からという言葉から連想される、ラクダが歩いていそうな細かい砂からなる砂丘が連なっているのではなく、岩の台地が続いているだけで、砂や小石は所々に薄っすらと積もっているぐらいしかない。
また道路の近くには、タマリスクと呼ばれる小さな木や短い草が固まって生えている所もあり、大体その辺りは枯れ川の跡で、障害物らしい障害物はほとんどない。
せいぜい、道路沿いに風を防ぐのに作られた石垣が障害になる程度だ。
史実ならば、道に沿って電信柱が道標のように並んでいたが、この世界ではそれらは破壊されてしまったのか、それとも最初からないのか、全く見当たらない。
同じような景色が続くので、油断すると今どこにいるのか全く分からなくなってしまう。
道は元々は海抜一三〇メートル程度の丘の上を通っていて、海岸に向けて無数の浸食谷が道と直角に走っている。
道はこの谷を避けるために、結構ぐにゃぐにゃと曲がっている。
トブルク改めアウグスタ市は海岸近くにあり、そこから内陸側に向かって緩やかに一五〇メートルぐらいまで登っているが、この先のガンブットはその台地がだんだん細くなって行き、最後に舌のように突き出した、その突端に位置している。
その周囲は崖になって一挙に五〇メートルほども下がっており、内陸側は一度低地を挟んで再び断崖となっており、その先は一六〇メートル以上の広い台地が続いている。
内陸の台地とアウグスタ市から続く台地の間には深い谷があるが、ガンブットの手前一〇キロほどの位置で一度繋がっている。
こういった地形なので、ガンブットは東から攻めてくる敵に対し、丘の上から一方的に攻撃ができる極めて戦略上重要な要衝となっている。
日本でも有名な所では大阪城とかが、その舌状台地の先端に城を設けているように、史実でもここに基地がおかれたのも納得の地形だ。
南側の台地の方が高さがあるのがやや気になるが、あちらは南にずっとひらけているから、守るのには適していないんだよな。
それ以前に昼間は死ぬほど暑いし、夜は極寒になるから、ちょっと勘弁して欲しい。
史実での航空基地は、そっちの方にあったというから、多少は大丈夫なのかもしれないが。
そう言う意味でも、是非ともこの地は確保しておきたい。




